「関心領域」 | 夢の彼方に

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折に触れて鑑賞している様々なライブやアート、スイーツについて
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「関心領域 (The Zone of Interest)」を鑑賞しました。
第96回アカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞の2冠を受賞した作品で、「音」にこれほど拘り、これほど衝撃を受けた作品はありません。オープニングでタイトルが出た後、オ~~という抑揚のない合唱と伴奏の音がバックに流れる中、スクリーンは黒一色となり、それが約3分間も続く。

時は1943年、青い空と緑の芝生にプール、色とりどりの花が咲き乱れる美しい花壇や温室、庭で催されるパーティー・・・そこにはとても穏やかな上流階級の家族の日常があった。誰もが笑顔で子供たちの楽し気な声が聞こえている。しかし、鉄条網が付いた塀の向こう側にある大きな建物からは黒煙が上がり、女性や子供の泣き声が聞こえてくる。そこはアウシュビッツ収容所であり、その家族は収容所の所長であるルドルフ・ヘスの家族だった。彼らが交わす日常会話のバックには、常に焼却炉のゴォーという音が流れている。しかし彼らはそれらの音に慣れてしまっていて、全く気にも留めていない。新たな収容者から奪い取った毛皮を着るヘス婦人、歯磨き粉の中に忍ばせていたダイヤモンドを見つけて喜ぶメイドたち、入れ歯の裏側を探る子供たち。やがてヘスの昇進でベルリンへの異動を命ぜられるが、妻はここが理想の家であり、ここを離れるつもりはないとこれを拒否する・・・。

全編を通して流れる焼却炉の音、銃声、汽車が迫る音、犬の遠吠え、そして苦痛にゆがむ悲鳴・・・。収容所内部の映像は一切使わず、「音」のみで人類史上最も凶悪な暴力が、塀の向こう側から聞こえており、それを想像するだけで全身が総毛立つ。終盤で、ヘスが階段を下りながら嘔吐するシーンから、画面がいきなり現代にジャンプし、今は博物館となっている元アウシュビッツ収容所で、館内を清掃する職員の姿が映し出される。それが何を意味するのか?それは、観る者に委ねられているのだろう。