人間国宝・桂米朝師のこと…上方落語とお坊さん ② | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

 桂米朝師が演じる上方落語の中で、私が子どもの頃から好きだったのはやっぱり旅ネタで、「地獄八景亡者戯」「七度狐」「愛宕山」「宿屋仇」などを好んで聞いた。お坊さんになって托鉢行脚の旅に出た時は、自分が物語や落語の世界の旅人になったようで、とても嬉しかったものだ。

 「七度狐」に出てくる「庵主(あんじゅ)さん」という言葉だとか、夜通しお寺に参籠することを「通夜」と言い、葬儀の通夜を「夜伽(よとぎ)」と言うことなどを、子どもの時にはわからないまま聞いていたのに、お坊さんになったら、自然と理解できたのも嬉しいことだった。

 「愛宕山」で慣れぬ山道に意識朦朧となった幇間(たいこもち)の一八(いっぱち)が、「洞川(どろがわ)で陀羅助(だらすけ)買うて来て~」と呻くシーンがある。今も行者宿が立ち並ぶ大峰山の門前町、洞川温泉では胃腸薬の陀羅尼助、略してダラスケが売られているが、大人になった自分が比叡山陀羅尼助を愛用することになるとは、昔は思ってもみなかった。

 最近は小咄や対談で高座に上がられることが多いが、4、5年前に、「もう最後までちゃんと喋れるかどうか、わかりまへんが…」と言いながら話し出された上方落語屈指の名作にして、米朝師の十八番、「たちぎれ線香」を初めて生で聞いた時は、本当に身震いするほど感動したものだ。




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