「乳がんで大切なのは再発防止」ピンクリボンシンポジウム2017 | ポポ山に祈りを込めて

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今もコロナと向き合う医療従事者。

時々ブログ書いてます。

(この記事は私が講演会でメモした内容と私の情報を合わせて書きました。

講演は話が早く進むのですべて書き取ることはできなくて、

勉強不足で申し訳ありませんが、少しでも参考になればと思い、ここに残したいと思います。

基本は先日のパンフレットの大野先生の記事をお読みください)


>ここ数年、世界では早期乳がんよりも再発乳がんの医療で患者さんの声をより大切にする必要があると強調されています。現在、乳がんによる死者数は世界で約56万人、2030年には85万人に上ると予想されている。


「乳がん医療の未来を拓く」

 

がん研究会有明病院乳腺センター長、大野真司先生のお話より。

(大野真司 乳腺外科医。九州大医学部卒。米テキサス大で腫瘍学を研究後、1993年から九州大病院勤務。2000年に九州がんセンターに移り、乳腺科部長を経て、14年に臨床研究センター長。15年4月から現職。現在、及川病院(福岡市中央区)で月に1度、乳がん治療のセカンドオピニオン外来を担当。福岡市出身)



「これからの乳がん医療」

この30年間で乳がん医療は大きく変化しました。


「Deescalation&Escalation」

(エスカレーションとは「段階的な拡大」という意味)

治療の進歩は上がったり下がったりとエスカレーターのようです。

治療法が改善されても、一方では治療費が高かったり副作用で体に負担もかかっている。

↑これから解決すべき研究課題です。


乳がん医療で代表的に変わったのが手術です。


「切除から温存へ」

温存術に切り替わったのは1986年7月、ここから温存術が始まりました。

30年前は大小胸筋、乳房、腋窩リンパ節、卵巣、胸骨、すべて取っていた。

今後はリンパ節も残す時代がくるようになります。

欧米では既にリンパを残すのが主流となっていて、

治療後にレントゲンなどで調べてから手術を行う形をとっている。

がんが完全に消えた人には手術をしないで様子をみることにしています。


「Watch&Wait」見て待つ。

・転移しても郭清しない。

・乳がんがあっても手術しない。

世界では全てのがんがこういった流れになっています。


現在、乳房を切除して再建している人が増えている。


保険適応を機に無理に温存するより、

全摘してきれいに再建したほうがいいと考える人が増えたため、

全摘数が温存数を上回るようになった。

特に若い世代は仕事への支障を考え、一次再建を選ぶ人が多い。


新しい治療によって生存率が上がっています。

30年前は手術のみで、再発率46%

現在は、手術+ホルモン療法+抗がん剤+分子標的療法によって、再発率は8%になった。


2017年11月から新たにCDK4/6阻害薬という薬が保険適応になります。

>ファイザー株式会社は、「手術不能又は再発乳癌」の効能・効果で、サイクリン依存性キナーゼ(以下、CDK)4/6阻害剤「イブランス カプセル25mg、同カプセル125mg」(一般名:パルボシクリブ)の製造販売承認を取得いたしました。


>「進行・再発乳がんは、早期乳がんと大きく異なり、5年生存率は30%以下で、有効な治療方法がごく限られています。一次治療における臨床試験の結果では、イブランスと標準内分泌療法の併用投与群が、標準内分泌療法単剤投与群より、無増悪生存期間を約2倍も延長することが示されました。


詳細はこちらから→ 新規の乳がん治療薬イブランス(一般名パルボシクリブ)


「免疫療法」

今後はPD-1、PD-L1などの免疫チェックポイント阻害薬も承認されていくかもしれない。

免疫療法は今までうまくいかなかったけれど、

これからは免疫療法も同じように治療の一つとして使われていく時代になる。

とくにトリプルネガティブの患者さんの治療に注目しています。


>がん治療は、手術、抗がん剤、放射線が三大治療法ですが、第4の治療法として今、脚光を浴びているのが、免疫療法です。
免疫療法には、採血し自分のリンパ球を取り出し培養したうえで、活性化したリンパ球だけ、特にナチュラル・キラー細胞を戻すがん免疫療法(NK細胞投与)NK・T細胞療法と、もう一つは、免疫チェックポイント阻害薬 と呼ばれる薬剤による免疫療法があります。


「ドラッグラグ」

海外では使える薬でも日本では承認されていないため、

その薬を使って1日でも早く治療が受けられる日を待ち侘びている患者さんがいます。


中には保険の効かない高額な薬を個人輸入している患者さんもいます。

個人輸入でイブランスを購入すると一ヶ月98万円、一年間で1千万近い費用がかかります。

でもこれからはイブランスが保険適用になるので、

そうすると98万円のところ3割負担の高額上限で一ヶ月約8万円で治療が受けられるようになります。

(8万円でも高額と思うのですが・・)


