「ようこそいらっしゃいました。」
安曇野に入ってすぐくらいのところに拓馬の知人・佐々木の妻のペンションはあった。
「お世話になります、」
拓馬は一礼をしたあと、
「・・友永詩織さんです、」
後ろに控えていた詩織を紹介した。
「初めまして。 佐々木です。 拓馬くんが彼女を連れてくるっていうから楽しみにしていたんだよ、」
「初めまして。 友永です。 今日は図々しくお邪魔してしまって・・・・」
詩織はいつものように丁寧にお辞儀をした。
「お花のお家元さんなんて、こちらも勉強になりそうですよ。 よろしくお願いします。」
拓馬は荷物を置いてあたりを見回した。
「みんなはもう工房の方ですか、」
「ああ。 それがね。 今回はみなさんいらっしゃれなくて。 あなたたちお二人なのよ、」
佐々木の妻がテーブルをセッティングしながらそう言った。
「は・・????」
拓馬は一瞬固まった。
「今回はゴルフのお客様でウチもいっぱいで。 お誘いしたのも他に4人くらいだったんだけど。 みなさん都合がつかなくて。」
たぶん
詩織も固まっているんじゃないかと思い、彼女に振り返れなかった。
しかし
「そうですか。 残念です。」
詩織は普通に笑顔で応えていた。
普通!
拓馬は思わずガバっと彼女に振り返った。
「じゃあ、先に工房の方に行こうか、」
佐々木は彼らに声をかけた。
「わあ・・すてき。」
佐々木の工房は小高い丘にあり、眼下に安曇野の美しい風景が広がる。
その風景に詩織はうっとりとした様子で言った。
「こんなところで作品を作れたら・・・きっといいものができるんでしょうね、」
佐々木に微笑みかけた。
「ぼくは趣味が高じてこうなっちゃったから。 でも、週末にここに来るのが楽しみなんだ。 イヤなことがあってもここで土をこねてたら忘れるよ、」
「でも佐々木さんはほとんどプロで、ここで作った器をペンションの食器に使ったり、安曇野の駅の近くのお土産屋さんにも卸したりしてるんだよ。」
拓馬はそう補足した。
「そうなんですか。 作品を拝見したいです、」
詩織は大好きな陶器の話に目を輝かせた。
「じゃあ工房は好きに使っていいよ。 ぼくはこれから人と約束があるから。 カミさんがお弁当を作ってくれたからここで食べるといい。」
佐々木はしばらく話をしたあと紙袋を置いて気を利かせるように出て行った。
二人はエプロンをつけて早速作品造りにかかった。
こうして二人で陶芸をしたりするのは初めてなので、もうそれだけで嬉しい。
「みて。 拓馬さん。 少し変った形にしてみようかしら、」
詩織が簡単に形作ったものを彼に見せると
「こうじゃない?」
拓馬はわざと手を加えてヘンな形にしてしまった。
「あ、ひどーい。 元に戻せない・・・」
「や、新しいよ。 ウン、」
拓馬はずっと彼女とこんな空間を造りたかったんだ、と実感していた。
こうして隣にいて
大好きなことをして。
ずっとこうしたかったんだ、と思えた。
女の子とつきあっていて、こんな気持ちになったのは初めてだった。
会うたびに彼女の身体を求めて
抱き合うことが充実してると思ってた。
もちろん
詩織に対してもそういう気持ちがない、と言ったらウソになる。
だけど
もっともっと大事なものがあるって
彼女が教えてくれた。
そしてさらに実質二人きりのお泊りとなってしまい・・・いきなりの展開に拓馬の方が焦ってますけども。
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