「ブギウギ」 第117回
第25週「ズキズキするわ」
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昭和31年（1956） 秋
愛子の誘拐未遂事件から、
１年がたちました。
（近所の子供たちとかけっこ
をして遊んでいる愛子）
この年の政府の経済白書に、
「もはや戦後ではない」と記され、
日本は、新しい時代へと、
進み始めていました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜スズ子の家＞
スズ子） いや～愛子にはまだ
早いカステラやったで。
高級品やん。
タケシ） 全く、こんなこと書くのは
どうせまた鮫島の野郎ですよ。
全く許せない！
スズ子） あの子ら何人
おったかいな？
大野） うち出ていった時は５人
だけど、どうせ増えるんでしょう。
スズ子） ター坊。
愛子ら呼んできて。
タケシ） ちょっと、その前に見てくだ
さいよ、この記事！ 腹が立つ！
（「これからは水城アユミの時代！
福来スズ子のブギはもう終わり」
と書かれた雑誌の記事）
スズ子） 何回も見たがな。しゃあ
ないやろ。ワテの人気も落ちて
きてるんは確かやし。
タケシ） いやそれはそうかも
しれませんけ・・・。いや、
そんなことないですよ！
何だこの水城アユミなんて、
まだ全然ひよっこですよ！
悔しくないんですか？
こんなこと書かれて。
スズ子） まあ、ワテは、どう思われ
てもええけど、羽鳥先生がこんな
ふうに書かれるんは、腹立たしい
わな。
（「福来スズ子と羽鳥善一の
コンビはもう古い」の文字）
タケシ） いや、羽鳥先生はどうで
もいい。いや、よくないですけど、
福来スズ子をこんなふうに書くな
んて、僕は許せない。どう思われ
てもいいんですか？ 僕は嫌だ！
スズ子） ええからはよう子供ら
呼んできてえな。
大野） もう、わだし行ってきます。
スズ子） すんまへん。
愛子） マミー！ おなかすいたわ！
スズ子） ああ～。
愛子） なあなあ、おやつちょう
だい！ 友達連れてきてん。
スズ子） うん。
カステラ切ったんあるで～！
子供） カステラ？
スズ子） 残念ながらあんたらには
もったいないええカステラしかな
かったわ。よう味わうんやで！
子供達） やった～！
早く食べたい！
大野） その前に手洗って、手！
なあ？ 手！ はいはいはい・・・。
「東京ブギウギ」の大ヒットから
９年。ブギブームも、下火になり
つつありました。
タケシ） ああ～！ やっぱり、
悔しくてたまりませんよ。
そろそろ、羽鳥先生にも何か
新曲作ってもらいましょうよ！
スズ子） せやけど、先生も、映画の
お仕事や何やで忙ししてはるがな。
ほれ、ター坊も手ぇ洗ってき！
タケシ） そんなこと言ってたら、水城
アユミに抜かれちゃいますよ。
（雑誌に目をやるスズ子）
（水城アユミの笑顔の写真）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜羽鳥家＞
（雑誌の記事を見ている善一）
麻里） はいどうぞ。
あなたでもそんな記事が気に
なることがあるんですか？
善一） ん？ いやいや・・・。
まあ、福来君とは、もう何十曲も
ブギを作ってきたし、そろそろ飽
きてくる人がいても当然ですよ。
まあ、でも、世間は好き勝手な
ことを言うね。まあ、流行歌は、
大衆の好むところにピントが合
わないと終わりですからね。
麻里） でも、私は、あなたの歌は、
今もいいと思ってますわ。
善一） よく言うよ、興味ないくせに。
でもありがとう。愛する人の言葉
が励みになったところで、仕事に
戻りますか。
（善一を目で追う麻里）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜スズ子の家＞
（真剣に腕を振る愛子）
スズ子） 寝る前まで練習せんか
てええがな。手伝い。
愛子） あかん。私ホンマにかけっこ
の選手になったろ思てんねん。
もうあいつら相手にならへん。
スズ子） あんまり調子乗ったら
あかんで。せっかくお友達でけ
たんやし、ずっと勝てるわけも
あらへんねんから。