>日本におけるドラッグラグは,海外オリジンの薬剤の承認の遅れにより生じており,承認ラグの構成要素として大きいものは,審査の長期化ではなく開発着手の遅れである。


ドラッグラグも10年前では5年間待っていたけれど、

今は1年~2年と短くなっています。これは患者さんにとっては大きなことです。


今はまだ薬が承認されていなくても、治験を募集している病院があるのでぜひ調べてみてくださいと。

↓例として。(このページは講演会とは関係ありません)

MSD株式会社の実施する「トリプルネガティブ乳がん患者」を対象とした免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)の応募ページ。


2016年1月にオバマ大統領が、がん撲滅を目指し「ムーンショット計画」を立ち上げました。

>がん研究のスピードを次年度から5年間で倍増させることを目指す、アポロ計画にも匹敵する壮大な計画

ところがトランプ大統領になったので、この計画がどうなるのかわからなくなったそうです。

アメリカはこのようにどんどん治療が進化していっているけれど、

日本のがん治療は海外の先進国よりも遅れていて、ここ数年でようやく世界の仲間入りをさせてもらえたばかり。


まず大切なことは、再発を防ぐこと。それぞれに合った適切な治療を受けること。

どんな治療や薬が必要なのか不要なのか、

まだまだがん治療は氷山の一角しかわかっていない。これからも研究が必要です。


「がんは採血だけで診断がつく時代がくる」

20年前の乳がん医療は、ホルモン療法か抗がん剤だけの選択だったのが、

今では遺伝子検査によってどの薬が合うのか、どの抗がん剤が効くのか判るようになってきた。

乳がんには約20種類のがんのタイプがあります。

今後は採血だけで患者さんにあなたのがんは○○というタイプですよと伝えることができるようになる。


そして治療法も大きく変わっていくでしょう。

たとえば、あなたは手術だけでいいですとか、

再発した場合でも、次はどんな薬にするのか、又は薬の抵抗性もわかるようになります。

血液検査によってDNAを見ていくことができるので、患者さん一人ひとりに合った的確な薬がわかるようになる。

そのため、膨大な情報量になっていくので、そこで人工知能が活躍することになります。


これからの日本人女性は、

2人にひとりが、がんになる

3人にひとりが、がんで亡くなる

11人にひとりが乳がんになる

20人にひとりが、がんの体験者

50人にひとりが乳がんの体験者になります。


今までは乳がん患者の半分が40代だったが、今は30代の若い人が増えてきた。

産科の先生と一緒に、卵子の凍結や、子どもを生めるように生殖医療の研究を進めていくことになる。


又、それとは逆に高齢者の乳がんも注目されています。

今は70歳を過ぎても乳房の再建を希望する人が増えてきた。

理由は、孫と一緒にお風呂に入りたい、ドレスを着たい、介護されるときに困るから、など。


「乳がん専門医の確保の必要性」

今後は遺伝で乳がんになりやすい人への健診の内容も変わってくるでしょう。

乳がんは5年~10年~と長期に渡って再発の可能性のあるがんです。

現在日本では若い世代の乳がん専門医の多くが女性の医師です。

そのために、女性の医師が結婚後も安心して仕事が出来るような環境を作らなければいけない。

(これはヨーロッパの乳がん学会で現在話し合われていることだそうです)


ピンクリボンは社会に対して多くの人に乳がんを知ってもらう大切な運動です。

しかし日本では資金を国に委ねているのでとても足りません。

海外では患者会など、多くの人たちが協力してお金を出し合っています。


最後に大野Dr.から、

「希望とは、つらいこと、苦しいことに、打ち勝つ力なのです」by瀬戸内寂聴



以上、ピンクリボンシンポジウム2017の講演会より。


参考文献

「増える同時再建、がん研究有明病院 大野乳腺センター長に聞く 手術減り、喪失感も小さく」


「新たなCDK4/6阻害薬の登場で広がるHR陽性進行乳癌の治療選択肢 大野真司氏」日経メディカル


ホルモン受容体陽性進行乳がん CDK4/6阻害薬アベマシクリブ 有効な可能性


ホルモン陽性・HER2陰性進行再発乳がんに新薬が今年中に承認予定!


免疫チェックポイント阻害剤(薬)について 湘南メディカルクリニック


日本におけるドラッグラグの現状と要因


「がんムーンショット」計画達成への10項目を発表


13種類のがんを1回の採血で発見できる次世代診断システム開発が始動マイクロRNA