タイとインドの日本食…海外の日本食事情 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

 タイのお寺での修行中、何度か日本料理店でのお供養に預かった。当時はまだ、日本食は高価な外食だったけれど、失礼ながら、さしておいしいものだとも思わなかった。

 お寺にお供養で上がったパックのお寿司を、他のタイ人のお坊さんたちが私に勧めてくれたこともある。折角の好意を無にしないようにと、カピカピのお寿司をさも嬉しそうに食べたものだ。

 時は移り、今やタイのどんな地方都市にも日本食レストランがあって、タイ人たちで賑わっているし、寿司を置いていないスーパーなどは、タイにはもう無いだろうと思う。スクンビットに行かなければ、日本食材が手に入らない時代では、最早なくなった。

 さて、インドでたった一度、日本食レストランに入って大失敗した話は前にも書いた。
南インド チェンナイ 日本料理店の悪夢

 ブッダガヤの日本寺では、昔は日本人団体に日本食を供する必要があったのだが、調味料以外は現地で手に入る食材を使い、なおかつ精進料理という制約の中で、どんな日本料理が可能かを考えるのは、結構楽しい作業だった。
 
 例えば、インドのカレーをルーに仕立てて、日本風のカレーライスにするというのは、まあうまく出来たのだが、私はタイにいる時に、ケーン(グリーンカレー)で同じことが出来ないかと、想像したことがある。戒律上、タイのお坊さんが料理を作ることは出来ないので、想像止まりだったが、実行していたら、さぞ、えげつない味になっていたことだろうと思う。

 私はタイ料理もインド料理も好きなので、ずっと日本食が食べられなくても、一向に構わないのだけれど、海外で暮らしている日本のお坊さんの中には、現地の食事が口に合わなくて苦労している人が結構いる。体質も嗜好もあることなので、決して修行の心構えが出来ていないせいだとばかりは言えないから、長期バックパッカーのように、日本食を食べたがる日本人旅行者を笑うつもりは、さらさらない。江戸川柳にも、「遣唐使 後は茶漬けを 食いたがり」とある通りだ。