愛子） 嫌や。せやからマミーも
負けたらあかんで。
スズ子） え？
愛子） ター坊がよう言うてる。何や
ライバルの歌手がおるんやろ？
スズ子） 別に、ライバルとか、
そういうんちゃうわ。
愛子） ほんでも、私の負けず
嫌いは、マミーに似た思うわ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜丸の内テレビ＞
（スズ子が、タケシと来る）
タケシ） おお～久しぶり！
最近全然声かけてくれないじゃ
ない。すねちゃうよ、俺。今度
飯行こう。銀座にうまいすし屋
出来たのよ。
スズ子） ター坊、はよ行くで。
失礼します。
タケシ） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
代々木） すみません、
わざわざお呼び立てして。
今年も是非、福来さんには、
年末の、「男女歌合戦」に出て
いただけたらと思いまして。
タケシ） 代々木ちゃんさ、福来が
出るのは全然構わないんだけど、
当然トリは取らせてもらえるんだ
よね？
代々木） 分かってますよ。当然トリ
でいかせてもらいます。ただ福来
さん、これ、許可を取ることでもな
いんですけどね、トリ前に、水城
アユミを持ってきてもいいですか？
スズ子） え・・・。
タケシ） 水城アユミ！？
いやいやいや、まだ早いでしょ。
10年早いって！
代々木） いや俺もそう思うんだ
けど、勉さんがさ。
タケシ） 勉さんが何？
沼袋） ごめんごめん、
遅くなりました！ ははは！
入ってませんでした。ははは！
スズ子） 勉さん、
ご無沙汰しております。
沼袋） あ～ご無沙汰音沙汰
色恋沙汰はもうたくさん。
ははは！ うまいね！
いやいやいやいや・・・いやね、
僕のアイデアなのよ。うん。水城
アユミと、福来スズ子を並べる。
どう？ この順番で歌ったら客は
盛り上がるよ？ うん？ 新旧対
決！ お灸はおケツ！っつって。
はははははっ！ うまいね。
タケシ） どうかな？
僕はまだ早いと思いますけどね。
沼袋） 何を言ってんの！ あの子
今すごい人気なんだよ。え～
どこだどこだどこだ？ ほら！
これ見てほら！
タケシ） 天狗になってる顔ですよ。
沼袋） そこが面白いんじゃない！
さすが分かってるねえ。
天狗になった若手の鼻を、
ベテランがへし折る。ははは！
バッキバキに折ってくれちゃって
いいから。
スズ子） あの・・・その辺りは
お任せします。ワテなんかより
えらい人気ありますのやろ？
代々木） いやいや、そんなことは
ありませんよ。新旧の人気者に
並んでいただけたらと思ってい
るだけで。
スズ子） ワテは、旧でっからねえ。
もう古いですわ。体も前みたいに
動かんようになってきましたし。
沼袋） 何を言ってんの。そこを若手
の前で意地を見せてやってよ！
お前なんか10年早いってさ。そう
いうのが見たいんだよ客は。歌だ
けじゃなくってさ、そういうベテラン
の意地っていうの？ そういうのが
見たいんだな、これが。はっはっ
はっは！
タケシ） どれだけ人気があるのか
知らないけど、こんな小娘トリ前に
持ってきて、「オールスター歌合戦」
の名折れにならない？
沼袋） ならないならない！ なら
いらないっつって。はっはっは！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
タケシ） 全く勉さんも無礼だよな。
水城アユミの記事まで見せてきて、
何考えてんだって。あんな失礼な
人でしたっけ？
スズ子） ああいう人やったやろ。
それに、演出いうもんもあるやろ。
勉さんは敏腕ディレクターさんやし、
いろいろ考えてはりまんのや。
タケシ） 考えるったって、
こっちのプライドもあるからな。
ちょっと調子に乗ってるでしょ。
俺今度局長にひと言言っときま
すよ。今度の局長とは同郷だし。
スズ子） あんたも十分調子に乗っ
てるで。ワテ、近頃思うててんけど、
あんた、妙に、業界に染まり過ぎ
やないか？ 山下さんそんなんち
ゃいましたで。何やの。
男性） スズちゃん？久しぶりやね。
（男を見るスズ子）
（回想）
♪（間違えたピアノの音）
大和） 股野さん！
スズ子） ああ～！ 股野はん！
