「虎に翼」 第62回
第13週「女房は掃きだめから拾え？」
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（会議室に1人残った寅子）
手紙・梅子） 「夫に離婚届を渡されま
した。若い女と再婚するそうです」。
（回想）
梅子） 長男はもう無理かもしれない。
でもせめて、次男とこの子は、絶対
に夫のような人間にしたくないの。
手紙・梅子） 「もっと早くこうすべき
だった。そうすれば、長男や次男
も助けられたかもしれない。自業
自得です」。
この案件の担当となった今、
立場上、踏み入ることはできない。
（ノック）
寅子） どうぞ。
梅子） トラちゃん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
梅子） お久しぶり。
さっきはごめんなさいね。
まさか、こんな場所で出会う
だなんて思わなくて･･･。
嫌な態度をとっちゃったわね。
寅子） 梅子さん･･･。
梅子） トラちゃんが、裁判所
勤めだなんてびっくりだわ。
あの時はごめんなさいね。
（頭を下げる梅子）
（寅子の顔がぐしゃぐしゃになる）
寅子） 梅子さ～ん！
梅子） うう～！
寅子） ああ～！
梅子） トラちゃん･･･！
あっ、そうだ、このあと、
時間ありますか？
梅子） ええ？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
寅子） ごめんなさいね、
また来ちゃって。でも、
どうしても梅子さんを
会わせたくて。
梅子） 懐かしいわねえ。
それにしても驚いた。まさか
この2人が弁護士事務所をね。
轟） ああ、いろいろあってな。
（轟の泣き声）
（カウンターに飾った増野の写真）
梅子） よねさん。
マスター、残念だったわね。
轟） とにかく！
よく無事でいてくれた！
うれしいぞ！
よね） あほ。
いつまで泣いている。
轟） めでたい涙だ。
好きなだけ泣かせろ！
（轟の泣き声）
（壁に大きく書いた、憲法第14条）
梅子） ほかのみんなは、
涼子様やヒャンちゃんは
どうしているのかしら。
（回想）
香子） その名前で呼ばないで。
寅子） どうしているんでしょうね。
よね） で、何がどうなってる。
あんたは、あの家を出たんじゃ
ないのか？ 何で今も大庭の
家にいる？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
梅子） あの日、光三郞と一緒に
逃げたけれど、結局、10日もた
たないうちに見つかって、連れ
戻されてね。もう全ておしまい
だと思っていた時、夫が倒れた
の。一命は取り留めたけれど、
体にまひが残って、世話をする
人が必要となった。離婚届は
まだ提出されていなかった。
だから･･･。
よね） 離婚は取りやめ、
あんたがあのクソ男の世話を？
梅子） 光三郞のそばにいて
いいという条件でね。
寅子） そんな･･･それで梅子
さんは、10年以上も。
梅子） 恥ずかしくて、みんなに
知らせることもできず、
ごめんなさい。
寅子） 梅子さん、
あのね、私、うれしかった。
梅子） えっ･･･。
寅子） さっき、梅子さんが光三郞
ちゃんに耳打ちした時。梅子さん
は、新しい民法がきちんと頭に
入ってるんだなって。
梅子） そんな、買いかぶり過ぎよ。
寅子） うれしかったです。
あっ！
轟） わあっ！
寅子） あっ、ごめんなさい。
私、戻るわね。
梅子） えっ。
寅子） 梅子さん、全て終わったら、
またゆっくり、お会いしましょうね。
梅子） トラちゃん、ありがとう。
（梅子に向かいお辞儀をし、
駆け出す寅子）
寅子） すみません。
轟） 相変わらず騒がしいやつ
だなあ。だが、よほど、俺らを
信用しているようだな。
よね） フンッ、
お前もおめでたいやつだな。
轟） 何だその口のきき方は。
よね） ああ？
轟） ああ？
梅子） 懐かしいわ。
戻ったみたい。私の人生が、
一番輝いていたあの頃に。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜家庭裁判所＞
浦野） そうですか、
大学時代の同窓生が･･･。
寅子） 私が、このまま担当
してよいのでしょうか？
浦野） 人手不足です。
しかたないでしょう。
それに、このまま親族間の
話し合いや、調停で事が
済むかもしれない。
寅子） そうなればいい
んですが･･･。
このような家事事件の場合、
調停委員が間に入り、それぞれ
の言い分を聞く調停が行われ、
まとまなければ裁判官による
審判に移ることになります。
多岐川） 佐田君。
君は判事補、兼、
家庭局事務官なんだ。
家庭局の仕事をおろそかに
されちゃ困る。
寅子） おろそかにしたつもりはあ
りませんが･･･申し訳ありません。
昔の知り合いに会いまして。
多岐川） ならしかたない。
じゃあ行くか。
寅子） あの、どこへ？
多岐川） 愛のコンサートの会場
探しに決まってるだろ！
寅子） あっ･･･。
多岐川） ハハッ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜家庭局＞
寅子） ただいま戻りました。
汐見） あっ、ご苦労さまでした。
小橋） ご苦労さまでした。
多岐川） 狙ってた会場が
押さえられた。
汐見） おお！
多岐川） 俺たちはやっぱり、
運がいいな。
寅子） でもどうするんですか？
まだ出演者も決まってないのに。
