嵯峨純太と自分が似ている
と、言える人間は両親くらいで。
もちろんそんなこと今までに言われたこともない。
初めてクラシックマスターの彼の横顔の写真を見た時には
似ている
と一瞬感じてしまったが、
そのことは考えないようにしていた。
しかし。
今。
嵯峨純太の顔がはっきりと映ったこの写真を見せられて
自分が目をそむけていた事実をまた目の前につきつけられた感じがあった。
「学校もわりと近いから。 もし演奏会なんかがあったら・・来てもいいかしら。 私、あなたのサックス聴いてみたい。」
何も知らないサラは明るく言った。
瑠依は2、3度小さく頷いた。
「その写真。 良かったら差し上げます。 じゃあ・・失礼します。」
彼女はぺこんと頭を下げて立ち去ってしまった。
なによりも。
母と純太が本当に幸せそうに映っているこの写真が。
自分が知らないその『過去』が事実であった、ということを思い知らせてくる。
瑠依はしばらくそこから動けなかった。
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さくらは
純太と祐美のツーショットの小さな写真を手にした。
どこにでもいるような
幸せそうなカップル。
もちろんそこに葦切はいない。
瑠依はずっと黙っていたが、
「・・奏のお母さんが。 奏がピアノで表舞台に立てば設楽さんに知られてしまう、とずっとコンクールに出さなかった、って話あったろ?」
いきなり奏の話をし始めてさくらは少し驚く。
「う、うん、」
「なんか。 わかるなーって。 世間って狭いっていうか。 どこに自分を知っている人間がいるかわからんっていうか。 その会ったこともないカメラマンの人の娘がさ。 はるばるボストンにいるおれの目の前に現れるか?ってこと。 おれが・・純太さんと同じサックスの道を歩いたことで、そこが繋がってしまった。 ・・すげえ。 怖いよ。」
大きなため息をついて顔を覆った。
「純太さんに似ている、って言われたことが。 ほんっとショックって言うか。 おれは小さいころから母親似だってみんなから言われて、自分でもそうだなって思ってた。 でも。 自分が純太さんの年齢に近づいていくにつれて・・似てきたんじゃないか、とか。 父さんはこんなおれをどんな目で見ているんだとか。 血のつながりなんかどうだっていいって思うけれど、神様が・・ソレ許してくれない。 それが、怖い。」
いつもの彼の明るさが消えていた。
成長と共に純太に似てくる自分に瑠依は激しく動揺します。。
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