股野はんやないでっか！
股野） はっはっはっは。
スズ子） ちょっと待って・・・。
股野） いや～こんなところで会え
るやなんて思わへんかったな。
スズ子） あ～それはこっちのセリ
フや！ 何言うてはりまんのや！
あ～懐かしい！ 股野はんや！
どっからどう見ても股野はんや！
何年ぶりや！
股野） 礼子の葬式以来やから、
かれこれ、18年か、19年ぶりやな。
スズ子） そうや。
大和さんの・・・あれ以来やな。
股野） うん・・・。
ホンマ、立派になったねえ。
タケシ） あの・・・どなたで？
スズ子） あっ、股野さんいうてな、
大阪の梅丸時代にめちゃくちゃ
お世話になった方や。
ピアニストやってんで。あっ、あっ、
うちのマネージャーのター・・・。
柴本君です。
タケシ） お世話になっています。
股野） 頂戴します。
僕も名刺を・・・。
スズ子） 股野はんは今どうして
はるんでっか？ こんなとこで。
股野） うん。実はな・・・。
あ・・・すんません。
名刺切らしてもうてるわ。
実は・・・柴本さんと同業ですよ。
マネージャー業で。
スズ子） マネージャー！？
股野はんが！ へえ～！
えっ、どなたの？
股野） うん。実は・・・。
アユミ） お父さん。
股野） あっ、こっちや。
（股野と並ぶ、どこかで見た顔）
タケシ） えっ？
えっ・・・あっ・・・お父さんって・・・。
股野） 娘の、水城アユミです。
スズ子） ええ～っ！？
股野） 僕、今な、娘のマネージャー
やってるんや。
（スズ子に向かい、
丁寧に頭を下げる娘）
アユミ） 初めまして。
水城アユミです。
スズ子） あ・・・どうも、初めまして。
福来スズ子です。
タケシ） 私、マネージャーの・・・。
アユミ） 私、福来先生の大ファンです。
父からよく、先生のお話は聞いてい
ました。母が生前、お世話になって
いたことも。
スズ子） 先生やなんてそんな・・・。
ワテ、先生ちゃいまっせ。それに、
お母さんにお世話になってたんは、
ワテでっせ。ホンマに、すばらしい
お方で、尊敬してましたけど・・・。
（ステージの大和がよぎる）
スズ子） 水城さんも、大和さんの
面影ありますなあ。キリッとした
表情なんかそっくりや。
アユミ） ありがとうございます。
母のことは、父や、いろんな方から
話を聞いて、福来先生と同じくらい、
尊敬しています。
スズ子） せやから先生てやめてくだ
さい。尊敬するんはお母さんだけで
十分や。
股野） せやスズちゃん、今日はこれ
から打ち合わせもあるし、近々、ど
っかで会われへんかな？ 積もる話
もまだまだあるし。
スズ子） もちろんや！ ワテも話した
いこと、たくさんあります。
股野） うん。そしたら、頂いた名刺
に連絡させてもらうわ。
スズ子） はい。
タケシ） 福来もあまり暇じゃないんで、
すぐ都合つくか分かりませんけどね。
スズ子） ター坊。
股野） もちろんや。
暇な時でよろしいんです。ほな。
アユミ） 失礼します。
（スズ子にお辞儀をするアユミ）
股野） 行こか。
沼袋） おっ！ 待ってたよ、
若手のホープちゃん！
ホープホーパー ホーペスト！
ははは！ うまいね。
タケシ） かわいげないなあ、水城
アユミも。かわいがられませんよ。
行きましょう。
（水城アユミを目で追うスズ子）
回想）
大和） あなた、どうして踊るの？
（大和の声がよみがえる）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
沼袋勉！ おそらくモデルは・・・和田勉！
いや～久しぶりに思い出したわ、この人。
いたいた。ガハハ笑いの人。まさか真逆
のタイプの中村倫也が演じるとはね～。
まさにサプライズ出演！ やるね～NHK。
中の人がもう楽しそうで楽しそうで・・・ｗ
そしてもう一つのサプライズ。水城アユミ
が、あの大和礼子さんの子供だったこと。
なるほどそう来たか！ ワクワクズキズキ
してくるね～。過去がすべて今につなが
って、長いスタンスだから描ける朝ドラら
しさというか、フィクションの醍醐味だね。
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