「ブギウギ」 第67回
第15週「ワテらはもう自由や」
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昭和20年（1945） 8月15日
＜富山・旅館＞
ﾗｼﾞｵ） 「・・・時運の趨く所、
耐え難きを堪え、忍び難きを忍び、
以て万世の為に太平を開かんと
欲す。朕は茲に国体を護持し得て、
忠良なる爾臣民の赤誠に信倚し」・・・。
小夜） よぐ聞こえねえんだげど、
何のごど言ってんだ？
一井） 日本は、戦争に負けたんだ。
小夜） ええっ！？
三谷） あっけないもんだな。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜鹿児島・旅館＞
（畳の上に寝転がったりつ子）
女中） 失礼します。茨田さんな、
ラジオは、聴っきゃったどかい？
日本な、負けもしたよ。
りつ子） そう・・・
やっと終わったのね。
（マニキュアの手を握りしめ、
真っ赤な唇をぎゅっと結ぶ）
りつ子） 随分、かかったわね・・・。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜上海＞
（酒を飲む善一）
声） 国土を帰せ！
国土を帰せ！ 国土を帰せ！
日本は降伏した
我々は勝った！
（酒をあおり、窓の外に
暗い目を向ける善一）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜上海＞
善一） 黎君・・・。
黎） コングラチュレーション、
羽鳥先生。
善一） 日本は負けたんだ。敗戦国の
人間に、「おめでとう」はないだろう。
黎） おめでとうです。これでもう、
私たち音楽家に国境はない！ 敵も、
味方もなく堂々とつきあえます。
善一） しかし、僕はもうこのまま日本
に帰れないかもしれないよ。実際
負けると恐ろしいもんだね。いくら
飲んでも酔えないんだ。
（酒を奪って飲む黎）
黎） 私は信じてます！
無事、日本に帰った先生が、また
素晴らしい音楽を、鳴らし続けると。
（黎の手を握る善一）
善一） 黎君。君と会えてよかった。
（抱き合う二人）
黎） シェシェ。
善一） シェシェ。
黎） シェシェ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜富山の旅館＞
山下） 一応、興業主にも確認してみ
ますけど、恐らく、予定していた公演
は、すべて中止でしょうな・・・。
スズ子） ほなら、帰ろ。
一井） そうだな。家に帰ろう。
三谷） そうだな。
四条） 帰りましょうか。
スズ子） よっしゃ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜玄関＞
女将） どうぞ。
小夜） 頂きます。
スズ子） おおきに。
小夜） 汽車ん中で食べるべ。
女将） 皆さん、お気を付けて
お帰りくださいね。
山下） 予定より、長居してしもて、
ご迷惑おかけいたしました。
スズ子） お世話になりました。
従業員） でも、気ぃ付けてくださいね。
これから米兵が、大勢乗り込んでく
るって話やからぁ。六尺もあるぅ大男
どもがぁ、日本の男を全員、奴隷に
すっがいと。
三谷） 六尺！？
四条） 奴隷？
従業員） そんで、女はみんな妾に・・・。
小夜） 妾って・・・みんな手ごめに
されるっつうことげ！？
女将） あははははははっ！
「みんな」け？ あんたダラなこと
言われんちゃあ。
従業員） なんホンマながですちゃ。
女将） 日本の女がぁ、み～んな妾に
なるがやったらぁ、米兵さんの奥さん
や恋人が黙っとらんちゃ。
スズ子） 確かにそうやわ。
ワテやったら、絶対許さへん。
（笑い声）
（幸を抱き、静枝が来る）
スズ子） 静枝さん。
戦争は負けてしもたけど、
気を確かに生きような、
静枝） ええ。先の事はぁ、
不安やけどぉ、生きてしくしか、
ありませんからね。
スズ子） 元気でな。
幸） うん。
（笑い声）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜ギュウギュウ詰めの汽車の中＞
スズ子） 愛助さん、どないしてる
やろ？ いざ、帰るてなったら、何や、
急に心配になってきてしもて。病気
のこともあるし。大丈夫やろか？
小夜） 大丈夫ですって。
坂口さんもいるし。
（スズ子のリュックに手が伸びる）
小夜） 何やってんだ！
男性） えっ？ えっ？
小夜） 荷物、狙われでる。
スズ子さん、旅館でもらった
食いもん、早く食っちまあべ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
スズ子たちは、
何とか東京にたどりつき、
楽団のみんなと、
活動再開を誓って、別れました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜三鷹の家＞
