「・・なんも。口をきかんようになって。具合が悪くなって起きれんようになって。病院に行っても悪いトコない。原因がわからんくてな。夜中ずっと眠れずに起きて外でボーっとしたり。独り言を言うようになったり。神戸の大きな病院に連れて行ったら・・ 『適応障害』やて言われて。」
父はその時の母の様子を口にするのもつらそうだった。
「適応、障害?」
天音はポツリと言った。
「慣れない貧乏暮らしと疲労で。精神が壊れてしまった。鬱にもなってお母ちゃん一人にさせられんような状況になってな。とにかくずっと寝付いてしまって天音の面倒さえ見れんようになって。」
自分に母の記憶がないのは。
物心がつくかつかないかの頃ほとんど母が寝付いていたからだったのか。
天音は何となくそこに合点がいった。
「初音も学校を休みがちになってしまって。もうこれはイカンと。」
父は少し声を張った。
「・・高野の家に連絡を取った。」
何だかどんどん体の力が抜けて行った。
自分の家のことなのにどこか他人事のようで。
ドラマのあらすじでも聞いてんちゃうかな
天音は俯瞰で父の話を聞いている自分に気づいていた。
「ここに。社長来てくらはってな。お母ちゃんの様子を見て。『娘を引き取りたい』て。お父ちゃんのことは責めずに自分があの時ワシらの結婚認めてたらこんなことにならへんかったって言わはってな。 もう申し訳なくて顔上げれへんかったわ、」
天音はここでようやくあの時高野のホールで出会ったあの人が
母親なのだ
と気づいた。
どこかで会ったような気がする
と思ったのは自分の記憶ではなく
兄の初音に似ていたからだったことにも気づいた。
「お母ちゃんの病気が良くなるのには時間がかかる。高野社長はワシを責めずにいてくれた代わりに離婚をするよう勧めてきた。
それが一番いい、と。なんの心配もなく療養させるためにもと。
子供二人も一緒に東京へ連れて行くと。」
ハッとして顔を上げた。
そこで父の言葉が止まってしまった。
その時の思いが溢れてしまったかのように。
するとずっと黙っていた初音が。
「おれの、せいや。」
ぽつりと言った。
「は・・?」
天音もようやく言葉を発することができた。
「おれが。自分と天音を高野に連れて行くことは許さない、と高野社長に言うた。」
語尾が震えた。
天音は両親の離婚のいきさつに驚きを隠せません。そして初音が・・
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