ようやく体の痛みが取れて何となく彼女の部屋を見まわした。
金持ちのご令嬢の部屋とは思えない地味な部屋だった。
いや地味ではなく。
全体的に和風に作られていて壁にかかった小さなリトグラフの絵や出窓に飾られた和テイストの花瓶や陶器の人形などがあって思わずほっこりとした笑みがこぼれる調度品ばかりだった。
カーテンやベッドカバーの色や布地も統一感あって一目で彼女のセンスの良さがうかがえた。
「とても。いい部屋ですね、」
思わずそう言うと
「いちおう名の知れた会社の社長令嬢だけど。そんな派手な生活はしてないのよね。お金は目立たないところに掛けたり。ブランド品も小物とか。顔も派手なんで誤解されやすいんだけど。」
ゆかりはクスっと笑った。
「ま。あたしの育て方が良かったんじゃない?」
それには何となく笑ってしまった。
その晩は1階の会長夫妻の家のゲストルームに泊まらせてもらった。
ベッドに大の字に寝転んだ。
今日一日。
彼女という人を見せつけられた気がした。
人に歴史あり
か。
酔っぱらった彼女が発した言葉を思い出す。
ほんまやな。
誰にでも
何かしらある。
何か抱えてる。
自分だけが不幸だと思ったことは何度もある。
なんでおれだけ。
こんな苦労せなアカンねん。
誰のせいやねん。
いい子の仮面に疲れて。
何もかも捨てて逃げ出したくなったこと
本当は何度もある。
広いゲストルームの天井を見る。
こんなに金持ちで。
何不自由なく暮らしていただろう人も
心にシミを抱いている。
「だいじょうぶ、ですか。」
翌朝のそっと朝食の場に現れた真緒は顔色があからさまに悪かったので初音は心配そうに尋ねた。
「・・ええ、」
ボソっとそれだけ言って
「お水、ください・・」
とお手伝いさんに死んだ目で訴えた。
「もう。昨日は野々村さんが一緒だったからよかったものの。女の子が前後不覚になるまで飲んだりしたら危ないじゃない、」
ゆかりは口を尖らせた。
それには
「飲みたかったんですっ!!」
挑戦的に母親を睨んだ。
運ばれてきた水を一気に飲んで
「・・というわけで、」
と言い出した真緒に
「どういうわけよ、」
ゆかりは冷静につっこんだ。
「別になんもかわりませんから。お父さんお母さんも言いたいことは山ほどあると思うけど。でも。今何をしても何が変わるわけでもないし。あたしは普通の人がなかなか経験できないことを経験したな、と今は思う。」
打って変わってしっかりとした口調で両親に言った。
北都は黙って食事を摂っていた。
ゆかりは少し考えて
「あのさ、」
神妙に口を開いた。
「なに?」
真緒はうざったそうに返事をした。
「・・すごい寝ぐせよ。ちゃんと直していった方がいいわよ、」
真剣な表情でそう言われて、真緒は少しぎょっとした表情をして頭を撫でつけた。
「こ、これからシャワー浴びてから行くから。そんな心配してくれなくて結構です!」
慌てて立ち上がった。
初音は恵まれた境遇にあると思っていた真緒にもつらい過去があったことを知り・・
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