「舞いあがれ！」 第119回
第25週「未来を信じて」
もう、こういう歌は、詠めません
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＜カフェ・ノーサイド＞
佳晴） 舞ちゃん、お疲れさん。
舞） ありがとうございます。
すっかりなじんでますね。
佳晴） せやろ？
俺も居心地ええねん。常連さん
とラグビーの話もできるしな。
津田） この人な、おしゃべり
ばっかりし過ぎてすぐ仕事
忘れんねんで。
舞） あら。
佳晴） ちょっとぐらいええやないか。
なあ？
客） あっ、注文よろしい？
佳晴・津田） は～い。
佳晴） ああ俺行くわ。
津田） ああ。
佳晴） はいはい。
（戸が開く音）
舞） あっ、お兄ちゃん、こっち。
悠人） うん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
悠人） 空飛ぶクルマねえ…。
舞） 新しい投資家さん探して
んねんけど、ええ人おらん？
あ…お兄ちゃんも興味あったら…。
悠人） 飛行機は全く分からん。
そもそもハードェア開発の、投資
はハードルが高い。まだ世の中
にないもんに金出してもらわな
あかんねんから。
舞） どないしたらええんやろ…。
悠人） （ため息）
大事なんはトップに立つ人間
のカリスマ性や。物がなくても、
この人やったらできると思わ
せる説得力があらなあかん。
ホンマにやり遂げる素質と、
覚悟があるかを見られんねん。
舞） 刈谷先輩やったら大丈夫。
空飛ぶクルマ、
絶対作り上げると思う。
悠人） フフ…。
ホンマ飛行機好っきゃなぁ。
舞） 普通の飛行機ちゃうよ。
空飛ぶクルマやで。
悠人） 分かった。俺のつてで、
面白そうな投資家何人か紹介
したるわ。
舞） ありがとう。
悠人） まあ頑張りぃや。
舞） うん。
佳晴） はいお待っとうさん。
♪（バイブレーション）
（悠人のスマホにメール）
舞） 久留美？
悠人） うん。
舞） 連絡ちゃんと
取ってるんやなぁ。
悠人） 当たり前やろ。
舞） おっちゃんも、
元気やでって伝えといて。
悠人） どうせお前からも
連絡すんねやろ。
舞） ええ報告はな、
なんぼあってもええねん。
（笑い声）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜ABIKILU＞
御園） え～それでは、これから本格的
に業務提携させていただくにあたって、
まずはどのようなご協力ができるのか、
岩倉と私でまとめてきました。
刈谷） はい。
玉本） ホンマ頼りになります。
舞） いや…。
刈谷） 本当にありがとうございます。
御園） まず、これからうちの方で、
資金調達に動きます。なので刈谷
さんには、投資家に見せられる
プレゼン資料と、必要な予算案を
頂きたいです。
刈谷） 分かりました。
舞） 興味を持たれた投資家さんが
見つかったら、実際に、試作機を、
見学していただくことになると思い
ます。
刈谷） はい。
御園） 大変だと思いますが、
よろしくお願いします。
舞） お願いします。
刈谷） いや…それは任してください。
これまでたった２人だったんで、
開発が滞ってました。ですが、
こんねくとさんがいれば、話は
別です。
舞） ありがとうございます。
御園） ありがとうございます。
玉本） よっしゃ、気合い入ってきた！
舞） はい！
玉本） 頑張りましょう。
御園） はい。
舞） お願いします。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜こんねくと＞
電・舞） はい、そうでしたか…。
実際に機体をご覧いただけたら…。
ああ…そうですか。はい、分かりま
した。改めてご連絡させていただき
ます。はい…はい、失礼いたします。
御園） 舞ちゃんちょっといい？
舞） はい。
御園） また新しい話なんだけど、
カワチ鋲螺さんから連絡が来てね、
若手社員向けの、技能講座をやっ
てほしいって。
舞） 技能講座ですか？
御園） うん。ものづくりの現場を知る
機会として、研修みたいなことかな。
舞） ああ…。商社の方から、そんな
依頼が来るなんてうれしいですね。
御園） 技術教室を見て、
依頼を決めてくれたんだって。
舞） 是非、受けましょう。
御園） オッケー、絡しておく。
舞） お願いします。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜岩倉家・２階＞
舞） 出た？ 風邪ひくで。
ありがとう。
貴司） ドライヤー。
舞） ああ、ありがとう。
貴司） うん。
舞） ごめんな。
おいしそうやな、スイカ。
お母ちゃんも食べたい。
貴司） お父ちゃんも食べたいわ。
歩） 宇宙人も食べたいって。
貴司） 宇宙人も…
そやな、おなかペコペコや。
舞） ペコペコや。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（歩を寝かせた後、
パソコンに向かっている舞）
舞） う～ん…。
（ノートを開き、考えている貴司）
（ポットを手に出ていく貴司）
♪（バイブレーション）
舞） あ…。
電・舞） もしもし、
こんねくとの岩倉です。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜一階のリビング＞
貴司） ああ。
祥子） ああ、貴司。
こん歌や、よかね。
（貴司の歌集を広げた祥子）
祥子） 「海底の 砂に手差して
冷たさに しびれた指を
水でぬくめる」。
「ぬくめる」っちゅう平仮名や、
こげん温かいとね。
貴司） ありがとうございます。
（ポットに水を入れる貴司）
貴司） もう、こういう歌は、
詠めません。
祥子） そうね？
貴司） 自分で詠んだ歌やのに、
今見たら、すごい遠いこと
みたいに思います。
祥子） 難しか。そういうもんね？
貴司） おやすみなさい。
祥子） およおよ。おやすみ。
（貴司を目で追う祥子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜こんねくと＞
舞） 今のところ、３人の投資家さん
