「・・明日実は。 和希に骨髄移植をする大事な身体なんです! 妊娠させるとか! いったい何を考えているんですか! 子供にどういう教育をしているんですか! 何とか言ったらどうです!」
明日実の母の怒りはさらにヒートアップした。
「・・本当に。 申し訳ございませんでした・・。 私の・・至らなさで、」
加治木の母は事の重大さにただただ頭を下げるだけだった。
加治木は何も言えずうつむくだけだった。
言葉が何も出てこない。
頭の中が真っ白だった。
「すぐに。 堕胎手術させます。 費用はそちら持ちで。 そして娘には金輪際近づかないで!」
堕胎・・
加治木はハッと顔を上げた。
もちろんその意味は理解していた。
そして彼女の身体を傷つけるのだということがわかり小さく震えはじめた。
「・・携帯。 持ってるでしょ、貸しなさい。」
明日実の母は加治木に手を出した。
「え・・」
「あなたの携帯よ、」
言われるままポケットから取り出した。
それを奪うように取り上げて思いっきり床に叩きつけ、そして狂ったように踏みつけた。
「お母さん!」
明日実は慌てた。
「二度と。 娘に会わないで。 連絡も取らないで! 明日実は転校させます!」
おそろしいほどの眼差しを向けた後、明日実の手を引いた。
「カジくん!」
明日実は泣きじゃくったまま彼を見た。
そんな彼女に何も言えず、そして後を追うこともできず。
ただただ立ち尽くしていた。
身体がガタガタ震えていた・・
明日実と母親が出て行った後。
加治木は床に座り込んでしまった。
粉々になった携帯と同じように自分の心もズタズタになってしまった。
「・・理緒・・」
母が背中に手をやった。
「・・ごめん、ごめん・・」
そのまま床にオデコをつけたまま泣き出した。
「私ももっと気をつけなくちゃいけなかった・・。 理緒が明日実ちゃんといる時は・・本当にいつも自然体で。 笑ったり、しゃべったり。 そんなあなたの姿を見てることが単純に嬉しくて。 あなたたちが・・そういう関係になってるなんて。 正直思わなかった・・」
母の涙声がさらに気持ちが揺れた。
頭を大きく左右に振った。
悪いのは自分。
誰のせいでもなく。
彼女を痛めつけてしまったのは。
紛れもなく自分なのだということを思い知っていた。
「明日実・・」
縋るような彼女の顔が頭から離れなかった。
支え合ってきた二人の仲は引き裂かれ・・
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