「舞いあがれ！」 第95回
第20週「伝えたい思い」
私、先生のともし灯になりたいです
※無断転載対策のため、不本意ですが、
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舞） 先行くな。
めぐみ） もう？
舞） うん。
めぐみ） 顔色悪いな。
寝不足とちゃうの？
舞） ああ…大丈夫。
めぐみ） 何か、
悩んでんねやったら、聞くけど。
舞） 大丈夫。今日から、ブログ用
の取材も始めんねん。頑張らな。
行ってきます。
めぐみ） うん、行っといで。
（舞を目で追うめぐみ）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（公園のベンチに貴司）
（広げたノートは白紙）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜デラシネ＞
北條） えっ、梅津さんまだ
一首も書けてないの？
（ため息）
梅津さんの言語感覚ならさ、
ちゃちゃっと作れそうなもん
だけどね。
史子） 先生は、一首ずつに
魂を込められる方なので。
北條） 魂。
史子） 私、魂のこもった、梅津先生
の恋の歌、すごく楽しみなんです。
北條） 梅津さん、これまで、
恋の歌作ったことないもんね。
史子） え？
北條） え？
史子） ありますよ、恋の歌。
300首の中に1首だけ。
（原稿の束を広げる北條）
北條） 多いな…何だよ、どれよ？
史子) ああこれです！
「君が行く 新たな道を 照らすよう
千億の星に 頼んでおいた」。
北條） 何でこれが恋の歌なのよ。
史子） 本歌取りやからですよ。
この歌の下敷きになってんのは、
狭野茅上娘子（さののちがみの
おとめ）の和歌やないですか？
北條） 狭野茅上…。
「君が行く 道の長手を 繰り畳ね
焼き滅ぼさむ 天の火もがも」。
別れざるをえなくなった、
夫への思いか。
史子） そうです。
その和歌に詠まれた情熱的な
恋心が、まるで隠しきれない炎
のように、梅津先生の歌に見え
隠れしてるんです。したがって、
君というのは恋の相手です。
北條） なるほど…よく気付いたな。
史子） 先生と私には、
特別な絆がありますから。
北條） けどさぁ、何でこんなに
分かりにくいのかね。
史子） 慎み？
北條） 慎み…慎みいらない。
梅津さんには情熱をそのまま
歌にしてほしいのよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜IWAKURA＞
舞） 記念すべき１回目のブログは、
笠巻さんのインタビューを、
載せたいと思ってます。
笠巻） いや～俺はええて、口下手
やしな。もう…仕事戻るで。
舞） ああ…笠巻さんお願いします。
お話伺いたいんです。
笠巻） 何でやねん。
舞） IWAKURAで、作ったねじは、
何十年も残ります。けど、ねじを
作った職人さんの気持ちは、
残りません。私は、ほっといたら
消えてしまうその気持ちを、
なんとか残して、伝えたいんです。
IWAKURAを、ここまで支えてくれ
たんは、その職人さん一人一人の、
気持ちやと思うから。笠巻さんは、
祖父の代から、誰よりも長く、
IWAKURAを守ってくれはりました。
どんな思い出があって、どんな
気持ちで働いてきはったんか、
記録に、残させてほしいんです。
笠巻） 分かった。
何でも聞いてくれ。ハハ。
舞） ありがとうございます。
ほな、まず、入社された時のこと、
教えてください。
笠巻） あれは、25の時やったから…
もう44年前やな。ハハハ。従業員
3人の、ちっちゃい工場やったけど、
高度経済成長期でな。ねじは、作
れば作るだけ売れたよって。機械
は毎日フル稼働やった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夜・岩倉家＞
（台所で料理をしている舞）
めぐみ） ただいま。
舞） お帰り。
お母ちゃん、
ええブログになりそやで。
めぐみ） そう。
よかった、元気そうや。
舞） ん？
めぐみ） 最近、何や、
沈んでたやろ？ 心配しててん。
舞） うん。
めぐみ） ビーフシチュー？
舞） うん。2時間煮込んで、
ブランデーも入れた。
前に貴司君が教えて…。
めぐみ） 2時間か…。
今日もまた、デラシネ
行けへんかったんやね。
舞） 貴司君、今、大変な時やし、