のアポが取れました。
御園） 悠人さんが紹介してくれた人？
舞） はい。投資家さん、悠人さんの
紹介やったらって、言うてくれはっ
たんです。もちろん、事業にも興味
持っていただいてます。
ホンマに、兄に感謝です。
御園） へえ～！ いよいよ、刈谷さん
たちの腕の見せどころだね。
舞） 熱い思い、
語っていただきましょう。
御園） うん。
舞） それと、相談なんですけど、
こんねくとに、アルバイト、
雇いませんか？
御園） バイト？
舞） さすがに、手ぇ回らんように
なってきましたし…。
御園） 仕事も順調だし、うん…
タイミングとしてはいいと思うよ。
舞） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夜・岩倉家＞
♪（通知音）
ﾒｰﾙ・貴司「今日は遅くなります。
先に夕飯食べといてください」
舞） 貴司君、遅なるって。
祥子） ああそうね。
舞） うん。片づけるよ。
めぐみ） ただいま。
祥子） ああ、お帰り。
章） お邪魔します。
めぐみ） どうぞ。
舞） 章にいちゃん。
章） こんばんは。
章にいちゃんは、
めぐみさんからIWAKURAの社長を
継ぐことを、打診されていました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
♪（鈴の音）
（仏壇に向かい手を合わせる章）
章） めぐみさん。
覚悟、決めました。
めぐみ） ありがとう。
（頭を下げるめぐみ、舞、祥子）
章） 未熟なとこもあると思いますが、
どうか、ご指導よろしく
お願いいたします。
めぐみ） こちらこそ、
よろしゅうお願いします。
章） それと…僕の後任を、尾藤に
したいんです。僕が抜けたあと、
圧造課を任せられんのは彼しか
いてへんと思てます。
めぐみ） そやね。もう設計もできる、
立派な職人になってんねもんな。
章） はい。
めぐみ） 分かりました。
尾藤君にも、話ししてみます。
章） ありがとうございます。
めぐみ） 営業には藤沢君がいてるし、
経理は紗江ちゃんがプロやから、
その辺、どんどん、みんなに、
頼ったら、ええと思うで。
章） はい。
めぐみ） IWAKURAはそないして、
みんなの力で、ここまで大き
してきた会社やから。
章） そうですね。そのバトン、
しっかり受け取ります。
めぐみ） お願いします。
章） はい。
舞ちゃん。
舞） はい。
章） こんねくとともども、一緒に
東大阪を盛り上げていこ。
舞） はい。よろしくお願いします。
章） こちらこそ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜朝・ABIKILU＞
玉本） ベンチテストの結果も良好。
刈谷） きちんと理想の推力も出とる。
このカーボンペラで、少しは機体の
制御も軽やかになるはずたい。
玉本） おう。楽しみやな。
刈谷） うん。
玉本） 午後の試験までに
もろもろ作業終わんのか？
刈谷） 石にかじりついても
間に合わせないかんやろ。
玉本） ホンマやな。
刈谷） ああ。
舞） お邪魔します。
刈谷・玉本） おう。
渥美） お邪魔します！
玉本） あれ？
渥美） やってますね！
玉本） 渥美！ 来てくれたんか。
渥美） 刈谷さんからも連絡頂いて
て、ずっと行きたいなって思って
たんです。遅くなってすんません。
刈谷） いつでも歓迎たい！
渥美） おお…
聞いてたとおりの大物や。
舞） 渥美さん、これから週末は、
お手伝いに来てくださるそうです。
渥美） 大したことはできないです
けどね。でも、僕も、その辺の
情熱は消えてません。
また一緒にやらしてください。
刈谷） ありがとう、助かる。
玉本） うれしいなぁ、おい。
舞） 機体も、着実に進化してますね。
刈谷） ああ。それもこれも、
こんねくとさんのおかげたい。
舞） プレゼンまでのラストスパート、
頑張りましょう！
刈谷） おう！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
空飛ぶクルマの開発は、
急ピッチで進められました。
（作業に没頭する、
刈谷と玉本と渥美）
玉本） じゃあ回します。
刈谷） はい。
機体がバランスを取りながら
安定して浮上できるように、
試作機の動作検証や、
制御システムの改善など、
さまざまな改良を行います。
玉本） １つずつ試してみよう。
渥美） おう。
刈谷） ありがとう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
玉本） やっぱスロットル思い切って
入れなあかんな。浮き始めはいい
感じや。
刈谷） いいやまだまだやろ。
ほら、暴れとる。
玉本） 改善点洗い出そう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
渥美） 刈谷さん、
ちょっと休憩しましょうよ。
刈谷） ああ。
玉本） これ俺もらうわ。
舞） 私も。
投資家へのプレゼンの日が
近づいてきました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
空飛ぶクルマの開発は、ABIKILUとこんねくと
の業務提携で、時間はかかるだろうけど、なん
とかなりそうな、希望は見えてきたような気配。
渥美先輩も加わったことから、これからもっと、
今まで関わってきた人達が登場しそうな予感。
海底の 砂に手差して
冷たさに しびれた指を
水でぬくめる
もう、こういう歌は、詠めません。
自分で詠んだ歌やのに、今見たら、
すごい遠いことみたいに思います。
貴司君が詠めなくなった理由はなんとなくわ
かる気がする。ちょっとした孤独や欠乏感が
創作につながる人はいる。精神的飢餓状態
にならないと書けなかったり…するのは自分
のことですｗ 心が激しく動かされないと、書
く気分にならないというのはあるような気が。
貴司君が、心の底から笑えて、歌を詠みたく
なる環境になりますようにと、心から祈る私。
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