小夜） 着いだ・・・。
スズ子） あ・・・あれ？ あれ？
えっ、愛助さん？ 愛助さん！
スズ子です！ 戻りました！
（玄関が開かない）
スズ子） 愛助さん・・・！
愛助） スズ子さん！
（抱き合う二人）
スズ子） ただいま。
愛助） お帰り。
（坂口が飛び出してくる）
坂口） 何やあんたらか！
小夜） 疲れだぁ・・・。
坂口） む・・・。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜茶の間＞
坂口） ホンマ、無事に戻って
これて、よかったな。
小夜） 汽車はすし詰めでギュウ
ギュウ、人の荷物にまで手ぇ
出すもんもいるしで、油断も隙
もねえ。寿命が縮みました。
愛助） 皆殺気だってるし、油断
せえ方が、ええやろな。
坂口） 大阪では、終戦の前日まで、
空襲があったいう話だす。
愛助） とことんやられて・・・
日本は何もなくなってしもた。
スズ子） 何もないことはない。
ワテは、生きてここにおる、
愛助さんかてそうや。坂口さんも、
小夜ちゃんも、みんな、生き残って
ここにおる。
愛助） 確かにそやな。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜二人の部屋＞
スズ子） 小夜ちゃん、
ぐっすりやったわ。よっぽど
気ぃ張ってたんやろな。
愛助） ふふ・・・。
スズ子さんは、たくましいな。
スズ子） 何？
愛助） さっき言うてたやろ。
生きてここにおるって。
せやけど、おかげで背筋伸びたわ。
スズ子） そら、いろいろ気にはなるで。
お父ちゃん、どないしてるんやろ？
はな湯のみんな、USKの仲間は？
羽鳥先生かて、今、どないしてんね
やろ、とか・・・。せやけどな、考えて
もわからへんし、ワテは、信じること
にした。
愛助） （頷く）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜台所＞
スズ子） あかん、何もあらへん。
「欲しがりません、勝つまでは」
言うてたのに、負けたら、元も
子もないわなあ。どないしよ？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜庭＞
スズ子） 愛助さん、野草採ってきます！
愛助） ああ。
小夜） 何やってんだ？
愛助） 畑しよ思て。
坂口さんに教わったんや。
ほら。
（種芋）
スズ子） ジャガイモかいな！
そらええな。
愛助） 僕、そんなん思いつかへんかっ
た。病気もあるし、空襲は来るしで。
まあ、植えといたら、いつか食える
やろ。
スズ子） そやな。とりあえず、
今日の晩ごはんは野草や。
ぎょうさん採ってくるさかい、
楽しみに待っててや。
愛助） 期待してるわ。
スズ子） 行くで。
小夜） はい。
愛助） 気ぃつけてな。
二人） は～い！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（ちゃぶ台に、野草尽くしの料理）
3人） 頂きます。
（まずは雑炊）
愛助） これ、何の草・・・？
小夜） ヨモギと・・・
これは何だったがよお？
愛助） 食べられるだけマシやけど・・・。
スズ子） 摘んだ時は、
おいしそうに見えたのにな・・・。
小夜） 庭のジャガイモ、楽しみだなあ。
（笑い声）
スズ子） ジャガイモできたら、
どないして食べる？
小夜） 煮っころがし。
スズ子） 多分、お砂糖も
お醤油もないで。
愛助） 蒸して食うしかないやろな。
小夜） そんでも、葉っぱ食うよりは
マシだっぺ。虫じゃあるまいし。
愛助） ジャガイモがうまくいったら、
次は何を植えよ。
スズ子） ダイコン、カブ、ニンジン。
小夜） 今なら全部ごちそうだ。
スズ子） 何を食べてもごちそうや
なんて、それはそれで悪ないな。
なあ？
（微妙な味わい）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜上海＞
（机に向かい、楽譜を書いている）
（ドアを激しくたたく音）
（ピストルを構えた男）
男） （中国語で）羽鳥善一は
お前か？ 日本人だな？
善一） （中国語で）いや、私は
ただの音楽家だ。
（連れ去られる善一）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
やっと・・・戦争が終わった。よかったよかった。
負けたけど、終わってよかった。やっと前に進
むことができる。実際は、まだまだ大変だけど。
それより何より上海の羽鳥先生が気になる！
大丈夫だとは分かっているけど、それでもね、
戦争が善一にどんな影響を与えているのか
気になるし。早く元気な姿を見せておくれ～。
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