Departure(12) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

病院の廊下に心細そうに立ちすくんでいたあの少年を思い出す。

 

子供のいない自分たちにつかの間の『親』の気分を味わせてくれた。

 

南は後から後から涙が出てきて止まらなくなってしまった。

 

「・・これから大事な打ち合わせに行かなアカンねん。 もー、化粧崩れる・・」

 

そんな彼女の様子が手に取るようにわかって奏はふと微笑んだ。

 

 

外出から戻った南が社長室に入って行くと、真太郎は留守で志藤が一人脇のデスクで書類を確認していた。

 

「・・お疲れ・・」

 

彼から声を掛けられ

 

「あ・・うん・・」

 

気まずそうに小さな声で答えた。

 

そして

 

「・・ごめんな、」

 

少し遠慮気味に言った。

 

「は?」

 

志藤が意外そうな顔を上げた。

 

「・・余計なことした、」

 

うなだれる彼女に

 

「は! 気色悪い! おまえがそんな神妙に謝るなんて!」

 

志藤はヘッと笑った。

 

「気色悪いて・・」

 

「あの時。 奏を預かることを二つ返事でOKしてくれたおまえと社長には。 ほんまに感謝してる。 おかげで奏は何の不自由なく受験勉強もできたし。ピアノも弾けた。」

 

さっきまであんなに怒っていたとは思えないくらい穏やかだった。

 

「奏にも。 電話で謝ったらね。 逆に・・感謝されちゃって・・」

 

そう言ったら南はまた涙が込み上げてきた。

 

「も、どーしよ。 あたし。 急に寂しくなっちゃって・・。 奏を育てたわけでもなんでもないのに。 たった2年半なのに。 なんかもう・・奏がいる生活が・・普通で。 『明日お弁当いらんの?』とか『洗濯物出しといて』とか。一緒に夕飯の支度したり。 仕事で疲れて帰ってきても・・自分を頼りにしてくれてる子供がいるって思うと。 その疲れも吹っ飛んだ。 あー、子供ってええなあって・・」

 

ハンカチで顔を覆ってしまった。

 

彼女がどれだけ子供を望んでいたか。

 

志藤も痛いほどわかっていた。

 

「血のつながった親子でもな。 いつか離れる時は来る。 いや離れていかんとアカンやろ。 今はウチもうるさくてしゃあないけど。 いつかは・・ゆうこと二人になって。 ものすごく静かな家になるんやろなって思う。 そんなもんや、」

 

優しくそう言って微笑んだ。

 

「・・これからも。 みんなのためにピアノ弾くって・・。 そう言うてた、」

 

少し落ち着いて南は涙を拭きながら笑った。

 

「自分のためにやればええねん。 もー、あいつは・・ほんまに・・」

 

志藤はそう言ったきり言葉を続けずに、また書類に視線を移した。

 

それからは何も言わなかった。

 

子供のいない南夫婦にとって奏の存在は本当にかけがえのないものでした・・

 

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