世界各地で経済学を教えるギリシャ人が、10代の「娘」に「資本主義」を語った本です。
サブタイトルにある通り、
美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい「資本主義」(著者は「市場社会」という言葉に置き換えています)の入門書です。
娘にはブレグジット、グレグジット(ギリシャのユーロ圏離脱)、トランプ、ギリシャ危機といった話題でなく、資本主義について語りたかった。私たちの人生を支配している「資本主義」という怪物とうまく共存できなければ、結局は何もかも意味をなさなくなってしまうのだから。
金持ちは、自分がカネを持つに値する人間だと思い込んでしまう。君自身も、気づかないうちに矛盾した思い込みに囚われているはずだ。
・・・
赤ちゃんはみんな裸で生まれてくる。高価なベビー服を着せられる赤ちゃんがいる一方で、お腹をすかせ、すべてを奪われ、みじめに生きるしかない赤ちゃんもいる。それは赤ちゃんのせではなく、社会のせいだ。
債券や債権の「償還」の語源についても深い意味があることがわかります。
借りたお金を返すということは「贖罪」するということだったのですね・・・
借金は宗教的な問題だった。
ー--神は「利子」を歓迎している?
利子を含めた借金の返済が、何と呼ばれているかご存知だろうか?
「償還(リデンプション)」だ。
「贖罪」と同じ言葉なのは偶然?まさか。借金と言うのは大昔から宗教的な問題だった。イスラム教はいまでも、利子の徴収を少なくとも表向きは禁じている。・・・キリスト教も利子を禁じていた。「高利貸し」は卑しい職業とされていた。
通念が変わったのは「市場(いちば)のある社会」から「市場社会」に変わったからだ。
著者は、「借金」は市場社会(=資本主義社会)をまわすのに不可欠な要素だという。
ゲーテが描いたファウストの物語で、粗野な欲望に突き動かされて悪事をはたらいたファウストは、約束の期限がくる前に過ちに気づいて「贖罪」する。24年の期限が近づきとうとう「利子」を徴収されるというとき、天使がやってきて「それでも必死に生き、成長しようとする者は救われる」と(利子の徴収の)邪魔をしてファウストを天国に連れて行く。
字面だけ追えば「必死に生き、成長しようとして借金する者は(たとえその借金を踏み倒すことになっても)救われる」というなんとも乱暴なテーゼにも見えます。ひょっとしてこれが資本主義社会の本質ってものなんでしょうか
借りたもの勝ちの資本主義・・・
著者は、「2015年のギリシャ危機時の財務大臣で、EUから財政緊縮策を迫られるなか大幅な債務帳消しを主張し、世界的な話題となった」とあります。
なるほどね。当時のドイツ メルケル首相の苦悩に満ちた姿を思い出します。ギリシャの債務帳消しに際して一番「泣かされた」のは通貨ユーロのリーダー的存在のドイツ。ドイツ人が払った税金でギリシャを救うという苦渋の決断に、通貨ユーロが抱えるジレンマが浮き彫りにされたイベントでもありました。
翻って中央銀行が世界でも突出した債務超過状態にあるわがニッポン。
今日から明日にかけての日銀の金融政策決定会合で決められるのは
現状維持
金利の目標レンジ拡大
YCC(イールドカーブコントロール)解除、
のいずれか。結果次第で、短期的に市場は
強烈な円買い、株売り、債券売り
強烈な円売り
のいずれかに動きそうです。
ひとしきり投機筋の動きが収まった後、市場の審判はどこに向かうのでしょうか。
投機の果てに、ひょっとしたら昨年秋のイギリスに起きたことの何十倍の規模の「日本売り」が始まるかもしれません。
必死に生き、成長しようとして作った借金なら、(この本の上では)どうやら救われる道がありそうですが、過去30年、ひたすらゆるいバラマキのために発行された赤字国債を帳消しにするとしたら、その原資は(アホな政治家を選んで呑気に)バラマキに与ったゆるい国民からまきあげる、てなことになりそうです。