多岐川） 彼女がいいんじゃないか？
♪「東京ブギウギ」。
寅子） 福来スズ子なんて
呼べるわけないでしょ。
小橋） 佐田、家庭相談は？
汐見） あっ･･･。
佐田） ありがとう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（衝立でいくつかに区切られた、
机一つの相談室）
（席につき、準備を整える寅子）
寅子） お次の方どうぞ。
女性） 33番の方。
女性） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜猪爪家＞
4人） 頂きます。
（奥の部屋で洗濯物を
たたむ花江）
直治） あっ！
（味噌汁をこぼす直治）
直人） 何やってんだよ。
直明） そう怒るなよ。
わざとじゃないんだから。
一緒に片づけような。
花江） いいからいいから。
大丈夫よ、私がやるから。
みんな食べちゃって。
直明） ごめん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜炊事場＞
直明） 僕が代わるから、
少し休んでよ。
花江） ううん、平気。
直明） えっ、でも･･･。
花江） 直明ちゃんはお勉強に集中。
ほら、早くごはん食べてきて。ねっ。
（洗い物をする花江）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（雷雨の音）
＜大庭家＞
轟） 弁護士の、轟と申します。
よね） 助手の山田です。
徹太） 光三郞。
光三郞） あっ、頂きます。
轟） 大きくなったな。
（よねもそっと、光三郞を見る）
徹太） どうぞ、始めてください。
轟） （せき払い）
え～梅子さんに頼まれて、遺言に
書かれていた証人について調べ
ました。証人の住所として書かれ
ていた場所を訪ねたところ、全く
の、別人が住んでいました。
常） えっ、それは、
一体どういうことなの？
よね） 住所が間違っているか、
証人が実在しないか･･･。
轟） 遺言者が、遺言書を書けず、
聞き取りで遺言書を作成する場
合、証人、3人以上の立ち会い
が必要です。内容が正確であ
ることを確認した後、各証人が、
署名捺印しなければならない。
証人を偽装したならば、当然の
ことながら、遺言書は無効。
よね） それどころか、有印私文書
偽造罪に問われる恐れもある。
反論があれば聞くけど？
（すみれを見るよね）
すみれ） 何だ、
もうバレちゃったか。
常） 徹太、その何とか罪で、
こいつを訴えてちょうだい。
すみれ） だっておかしいじゃない。
徹男さんが愛していたのは
この私なのよ。
徹次） 訴えてやる。
光三郞） みんなもう、やめようよ。
これ以上争いあうのは。
すみれ） 10年も徹男さんに尽く
してきたの。少しぐらい分けて
くれたっていいじゃない！
常） 静子さん、
帰ってもらいなさい。
静子） ご案内いたします。
すみれ） 嫌よ。話をつけるまで
私は帰りません。
徹次） 早く立てよ！
光三郞） 兄さん落ち着いて。
静子） ご案内いたします。
すみれ） 帰らないって。やめてよ。
轟） ひとまずこれで、法律上の
相続人だけになったわけだ。
梅子） そうね。
でも･･･これからよ。
すみれ） 嫌よって！
やめてよ。
いいから座ってよ！
静子） 私に指図しないで！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（雷雨の音）
徹太） お前たち、
それと母さんも･･･
相続を放棄しろ。
大庭家は、俺が守っていく。
徹次） はっ？
な･･･何でだよ！
徹太） 徹次。
何年も働きもせず家で食っちゃ
寝しているやつに、渡す金は
ない。
徹次） 俺はお国のために必死
で戦って傷まで負ったんだぞ。
徹太） 大した傷でもないのに
甘えるな！ 光三郞。学生の
お前に、大庭家の財産を管理
するのは無理だ。
光三郞） でも･･･。
常） 徹太に任せるのがいいで
しょう。あなたたちを育てた、
この私が言うのですから、
間違いはないわ。
静子） お義母さんとおばあちゃ
まも、私が最期までお世話し
てあげますので。
徹太） そもそも、この家の財産
はもともと全部、長男である俺
のものになるはずだったんだ。
その権利が俺には･･･。
よね） ないですよ。民法が改正
されたことくらい、弁護士なん
ですからご存じですよね？
配偶者が3分の1。直系卑属で
ある息子のあなたたちが、3分
の2を等分にする。
徹太） 部外者は、
引っ込んでてくれないか。
（よねを止める轟）
徹次） でもその女が
言うとおりだ！ そ･･･そうだ！
母さんだけ放棄すればいい。
それを俺たちでまた3等分すれ
ばみんな得するじゃないか！
（梅子が顔を上げる）
梅子） 私は、放棄しませんよ。
徹太） 母さんまで！
何をバカなことを･･･。
父さんがいたら何て言うか。
話し合いは決着がつかず、
家庭裁判所の調停に、
持ち込まれることになりました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
超簡単感想で♪
改めて、梅子さんと再会の喜びをわかち
あう寅子。梅子さんが大庭家にいる事情
も分かったけれど･･･。亡くなった梅子の
夫のクソ男ぶりときたらもう！ 妾が持っ
ていた遺言が偽造だったことがすぐ分か
ったのはいいけれど･･･いやはやもう･･･。
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