クラシックマスターの取材には志藤が付き添った。
北都フィルの練習場のピアノ室を借りて撮影と取材が行われた。
白シャツにサンドベージュの8分丈のパンツというシンプルなモードで、髪型から靴、靴下まで志藤の細かい指示があった。
「写真はピアノ弾いてる所1枚と、あとは取材中の小さいのを4~5枚ってとこで。 ピアノを弾いてる所はこの角度から。」
写真にも細かく指示を出した。
ぼくは口を出しますよ
ホクトと契約をする時に志藤からそう言われて、確かにピアノのことに関してはすごく細かく指示をもらうようになった。
それだけでなく、自分をいかに
魅せる
か、ということも本当に隅々まで考えてくれる。
「うん、いいね。 モデルでもいけるんじゃない?」
滝崎編集長がからかうように言うと
志藤は大真面目な顔で
「でしょう? ウチの奏は外見も完璧ですから、」
とサラっと言った。
ウチの奏・・・
奏は志藤からそう言われて、なんだか嬉しくて一人ニヤけてしまった。
「えっと。 じゃあピアノ、弾いてもらえます? なんでもいいんで、」
カメラマンから言われるとすぐに志藤が
「ラ・カンパネラ、で。」
と言った。
「え、」
奏がその意味を計りかねていると
「あれ弾いてる時のおまえの顔が一番いい。 今までおれが見た中では。」
即答で返した。
「・・はい、」
どうして
この人に褒められるとこんなに嬉しいのか。
さくらに褒められるときももちろん嬉しいけれど、志藤から褒めてもらえるともうお腹の底がこそばゆいほど嬉しくなる。
奏の弾くラ・カンパネラを腕組みをしてジッと聴き入っていた。
「いい空気、出してるねえ・・」
滝崎がボソっと言った。
「これから。 これからですよ、」
志藤は自分に言い聞かせるように言った。
「設楽さんは母のパートナーとして、そして家族として。 とてもぼくたちを大切にしてくれます。 ぼくのピアノのことには一切口を出さず、ぼくの先生に全てを任せてくれています。 『設楽』姓にしなかったのは、その名前が重いから・・というよりは、ぼくがまだまだ世にも出るような演奏家でもないので。 自分のペースでやっていきたい、と思ったからです。 それに、母もぼくも一人っ子でしたから。 『高遠』の名前を残していきたい、という気持ちもあります。 特に確執とか? そういうことではないです。」
「中学2年の時に初めてコンクールに出ましたが、それも特に意味がなく、ずっと母に指導を受けてやっていて特に多くを望まなかったからです。ホクトエンターテイメントの志藤取締役と出会うこととなって、その道を開いていただきました。」
コンクールにずっと出なかった理由も、自然ななりゆき、という形で違和感をなくした。
その後のインタビューでも奏は落ち着き払って、まるで台本があるかのような受け応えだった。
「今、ぼくを支えて下さる全ての方に感謝しています。 ぼく一人のためにたくさんの大人の方たちが力を尽くして下さっています。 本当にありがたいですし、それが自分のモチベーションにもなっています。 シニアのコンクールに参戦し始めて、まだまだ力及ばないな、と思うことがたくさんあります。 もっともっと頑張って力をつけていきたいです。」
カメラマンがインタビューの間、いろんな方向から写真を撮る。
ピアノを弾いていた時は15歳とは思えない表情をするけれど、こうして話をする時はどちらかというと物静かな普通の高校生のようで、滝崎はそのギャップにやや驚いていた。
奏は一転も曇りのない表情で取材を受けます・・
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