人魚の正体がジュゴンと聞いて、全然似てないじゃないかと思った人は多いと思うが、人魚にはマーメイド型と人面魚型の2種類があって、中国の山海経には両方見えているが、ジュゴンやマナティーに比定されるのは後者だ。日本の八百比丘尼伝説に見える人魚の肉は美味だったらしいが、現に海牛類の肉は大変おいしいらしい。
ライオンを見たことのない人がライオンを初めて見たり、話を聞いたら唐獅子のような生き物をイメージしてもおかしくない。ジラフは麒麟に、コモドドラゴンは龍に、犀は一角獣になったことだろう。平家物語に見える鵺(ぬえ)だって、異国の珍獣だったかも知れない。鵺が退治された後、疫病が流行ったというのも、熱帯の生き物が伝染病に罹っていたのかも知れない。日本の昔話や伝説には、川や沼に住むヌシがしばしば出てくるが、実際に魚類には年を経て巨大化するものがあり、日本を始め、世界中で時折、巨大魚捕獲のニュースが伝えられる。
京都市や大阪市には鵺を埋めた鵺塚が、京都府には酒呑童子の首塚が、栃木県には九尾の狐が退治されて化した殺生石が、島根県には八俣大蛇の首を埋めた八本杉という史跡がある。
高野山近くの苅萱堂には人魚のミイラが、飛騨の念興寺には鬼の首の頭蓋骨が、大分県宇佐市の大乗院には鬼のミイラが祀られているが、良くできているなあ、というのが偽らざる感想。
洋の東西を問わず、妖怪や架空の生き物は豊富に存在するが、日本はアジアの中でもことさら国民の妖怪関心度が高い国だと思う。
※4月9日付「アジアの妖怪①」もあわせてお読み下さい。尚、澁澤龍彦の「高岳親王航海記」という小説は、異国の文物がみな妖怪として認識された感覚をよく伝えてくれます。