なんだか周囲の空気が緊張に包まれた。
「あの、」
彼がいったい何を言い出すのか。
ドキドキと心臓が音を立てる。
「・・はい、」
神妙に言葉を待つ。
しばしの間。
その時。
真緒の携帯がけたたましく鳴った。
二人で思わずビクっとしてしまった。
「もしもし。 あ・・はい。お疲れ様です。ああ、そうなんです。ちょっと転んで。捻挫しちゃって。ああ大丈夫です。病院も行きましたし。たいしたことなくて・・。すみませんご心配おかけして。 え? ああ工房の方はね。よかったですよー。あ、見てもらえました? 細かい所はまたこれからまとめるので。ハイ、ハイ。 わかりました。だいじょうぶです。 失礼しまーす、」
「高原さんですか?」
「はい。あたしのケガのこと連絡してくれてたんですね。心配して電話くれて、」
「はい。一応・・。」
「あたし、ホクトでバイトし始めた時。会社の電話も取ったことなかったから。いきなり『もしもし~?』とか出ちゃって。よくここまでなれたわーって、」
それには笑ってしまった。
「家じゃないんだから!とか言われて・・」
と二人で笑ったところで
いや
じゃなくて!
今彼はいったい何を言おうとしたの?
真緒はそれを思い出しハッとした。
「あ、あの・・」
今度は真緒から声をかけると
「このウニのカクテルが入った器。すごくデザインが変わっていて素敵ですね。こういう形って洗いずらいんですけど食洗器あれば大丈夫ですもんね。どこの器か一応スタッフさんに聞いてみましょうか、」
初音はそのガラス食器をかざして言った。
「あ・・そう、ですね・・」
か、かみ合わない会話!
ものすごい消化不良な感じでそれは終わってしまった。
緊張で忘れていたが、食事が終わるころに足が猛然と痛み出してきた。
「なんか・・腫れてきた・・」
左足をさすった。
「え!なんかゾウみたいな足になってる!」
さすがに驚いた。
初音が慌ててしゃがんで見た。
「腫れてますね。痛み止め飲んだ方がいいかもしれないです。フロント行って氷嚢借りてきます。冷やした方がいいでしょうから。」
「え、あ・・」
慌てて出ていく初音の背中を見送った。
・・なんだったんだろ。
やっぱりさっきの続きが気になった。
すごく思いつめた表情をして重大な何かを言おうとしている気がした。
ぼくはダメな人間なんです
そう言った彼の表情も同時に思い出した。
初めて会った時は
こんな完璧な人いる?
と思ったけれど。
こうやって彼のことを知るうちに
なんとなくもがいてはいるもののどうしていいかわからずそのまま流されている
という彼の弱い所もチラチラと垣間見えるようになった。
なんとなく言いたいことが言い合えずじれったい二人・・
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