COURAGE UNDER FIRE (1996)
湾岸戦争が起こったのは1991年。
就職した年で、自分も大人やったから、その記憶は鮮明にあります。
生きてきた中で、初めて‘戦争’というものをリアルに実感したのが この湾岸戦争やったと思います。
当時の実際にあった映像で幕を開ける本作。
その出だしの映像が、ボクもニュースで確かに見たことがあった映像やったから、
いきなりリアルなニオイを感じる作品になっていました。
ただし、本編映像に入ると、ハリウッド映画的になりますが。
戦車部隊隊長のサーリング中佐(デンゼル・ワシントン)が自身の判断ミスによって
仲間の戦車を誤射してしまうシーンからスタートする本作は、
その中佐の苦悩を軸としながら、もう一つ大きなストーリーが絡んで 目が離せない展開になります。
名誉勲章の候補者を調査することを命じられた中佐が、
その候補に上がった勇敢な行為で死亡したウォールデン大尉(メグ・ライアン)の医療班の
兵士たちに当時の話を聞いていくうちに浮かび上がる疑問。
大尉が勇敢な行動力で仲間の兵士を救助した模様が何度か回想シーンとして流れますが、
証言によって その回想シーンに変化が出てくるのが見もの。
大尉が勇敢ではなく臆病だったという真逆な証言まで飛び出し、
事実がどうだったのか全く分からなくなってくる展開は、サスペンス的な雰囲気にもなってくるので
戦争映画が苦手な方にもオススメできるかもしれません。
デンゼル・ワシントンの素晴らしさは言わずもがな。
メグ・ライアンが様々な回想シーンでキャラクターを演じ分けているのも見応えがあります。
ロマコメの女王だった彼女が、本来のイメージとは反対の軍人役を演じ切っているのが素晴らしい。
証言する兵士の一人として、ブレイクする直前のマット・デイモンが出演しているのも注目。
今観るとすごく痩せてて、それが繊細な役柄に合っていていいです。
もう一人、他とは大きく異なった証言をする兵士を演じたルー・ダイヤモンド・フィリップスが見事な熱演。
本作における彼の演技は記憶に残る素晴らしいもので、
当時、アカデミー賞にノミネートされてもいいのに(!)と思ったほどでした。
軍の隠蔽体質で自身の贖罪もままならないまま、
新たに与えられた職務で、また 軍内の暗部に近づいて行ってしまう中尉の苦悩する姿は、
正義感溢れる役が似合うデンゼルが演じることで、その強い葛藤が胸に迫ってきます。
軍人としての誇りが揺らぐと同時に、家庭人としての自分の居場所も失くしていってしまう。
中尉と妻の姿に切なくなりますが、
本作では全く顔が見えず、劇中でアメリカ軍に多数殺されるイラク兵にも大切な家族がいることを
忘れてはならないと、今さらながら思いました。
本作にはいわゆる‘悪役’は存在しなかったとボクは思っています。
事実を隠蔽しようとする軍の上層部は悪く見えますが、
嘘の証言をした、本来は悪役になるべき兵士も悪人には見えない。
それは、戦火の中では人間は正常な判断はできないと思うからです。
目の前に死の危険が迫ったら、冷静な判断ができないのが普通。
それがたとえ軍の規約を破る行為だったとしても、死にたくないという気持ちから出た言動を誰が強く罰することができるでしょうか?
ウォールデン大尉の軍人としての誇りが、結局は自身の死につながってしまったように見えたのも
戦争の恐ろしさの一つなのかもしれません。
大尉にも大切な一人娘がいたのですから…。
湾岸戦争が起こった時は、イラクの手による油田火災が多数起こり、
日本では節電の議論が巻き起こり、コンビニの24時間営業の是非まで議論になりましたが
今はどうでしょう?
自身の国でほんの数年前に起こってしまった原発事故にすら無頓着に見える政府。
昔と同じ映画を観ても、憂うべき事が増えている現代に不安を感じてしまいました。