カンボジア巡礼の頃 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

 タイで修行中の頃、カンボジア巡礼の旅に出た。

 同じ留学僧育英会の先輩で、プノンペンのワット・ウナロムというお寺で日本語教室を運営している渋井修氏は、現在は還俗しておられるが、私がカンボジアを巡礼した頃はまだ上座部僧でいらっしゃった。ちょうど所用で留守をするから、自分の僧坊に泊まってくれたらいいと、バンコクで出会った時に仰って下さっていたので、好意に甘えて日本語教室の生徒たちの世話になりながら、カンボジアの若い僧侶と話をしたり、境内にある2年前に亡くなった中田厚仁氏の墓に詣でたりして日を過ごした。
 
 アンコール・ワットでは、私を現地のお坊さんだと思った日本人団体が「いいじゃん、撮っちゃおうよ」などと言いながらカメラを向けて来たりしたが、当時はまだカンボジア情勢が落ち着いておらず、観光客の数も今よりずっと少なかった。

 タイに戻ると同じお寺のロシア人僧侶が話を聞きに来た。私たちはロシアや日本やカンボジアの仏教について語りあい、彼はまた、最近ロシアで流行っているオウム真理教とはどんな宗教かと聞いて来たので、私は私の知識の範囲内で私なりの見解を述べた。時は1995年、日本で地下鉄サリン事件が起こる、僅かにひと月ほど前のことだ。