「農作業はキツい。休みもない。お父ちゃんは覚悟はできていたけど。お母ちゃんはほんまに大変で。畑仕事のほかに家事育児。じいちゃんも難しい人やったから・・それも大変で。お父ちゃんそれでも調律の依頼もあったから出かけることも多くて。その間ほんまにお母ちゃん大変やったと思う。それでも文句ひとつ言わず頑張ってた。浜松にいたころよりも金銭的にも大変でな。」
父の声が静かに響く。
「そして。天音も生まれたんやけど、初音が小学校5年の頃、じいちゃんがガン患ってな。その介護まで加わってなあ。今みたいに介護を人に頼むとかそういうのもできない時代で。お母ちゃんがほぼひとりで頑張ってた。じいちゃんが亡くなったあと、お父ちゃんなんとかせなアカンて思って。大きな農作業のトラクター、リース契約して。でもそんな金もないから借金して。それでもそれで少しは楽になるって思ってたんやけど。」
ドキドキした。
この先を聴くのが怖かった。
「初音が中学に上がって。天音が3つくらいの時か。夏にものすごい雨があってな。三日三晩降りっぱなしくらいの。あそこの川、氾濫した。」
家のすぐ近くが川で。
それでもそんな大きな川でもなくいつもは本当に静かな川。
「リース契約してたトラクター。流れてしもて。家もあのテレビの上くらいまで水上がってしまってな。畑もなんもなくなって。」
3歳だった自分は記憶すらなかった。
「しばらく佐知子おばちゃんトコ居候させてもろてな。みんな協力してくれはって家は何とかもとに戻せたけど。トラクターの保障入ってへんかって。借金残ってな。畑も一からやり直しになってしまったし。もう途方に暮れて、」
その時のことを父は思い出したのか少し声が震えた。
「お母ちゃん、それでも頑張ってた。内職したり他の農家の手伝いをしに行ったり。 ある時、お母ちゃんの手見たらな。もう指に泥が染みついて、ひび割れて。高野のお嬢さんとしてピアノを弾いてた手えやなくなってたんよ。それ見たらなんか・・涙出てきて。」
初音はその頃の両親の苦労を昨日のことのように覚えていた。
自分も学校から帰ったら父を手伝って畑を復旧したり、天音の面倒をみたりしていた。
父は設楽啓介に気に入られ、彼が日本に戻ってくると必ずピアノの調律を頼まれた。
正直その時の収入もありがたかったので出かけざるを得なかった。
そして。
母が
壊れた。
慣れない暮らしに懸命に適応しようとした母が自然災害が追い打ちを掛けます・・・
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