『ハイパーインフレの悪夢』 by アダム・ファーガソン | ☆ Pingtung Archives ☆

☆ Pingtung Archives ☆

60代おばちゃんの徒然です。映画やドラマ、本、受験(過去)、犬、金融・経済、持病のIgGMGUSそして台湾とテーマは支離滅裂です。ブログのきっかけは戦前の台湾生まれ(湾生)の母の故郷、台湾・屏東(Pingtung)訪問記です。♬マークは音楽付き。

古い本(1975年刊行)です。

けれども2010年、サブプライム危機(リーマンショック)に未曽有の金融緩和で対応した欧米でこの本が話題となり復刊されました。日本版の刊行は2011年4月。

内容は、1923年に起こったドイツのハイパーインフレー--紙幣の価値が1兆分の1になり、手押し車に山のように紙幣を積んでいかなくては買い物ができなくなったというインフレの、いわばルポルタージュです。

(画像はお借りしました)

 

このインフレがどう発生し、どんな経過をたどり、どう終息したか。

当時の日記、人の証言、各種記録をもとに克明に記されていますが、この本の価値は、それらに混ざって出没する著者による人間の本質を問うつぶやきです。

    

単純に貧しくなっただけなら、みんなで協力して問題を解決しようという気持ちが強まっただろう。インフレ下では、そうはならなかった。インフレには差別意識を駆り立てる性質があり、そのせいで誰もが自分の最も悪い部分を引き出された。

 

    

ヒトラーがインフレを引き起こしたわけではないように、インフレがヒトラーを出現させてわけでもない。しかし、それがヒトラーの台頭を可能にした。あえて言うなら、インフレがなければ、ヒトラーは何も達成していなかっただろう。

 

 

100年前のドイツが辿ったハイパーインフレの症状。

    

一杯5000マルクのコーヒーが、飲み終わったときには8000マルクになっているのだ。

 

    

大食いを罰する法案

 

「常習的に飲食の快楽にふけり、その程度が、惨状に置かれた国民の観点からは、不満を抱かせる恐れのある者」は5年の懲役刑と20万マルクの罰金刑を科す。

 

    

週に一度以上肉を買える家はほとんどない。卵は入手不可能だ。牛乳は品薄で、パンは数日前の値段の16倍になっている。

・・・・・ミュンヘンでは、身なりの良い人たちが高級レストランにあふれ、ワインを飲んだり、最上の食事を楽しんだりしているー--しかし彼らは、地元の人と見間違えられたドイツ系アメリカ人か、ルール地方の産業資本家のどちらかなのだ。

 

    

おおかたの人間は、物価が高騰したのは外国為替相場の上昇のせいであり、外国為替相場が上昇したのは株式市場の投機のせいであり、それらはすべてユダヤ人のせいだと考えていた。

 

ハイパーインフレは、通貨切り下げ(新しい通貨 レンテンマルク 導入)によってようやく終息に向かいます。

それは、この本のメインタイトル『When Money Dies』の時であり、言ってしまえば 死ななきゃ治らない病 だったとも言えます。

    

通貨の安定が訪れたのは、どん底に落ちて、信頼できるマルクが限界まで下がり、4年にわたる財政上の臆病さ、まちがった考え、お粗末な管理で逃れようとしてきたあらゆることが実際に起こり、思いもよらない事態が避けがたく到来したときだった。

*********************************

日本版の復刊から11年経った2022年、円は151円台をつけました。

わがニッポンにも、上記のような事態が襲来しようとしているのでしょうか?

この間の異次元緩和で、日銀が国債を買い入れて紙幣を増発する、の繰り返し。

たしかに今の日本はハイパーインフレに向かっていく100年前のドイツにそっくりです。

 

20年以上も前から日銀破綻、ハイパーインフレ論をとなえ、常にドルを買えと言っている伝説のトレーダー フジマキさんによると、通貨円の信頼が地に堕ちるのは時間の問題。

その日は突然やって来るらしいです。

仮にフジマキさんが正しいとすれば、今や打つ手はないのかもしれません。

 

けれどもひとつ救われるのは、いったん死を迎えた通貨マルクは、割と短期間で立ち直り、ドイツは工業国として目覚ましい発展を遂げ今でもEUのリーダーであるという事実。その陰で流れた血や涙は数知れませんがガーンガーン

 

あてにならない学者やセントラルバンカー、アホな政治家に翻弄されニッポンが焼け野原になったとして、それでも再浮上するためにはいったい何をしたらいいのでしょうか?