「本当は。 ぼくも事業部の一員になりたかったんですけどね~、」
真太郎は苦笑いをしながら言った。
「ま。 物理的にムリでしょうね。 社長が許さないでしょう、」
志藤は秘書課に残された資料を片付けながら言った。
「でも。 いい人達が集まったみたいですね。」
「まあ佐屋さんは以前から仕事で関係しててよく知ってますから。 ほんと姉御肌で明るくて。 頼りになる人ですけど・・・」
あの軽すぎる茶髪男を思い出してしまった。
「泉川は・・・・年はいくつなんですか?」
真太郎に訊いた。
「えっと・・。 確か南より1つ上くらいだったと思います。。 今年、29くらいでしょうか。 でも、芸能二部ってすっごくハードな部署ですから。 そこで大物のマネージャーを何人か経験しているはずです。二部の部長がなんとか引き止められないかって社長に泣きついてたくらいの人ですから。 本人のたっての希望で事業部に来たようです、」
おれと仕事したいとか。
おれはあいつのこといっこも知らないんやけども、
志藤は少し冷めたようにそう思った。
「泉川さんは竹下電器の社長の御曹司なんですよ、」
真太郎の言葉に
「は?」
思わず振り返った。
「ひとり息子だそうです。 でも会社に入ることを拒んでウチに入社したとか。」
「はあ?? なんや・・・ぼんぼんですか、」
志藤はおもしろくなさそうに言った。
「志藤さんは『ぼんぼん』が嫌いですからね~、」
真太郎は少し意地悪く言って笑った。
「や・・そんなことも、ないですけど。 そーやって恵まれたバックボーン持ってるヤツはね。 逃げ道があるでしょ? 必死で仕事なんかしますかね、」
「でも。 仕事ぶりは社内でも評判ですよ。 きっと志藤さんのいい片腕になってくれますよ、」
真太郎はいつものイケメン笑顔でそう言った。
5人の部署なのでみな何でもしなくてはならないのだが、とりあえず基礎になる仕事を決めねばと思い
最初の会議で志藤は自分なりにまとめた案をみんなに提案した。
「・・まあ・・いちおうオケ担当は玉田。 南さんは企画。 佐屋さんは庶務と営業を兼務で・・・泉川はスポンサー担当・・まあ、営業やな。 おれは全てにおいて指揮したり、もちろんどこにでも行くけど、」
「営業ですかあ、」
泉川は思わず言った。
「なに、不満?」
志藤はジロっと彼を睨んだ。
「いえ。 一番自信あるのは口ですから。 いいんですけど。 まあマネージャー業よりは楽、ですかね。」
またかる~~い調子で言った。
「楽とか言うな。 楽な仕事なんかあらへん、」
志藤はムッとして灰皿に吸殻を押し付けた。
「んじゃあ。 さっそく親睦を兼ねてさあ。 行かない?」
南は夜7時ごろになりいきなり張り切りだした。
「あ?」
志藤が彼女を見やると。
「今日。 駅前でチラシもらっちゃった。 今日オープンのよさげな飲み屋さんがすぐそこにできたみたいなの! ね!」
そのチラシを志藤に見せた。
「・・『新月』・・・、」
「そ。ほら会社の前の通りをはさんだナナメ前くらいのビルの地下。 昼間ちょこっと偵察に行ってきたんやけど。なかなかシブいお酒揃えてるし。」
「こういうこと、ほんまに抜け目ないなあ、」
もう彼女の手際のよさに笑ってしまった。
なんとかスタートした事業部ですが、志藤は同時に管理職にもなりいろいろ大変そうです・・
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