はあああああ
ひなたはベッドにもぐりこみながらまだ落ち込んでいた。
そこにノックの音がして誰かが入って来たようだったので顔だけ出した。
「熱、まだあるんか?」
マスクをした父がドアから顔を見せた。
「・・さっき解熱剤飲んだから・・でも38℃もある・・」
「そか。 水分ちゃんと採るんやで。 ポカリ買うてきたから・・」
レジ袋を差し出すと、ひなたがムクっと起き上がったので
「あ! 来んでええ! おれ明日大事な会議あんねん! 感染りたくない! ここ置いておくから。 あとで持っていけ、」
慌てて制された。
「も~~、大事な娘がこんなに苦しんでるってのに!」
「まあまあまあ。 インフルでもなきゃこんなに休めへんで。 ・・1週間くらいで外、出れるんやろ?」
「・・まあ・・」
「まだ時間はある。 元気出せ。 じゃおとなしく寝てるんやで、」
一方的に言ってドアを閉められた。
まだ時間はある・・
ひなたはまたボーっとしながらその意味をジッと考えた。
「なんや。 やっぱり知ってたんか、」
志藤は一人の夕飯を食べながらお茶を運んできたゆうこに言った。
「まあ、なんとなく。とりあえず知らんぷりしておきましたけど、」
「この時期に旅行って。 モロバレやんな、」
志藤はアハハと笑った。
「あたしは。 まあしょうがないなあって思ったんですけど。 ・・南さんでしたか。」
そして静かに彼の前に座った。
「・・寂しくて。 もう泣いてるで。」
「南さん、ホントに奏くんのことかわいがってましたからね・・。」
「全て。 奏のためや。 何より本人が望むことや、」
食事を平らげて両手を合わせた。
「ひなたにも。 きっとわかる時が来る。 これからの人生のがよっぽど長いんや。 『こんなこともあった』って笑える時が来る、」
ゆうこはそんな風に言う志藤をじーっと見た。
「なに?」
「ものわかりのいいお父さんになったなーって、」
そう言ってふふっと笑われた。
「はあ? 誰が、いつ??」
「はいはい。 あ、今日。 アップルパイ焼いたんです。 デザートに。 ちょっと待ってて。」
クスクスと笑いながらゆうこは立ち上がった。
「なあ、ゆうこ。」
「はい?」
「・・おれら。 二人きりになっても。 おれのこと見捨てないでな、」
続いて出たその言葉に一瞬きょとんとした後
彼の横まで行って額に手を当てた。
「・・なに・・?」
「インフルが感染っちゃったんじゃないかなーって。 あなたがそんなこと言うなんて。それとも。年取っちゃったかな~~?」
「もー! おれのことなんやと思ってんの??」
彼女の手を振り払って笑ってしまった。
なんやかんやで志藤もひなたの心を思いやります・・
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