「え！ カジさん？ どうしたんですか・・？」
出勤してきた小和は驚いた。
「おはよ。 なんか今日から来ることになっちゃった、」
加治木は笑いもせずにぼんやりと言った。
「え、顔見知り？」
成は二人を交互に見やった。
「私の2つ上の先輩ですから・・ 篠宮先生のレッスンを受けてたし。 ひょっとして新しく来るバイトさんて。 カジさんなんですか？」
「うん。 そうみたい。」
加治木はさっそくデスクをあてがわれ整頓していた。
「カジが急に日本に帰ってくるって言うから。 話したのが一昨日だったの。 急に。」
「なんかー。 篠宮先生がいきなり結婚してて、しかも妊娠中ってびっくりしました。」
・・なんか
すげえ アタマ悪そうなんですけど。
だいじょぶなんか？？
成は3人の会話を聞きながら一抹の不安を覚えた。
「とりあえず。 バイトとはいえ人雇うわけだからー。 ・・税理士さんに連絡しないと・・」
さくらはそう言ってジッと成を見た。
「え？」
「でもー。 こんなことおお先生にいちいち言うのもね・・。 気が引けるなあ。 誰かさんが美人税理士さんにちょっかい出したりするから・・」
嫌味っぽく言う彼女に
「ちょっかいなんか出してない！ 親父が勝手に！」
成は思わず立ち上がって抗議した。
「え！ 小野塚先生、・・まさか！」
小和にまで言われて
「だから！ ちがうって！」
必死に否定した。
・・ちょっかい出す前に！
振られたんだよっ！！
そう言いたかったが、あまりに惨めなのでそんなことも言えない。
実は。
あれから1カ月以上が経過していた。
その間、成は柚に一切の連絡を取らなかった。
彼女が自分の病気をカミングアウトしてくれて、
交際は受けられない
と言われて、正直彼女に何も言えてなかった。
そんなことどうでもいいです。
とか
ぼくはそれでもあなたが好きなんです。
とか。
ドラマみたいにとてもカッコよく言えなかった。
そんなに簡単に口にしてはいけないと思っていた。
そのくらい彼女のその
告白
は重みがあった。
「わかったよ。 おれから親父に言っておくよ、」
言いたいことは山ほどあったが、成は仕方なくそう収めた。
父の携帯に掛けても一向に出なかった。
「まったく！ 何のための携帯なんだ！」
思わず独り言を言って、仕方なく事務所に電話をした。
呼び出し音が3度ほど鳴った後
「はい。 神崎税理士事務所でごさいます。」
その声を聞いて一瞬固まった。
事務所に女性は3人。
そのうち2人は母とまひる。
それ以外の女性・・・
は、一人しかいない。
なんと『あの一件』から1か月以上経過しておりました・・
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