「最近は。それが重いなあって思い始めて、」
水を出す音にかき消されないように天音は少し声を張った。
「重い・・?」
真緒はまた首を傾げた。
「なんていうのかな。おれや父ちゃんのためにって兄ちゃんが何も好きなことやらずにいることが。重いって思うようになって。もっと自由になればええやんて思うんですけどー。なんか今さらそれもでけへんのやろなって思うと悲しくなって。・・のくりかえし。頭が良くて仕事もできて背が高くてイケメンで優しくて。弟の自分から見ても不足のない人なのに。寂しい人やなあって。」
その言葉が真緒の心を揺さぶった。
「ああみえて。すごく臆病なんですよね。おれはけっこう好奇心あってすぐに飛び込んで行ける方なんですけど。あの人は絶対にそういうことはしない。このまま一生幸せになれないんやないかって、」
食器を洗い終わって天音は手を拭いて戻ってきた。
「・・ていう人なんですよ、」
そして真緒の前にまた座り直して改めてそう言った。
ぼんやりと彼の話を聞いていた真緒はハッとして
「・・いや。あたしに言われても・・」
狼狽してしまった。
「それもこれも色々苦労しすぎて何かをやる前にその未来を勝手に想像してしまってやる前に諦めるっていうか。おれもそんな兄ちゃんにイラっとしましたけどー。でも。そんな兄ちゃんの心を変えてくれる人が現れるって信じてるんで、」
「・・そんな真っすぐ目を見て言われても、」
天音の真剣さにややおののいた。
「・・おやすみなさい。」
そして彼はスーッと部屋を出て行ってしまった。
「・・いちいち。なんなのよ。アレは。」
真緒は思わず独り言を言ってしまった。
しかし。
部屋に戻ってベッドに横になると。
彼に会いたくて会いたくてたまらない自分に気づいてしまう。
『寂しい人やなあって、』
天音の言葉を思い出すだけで胸が苦しくなる。
翌日。
真緒はホクトの休憩室でぼーっと窓から外を見ていた。
初音と津軽と小樽への出張まであと1週間。
さぞかし寒いんだろうなあ・・
あたし寒いの超苦手だし。
ダウンの下にカシミヤのセーター着て行こうかな・・
雪降ってるだろうしスノーブーツ履いて行っちゃおうか。
なんて考えていると
「お疲れ、」
声を掛けられ振り向いた。
高宮が缶コーヒーを飲みながら隣に座った。
「ああ。お疲れ様。」
「ぼーっとしちゃって、」
「まあ。あたしがこうやってボーっとしてる時って。たいしたこと考えてないんだけどね。今度津軽と小樽行くから何着て行こうかなって、」
資料をトントンと整理した。
「ああ。カフェ関係の出張?」
「うん、」
そこで高宮はしばし黙り込んでしまった。
『計算』でしょうが天音は真緒に初音の性格や苦労をとうとうと話をします・・
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