瑠依はボストンに戻って、父からのメールに気づいた。
『本当にありがとう。 おかげで無事に子供が生まれたよ。 祐美さんにもお礼を言っておきます。 せっかく戻ってきたのに会えなくて残念だったけど、また時間がある時に戻ってきてくれると嬉しいよ。 名前は『一楓(いちか)』に決まりました。 一楓を抱いたときに瑠依を初めて抱いた時のことを思い出したよ。 とても懐かしい重みだった。 瑠依が生まれた時はぼくも祐美さんもまだまだ若くて、わからないことばかりで失敗しながら何とかやってこれたよ。 今は少しは慣れたけれど、その分自分が年を取ってしまったので今度は自分の健康に気をつけないといけないと思っているよ。 瑠依も身体に気をつけて、しっかり勉強をするんだよ。』
いつもの真面目な父の文面だった。
なんだか猛烈に父に会いたかった。
さくらは産後の状態も良好だったので5日目で退院することになった。
「いや。 意味わからんのやけども。」
退院の日、病室にやって来たのはさくらの父だった。
「おまえが2週間も早う産んだから。 母さんの予定が狂うたんや。」
ブスっとして腕組みをしたままだった。
「そんなんあたしのせいじゃなか。 お父さんじゃ助けにならんばい・・ っていうか、なんで来たん、」
「さくらさん、せっかく来て下さったのに、」
葦切は二人の間でオロオロした。
「別におまえを助けに来たわけやなか! 東京に出張の用事があったばい、その『ついで』に寄っただけたい!」
思わず大きな声を出すと、さくらの腕に抱かれていた一楓がふにゃふにゃと泣き出した。
「もー、怖いじじやなあ。 よしよし・・」
これ見よがしにあやしたりしたので
「ほんなこつ・・失礼な娘や! なんやおまえは!」
「まあまあ。 もうそろそろタクシーも来ますから・・」
葦切はいい加減勘弁してほしい・・と心で思っていた。
「はいはい。 おしめとりかえようねえ、」
家について一楓をベッドに寝かせた。
足を一生懸命に動かしている一楓に
「おうおう。 元気やのう。 男の子やなあ、」
さすがにさくらの父は相好を崩して、ベッドを覗き込んだ。
「あ。 おじいちゃん。 おしめ替えてみます?」
さくらがわざとらしくおしめを手渡しながら言った。
「おじいちゃん?? おれはおまえのおじいちゃんやなか! 気安く呼ぶな!」
そう言っておしめを取り上げた。
「え~? できるの?」
九州男児を絵に描いたような父がそんなことできるわけもない、とバカにしたように言うと
「あほ。 こんなもん・・」
そう言って、ササっと鮮やかにおしめを替えてしまった。
「え! うまい! なんで?」
さくらは驚いて二度見してしまった。
「最近のオムツは薄くてええのう。 昔のはもう分厚くて蒸れてあせもができてのう、」
「お義父さん、上手ですねえ、」
葦切も感心した。
「大我が生まれた時は、おれも夜中におしめを取り換えたりミルクをやったりしたもんや。 おまえは知らんかったやろうけど。 母さんも忙しかったけん。 男がやるもんやなか、とか言うてられんかった。」
「知らんかった・・ 意外・・」
父の意外な一面を見てしまった・・
さてここからはさくらの子育て奮闘記です。なぜか博多から父がやってきましたが・・
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