「あの、さ。」
含みを込めたように高宮は話し始めた。
「ん?」
真緒は生返事をした。
「この前の話なんだけどー・・」
「・・この前?」
ようやく高宮を見た。
「あの。野々村さんのお兄さんの話。」
ドキっとした。
「・・あー。」
見るからに動揺して視線を外す彼女に
「なんか。おれ興味本位な感じで言っちゃって。ごめん、」
「あ。ううん。あたしもちょっと気になって。お父さんに聞いてみたんだけど。 さすがに覚えてなかったみたい。『だからなんなんだ?』って逆に言われちゃって。」
エヘヘと笑う。
「おれも。自分の思い違いだったら・・申し訳ないなって思って。余計なお世話かもしれないけどあれからちょっと調べちゃったんだ・・」
その言葉にさらに驚いて彼を見た。
「高野楽器の高野有希子さんは。音大でピアノやってて。とある男性と出会って。駆け落ちしたらしい。」
高宮はコーヒーを一口飲んだ。
「高野楽器とウチは繋がり深いし。同じ広告代理店の同じ担当者の人がいて。この前仕事でその人と会ったんだ。その時・・」
真緒はゴクっとツバを飲み込んだ。
「その駆け落ちの相手が。野々村直人さんというHIRAIの調律担当の男性。 表立って騒がれたわけじゃないけど。当時ちょっと業界では話題になったらしい。野々村直人さんはその後あの設楽啓輔さんお気に入りの調律師さんになるんだけど。『神の耳』を持つ男とかなんとか言われて。とにかくスゴ腕の人だったって。恐らくその調律の関係で知り合ったんじゃないかな。まだ20歳の高野のお嬢様はその彼について浜松で暮らし始めた・・」
真緒はジッと高宮の話に耳を傾けた。
「そのあと。野々村さんの実家が丹波篠山で農家をやっていて。事情があって一家で帰って農業やってたらしい。20年くらい前にどうやら離婚して高野有希子さんは実家に戻った。子供は野々村さんのもとに置いて。この辺は噂レベルになってしまうんだけど有希子さん、心を病んでしまって。それからしばらく入退院を繰り返して療養してたらしい。やっぱり高野のお嬢様に農業なんか土台無理だったんじゃないかってその代理店の人は言ってたけど。今はもう良くなって。10年くらい前から高野で仕事をし始めて。今は副社長・・なんだけど。その『息子さん』て人のことも一時噂になってたらしい。」
「・・噂・・?」
真緒は恐る恐る聞いた。
「おれが彼を見かけたって頃。高野で仕事してたらしい。当時音楽メディアがダウンロード全盛だったころ、『音楽のサブスク』アプリ開発を日本でいち早く始めた企業のひとつが高野楽器だった。もともと権利関係に強かったから。あとはソフトだけってことになって。『ASHURA』の土台になるシステムをシンガポールの会社から権利を買って。それを日本人の好みに合うよう使い勝手よく改良して。」
なんだか遠い話をされているようで。
真緒はテーブルに載せた手をぎゅっと握った。
徐々に明らかになる初音の過去・・
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