「おはようござ・・」
小和が事務所に入っていくと、ドアを開けた途端
「うっ・・」
異様な匂いに鼻を押さえた。
見ると加治木がデスクでまた納豆をパックのまま食べている。
「もーーー、カジさん! 密閉空間で納豆やめてくださいって言ったじゃないですか・・」
「朝飯食ってないし、」
「糸引いてる! 書類につくから!」
慌てて彼のデスクの上の書類をどかした。
「こっちの納豆って小粒ですよね・・ おれは大粒のヤツのが好きだけどなーー、」
パソコンを操作しながら天音が言う。
「丹波にはね。 黒豆納豆ってのもあってね。 めっちゃ美味いんだよ~。 今度兄貴に送ってもらうから食べてよ。 カジくん納豆好きなんだね、」
「納豆食ってりゃ、たいていだいじょぶッスから・・」
「今度、炊飯器持ってきてご飯ここで炊こうかな。 なんかおれも納豆食いたくなってきた、」
「もー! ナル先生まで!」
小和は空気清浄器のパワーをあげた。
「さよちゃん納豆キライなの? おれ納豆トーストとかも好き!」
「嫌いじゃないですけど、人が食べてる臭いはヤなんです!」
言ってるそばから加治木が納豆の容器をそのままゴミ箱に捨てたので、
「だから! 洗ってからキッチンのゴミ箱に捨てて下さい!」
小和はまた沸騰した。
「・・・・」
黙って彼女の言う通りにして立ち去ったが、
「めっちゃ文句言いたそうな顔!」
成は笑った。
「文句言いたいなら言ってくれた方がこっちもしこりが残らなくていいですよ。」
あれから。
小和も少しずつ元気を取り戻して、成もホッとしていた。
「そういや。 天音くんは北都邸に住むことになったの?」
成は思い出したように言った。
「え? あ・・まあ。 年内いっぱいでアパートでなくちゃいけなかったんで。 どのくらいの期間になるかわからないですけど、とりあえずお世話になることに。」
天音はトントンと楽譜を揃えた。
「いいなあ。 豪邸!」
「や・・。 社長も奥さんもすごくいい人なんですけどね。 奥さんがなかなかキョーレツな人で・・」
天音は昨夜のことを思い出していた。
「は?これを、おれに?」
南から紙袋を手渡された。
「着てるモンがさ。 浪人生じゃないんだから。 あんた26でしょ? もうちょっと何とかしなよ。 なんかさ、服装がアカンやつって見てられないの。」
「浪人生・・」
「バイトとはいえ。 一応働いてるんやから。 ちゃんとした格好してき、」
有無を言わせず押し付けられた。
「・・というわけで。 この格好なんですよ・・」
いつもはパーカーにジーンズという出で立ちなのだが、今日はボタンダウンのシャツにセーター、コーデュロイのパンツとショートブーツだった。
「あー、あの人。 ファッションにはけっこううるさいんだよねー。 でもいいじゃん。 服買ってもらえるなんて、」
「俺の好みとか一切無視ですよ? でも着ないと悪いし・・」
小和は二人の会話を笑顔で聞いていた。
またセリシールの日常が戻ってきました・・
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