「おれだけ。なんも知らんと。アホみたいに・・仕事さしてもらってたん・・?」
天音は語尾を震わせて兄を見た。
「それは。初音がおまえのことを思ってのこと。おまえが東京に行く前にこのことを話すか初音と話し合った。でも、」
父が兄をかばった。
「いや。おれが。怖かったんや。自分があの時意地を張らずに高野に天音を行かせてたら。って思ったら。天音の反応も怖かったし自分の選択を間違えたことを思い知るのも怖かった。・・言えへんかった、」
初音は少し鼻をすすった。
おれ
なんなん・・?
天音は自分だけ何も知らされずのうのうとやりたいことやって。
今も父や兄に守られて、運よくセリシールで仕事できて学校にも通させてもらえる。
おれだけ・・
「・・おかしいわ、」
天音はうつむいたままポツリと言った。
「え、」
「おれだけ。なんも知らんと。やりたいことやって!兄ちゃんも父ちゃんもたくさん我慢して。おれのためになんて言わんで欲しい!」
気がついたら大きな声が出ていた。
「高野に引き取られていたら。何不自由なく生活できて金のこと考えずにやりたいことやれて、とか!いまさら何言うてんの??おれの人生なんやと思ってんの?」
天音の反応は初音が恐れていたものだった。
おれの人生なんやと思ってんの
その言葉がナイフのように突き刺さる。
「・・ごめん、」
初音は堪えていたが目の端に涙が浮かんでしまった。
天音はバッと立ち上がり居間から自分の部屋に移動してしまった。
襖を乱暴に閉める音だけが響いた。
ジッとうつむく初音に
「ごめんやなくて。おまえのせいちゃう言うたやろ。まずおまえの気持ちから立て直さんと、」
父は声をかけた。
初音はぽろっと涙をこぼして
「・・おれに。罪を負わせてほしいから。天音に打ち明けさせてほしかった。苦しみから解放させてほしかった。・・おれの勝手で、」
慌てて頬をぬぐった。
父はそれ以上何も言えなくなってしまった。
アホ!アホ!
兄ちゃんとお父ちゃんのアホ!!
天音は部屋で寝転がりながらやり場のない怒りを心でつぶやいた。
なんで。
なんであんなこと言うん?
おれのことをいつまでも子供扱いして!!
その晩
天音は全く眠れなかった。
初音も。
父も。
自分だけ何も知らずにやりたいことをやってきたことを知った天音は兄と父を責めてしまいます・・
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