「あら、貴彦。 ゴハンは食べたの?」
「ああ、食ってきたから。 風呂、入る。」
「もう仕度して待ってるんだから、電話の一本くらい入れなさいよ。」
帰宅して母にグチられた。
「もう30近くになるのに。 いちいち家に電話なんかできないって。」
そこに白い猫がやって来て彼の足元にまとわりつく。
「お~~~。 マリア~~。 ただいま~。」
そっと抱き上げた。
「そうそう。 お父さんがね、 会社の顧問弁護士の先生の娘さんでいい人がいるって言うんだけど、」
泉川は母の話にゲンナリとし
「だからさ。 見合いはいいっつーの、」
マリアを撫でながら言った。
「でもね~。 あなたもいい年だし。 心配なのよ・・・。 あたしやお父さんだって・・」
「おれは自由恋愛で生きていくから。 ま、そのうち・・・」
はぐらかして部屋に向かった。
部屋に入ると、もう一匹のネコがベッドの上で丸くなっていた。
「サユリ。 ここにいたんか~。 ただいま~~、」
こっちはアメリカンショートのまだ1歳の子猫だった。
「ほんと。 おまえらはかわいーなァ。 文句も言わないしな。」
2匹を一緒に抱き上げてほお擦りをした。
ほんと。
このところあからさまに『結婚』のことばっかりだし。
早く孫の顔が見たいとか。
こーゆーとき一人っ子って損だな。
全部の期待が自分に被るし。
孫なんて
おれが親になんなきゃいけねーじゃん。
まず。
・・・考えられないって。
そんなの。
小さなため息をついた。
少しだけ落ち着きを取り戻したある日の昼下がり。
「いっ・・・・・で~~~!!!」
静がだった事業部にけたたましい声が聞こえた。
「な、なに???」
南は驚いてその声の主・志藤のもとに駆け寄った。
「~~~~~~・・・」
デスクの側でうずくまる志藤に
「・・どないしてん??」
覗き込んだ。
「ゆ・・・指がっ!!」
左手を押さえてもんどりうっていた。
身も心もどっぷりなお坊ちゃんの泉川ですが、志藤の身になにか???
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