翌日の昼間
南は高宮の所に見舞いに行った。
「どう？ 少し楽になった？」
持ってきた花を飾りながら言った。
「はい。 おかげさまで。 最初はもうトイレにも行くのも大変なくらい身体がいうこと利かなくて。 胃の痛みもなくなってきましたし、」
高宮は笑顔で言った。
「そっか。 よかった～～。 ほんまに心配してたし、」
南は笑顔を見せたが、どことなくそれが寂しそうで高宮は気になった。
「結婚。 おめでと。 ほんまによかったな、」
傍らの椅子に腰掛けた。
「あ・・ありがとうございます・・・。 全然実感沸かないんですけど・・・」
高宮は照れてはにかんで笑った。
「あ、証人の欄にサインをしてもらったそうで。 ありがとうございました、」
「ううん。 あたしも嬉しかった・・・。 結婚式ボツっちゃって・・・どーなることかと思ってたから、」
「式は形ですから。 入籍して初めて夫婦になるわけだし・・・。 正直、オヤジの関係の人ばかりで披露宴も気が重かったんですけどね・・・。 ただ、彼女のお母さんには申し訳ないことになってしまって。」
「ん・・・。 一人娘の結婚式やもんな、」
南も夏希の母の気持ちになった。
「いつかかならず。 式と披露宴を挙げます。 ・・社長にも出ていただきたいので、」
彼の笑顔が心に痛かった。
「おれが倒れたことは社長には言ってないですよね？」
高宮は気になっていたことを確かめた。
「うん。 言うてへんよ、」
「・・ならいいんですけど。 気にされるといけないので。 ここのところの・・お加減は、」
「だんだんと良くなってる。 普通に話せるし。 ただ・・・やっぱり先生が心配していたとおり。 左手と足がうまく動かへんみたいやって・・」
「左手と、足が・・」
「リハビリは必要になると思う。」
「そう、ですか・・・」
南の話で
北都がまだ真太郎のことを思い出すことがないことがわかってしまい、高宮は肩を落とした。
「・・焦ったらアカンと思うねん。 あたしはお義父さんが生きていてくれたことが嬉しいから。 きっと・・・時間をかければ・・・またあの社長に戻ってくれるって信じてるし。 」
勘のいい彼女は高宮が心配してることもすぐにわかってしまった。
「でも・・・。 ほんまにホッとした。 高宮がずうっとずうっと加瀬と一緒になりたがってたの・・わかってたし。 加瀬があんまりにもわからんちんやから、ヤキモキしてたんやけど。 高宮の気持ちが通じたんやなあって。 胸がいっぱいになって。」
南はしみじみと言った。
「・・何だか長い長い道のりだった気がして。 つきあって3年とかで結婚なんか普通なんでしょうけど。 おれは、夏希とつきあいはじめてすぐに、結婚を考えていたし。 いろんなことが・・あって。 もうダメなんじゃないかってこともあったりしたけど。 ・・うん、すごく長い時間に感じました。」
高宮は夏希とのこれまでのことを静かに思い出した。
「うん・・・めっちゃ偉かったと思うよ。 加瀬が精神的に成長するのをジッと待って。 あの子をほんまに温かくて大きな心でいつもいつも見守って。 なんか、ほんまに・・・感動やな、」
南はため息をついた。
「結婚するときって・・ほんまにもう明るい未来しか考えられへんし。 相手のことをかけがえのない存在やって・・・一生、ずっとずっと支えあって生きていくんやって・・・。」
それは自分に言っているようで、そうでない気がして
高宮は不思議そうな顔をした。
「これから先な。 コレ、ちゃうやんかって・・相手のことを思ったりもすることあると思うけど。 結婚って・・いろんなこと諦めなくちゃいけないし。 相手を許して・・・思いやって・・続いていけるんやなって。 うん・・愛してるってよりも信じられたら・・・。 きっとうまくやっていける。」
南は高宮を見た。
「正直。 あんたと加瀬じゃあ、育ってきた環境も何もかも違う。 加瀬はこれから戸惑うことたっくさんあると思うねん。 そんな時な、あんただけは加瀬の味方してやってな。 加瀬を守ってやれるのはあんたしかいないんやから。」
「はい、」
高宮は神妙に頷いた。
信じていれば
ずっと一緒にいられる。
って・・・
思ってた・・・
南は高宮と夏希にホッとしながらも何かが少しずつ切れていくような気持ちで・・・
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