高宮は少し驚きを交えながらそう言った。
「来月の取締役会でおそらく正式に決まる。そして、新体制は来年4月からということになるかな。」
真太郎はシンとした社長室で静かに話した。
「そう、ですか。」
北都社長が病気療養に入って1年と少し。
生命の危険は脱したけれど、このまま社長として仕事を続けることが難しくなった。
社長不在の間ずっと社長代行としてやってきた息子の真太郎が正式に次期社長に推されることになり、北都現社長はこのまま会長となる。
いつかはそうなるのだろう、と高宮はずっと思っていたが
とうとうその時がやってきてしまった、と少し気持ちに力が入ってしまう。
「高宮くんにはこのままぼくの秘書としてついてもらいたいと思ってる。 まだ内々の事だけど…、」
真太郎はもう何をも言わせないほどの威厳があった北都社長と違って
本当に物腰が柔らかく、静かな人で
高宮は社長不在の中、二人で必死にやってきた中でも彼のその真面目で真摯な仕事ぶりに心惹かれるようになった。
北都に来たばかりの頃は、
秘書なんか
とバカにしたところがあったけれど、今は北都社長に感謝さえしている。
北都にも真太郎にも
自分の全てを賭けてもいい、
と思えるくらいになれた自分が今は嫌ではない。
「・・ありがとうございます。 専務のお気持ちに応えられるよう、これからも精進します。」
高宮は静かに頭を垂れた。
「どしたの?なんか基本が笑い顔になってるよ?」
家に帰って食事を採ってる時に夏希に言われてしまった。
「え??」
それに驚いて思わず自分の顔を触ってしまった。
「いっつもご飯食べてる時も難しいこと考えてるみたいな顔なのに。 めずらしー・・」
いつもいつも素直な夏希は思ったまんまを言った。
「や・・・ちょっと、いいことあってさ、」
またむふふと笑ってしまった。
「そういえば!! 社食にランチの数増えたよね! アレ、総務部長が言ってくれたのかなあ。あたしこの前部長にエレベーターで会って、『もうちょっと安いランチの数あれば』って言ってたの! なんかそれがきいたのかなあって!」
夏希は嬉しそうに言った。
「もう最近毎日社食だからさあ。 めっちゃ楽しみ!」
夏希の幸せのラインが相変わらずなのでさらに笑ってしまった。
「え、なんかおかしかった?」
いつまでも高宮が笑っているのでさすがに不審がられた。
「いや。 夏希はいつも幸せでいいなあって。」
「へ?」
「いいから、いいから。」
家では全く仕事の話はしない。
ぶっちゃけ、話をしても彼女が理解してくれるのかというところがまず問題だということもあるが、どんなに仕事で煮詰まっていてもこの『調子』がいい感じに肩の力を抜いてくれる。
高宮は非常に充実感にあふれていた。
ホクトの体制が大きく変わりそうです。高宮は今や幹部になくてはならない存在になっています・・
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