秋月さんもいてはるから…。
めぐみ） 舞、もうちょっと、
わがままになったら？
舞） わがまま？
めぐみ） ホンマに人好きになる時な
んか、一生のうち何べんもあれへ
んねんで。そん時ぐらい、自分の
気持ちのままに動いたらええねん。
お母ちゃんな、お父ちゃんのこと
好きになった時、自分の幸せしか、
見えてへんかった。わがままやっ
たわ。せやけどな、お母ちゃんは、
後悔してへん。
（ガスコンロの火を止める舞）
舞） ちょっと、行ってくる。
めぐみ） うん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（家の外）
客） ごちそうさんです。
客） ごちそうさん。
雪乃） ありがとう。
近く寄ったら絶対また来てね！
客） はい！
雪乃） ありがとう！
客） ありがとう！
雪乃） フフフ。
舞） おばちゃん。
雪乃） 舞ちゃん。
舞） 貴司君おる？
雪乃） ああまだデラシネや。
舞） ああ…そっか。
雪乃） うん。
あっ、よろしく頼むわな。
史子） はい！
雪乃） ほなね舞ちゃん。
舞） また。こんばんは。
史子） こんばんは。
梅津先生に、ご用ですか？
舞） はい。
けど、急ぎやないんで。ほな。
史子） 舞さん。先生のこと、
どう思ってはるんですか？
ホンマに、ただの幼なじみですか？
私は、先生に自分の気持ち
ちゃんと伝えます。
（お辞儀をし、去っていく史子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜デラシネ＞
（ノートを広げ、ペンを手に、
机の前に座った貴司）
史子） こんばんは。
貴司） いらっしゃい。
（うめづのお好み焼きを
差し出す史子）
史子） これ、差し入れです。
貴司） ありがとう。
秋月さん、前も言うたけど、
差し入れとかええで。
史子） 私にできること、
これぐらいしかないですから。
先生。短歌できへん時って、
しんどいですよね。
真っ暗な地下に閉じ込められて、
冷たい地面手探りして、
言葉、探してるみたいで…。
貴司） そうやな。
史子） 私、先生のともし灯に
なりたいです。
ずっと、そばにおって、
先生のこと、明るくしたり、
あっためたりしたいです。
貴司） 秋月さん…。
ごめん。
史子） 悪いとこあったら直します。
貴司） 悪いとこなんてないよ。
僕な、秋月さんのこと、
すごい歌人やと思ってる。
一緒に短歌の話してたら、目の
前が、広がってく気ぃすんねん。
史子） そやのに、駄目なんですか？
舞さんのことが、好きやから？
（背中を丸め、一点を見つめる貴司）
史子） それやったら、
何で気持ち伝えへんのですか？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（明かりを消した部屋で、
ベッドに寝た舞）
（寝返りを打ち、暗い壁を見つめる）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
千億の星に頼んでおいたの歌が、舞と貴司を
繋ぐ重要な歌となるとは思っていたけれど…。
「本歌取り」がキーワードになるとは思わなか
った。それに気付くには、ただのファンだけじゃ
ない、歌人の卵でもある、秋月史子の存在が
必要だったんだね～。彼女の魂は、歌人なの
だ。単なる恋のライバル、お邪魔虫ではない。
史子） 私、先生のともし灯に
なりたいです。
ずっと、そばにおって、
先生のこと、明るくしたり、
あっためたりしたいです。
貴司） 秋月さん…。
ごめん。
史子） 悪いとこあったら直します。
貴司） 悪いとこなんてないよ。
僕な、秋月さんのこと、
すごい歌人やと思ってる。
一緒に短歌の話してたら、目の
前が、広がってく気ぃすんねん。
史子） そやのに、駄目なんですか？
舞さんのことが、好きやから？
それやったら、
何で気持ち伝えへんのですか？
舞がいなければ…舞と柏木が、あのままつき
あい続けていたら…違う未来もあったのかも。
秋月さんには秋月さんの、幸せを求める努力
をしたり、気持ちを伝える権利があるんだよね。
それに彼女は、舞の気持ちを確認しているし。
真っ直ぐに、本気の思いをぶつけてくる秋月さ
ん。さあもう、ごまかし続けてはいられないよ！
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