大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第16回~ベルリンの壁 | 日々のダダ漏れ

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日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第16回~ベルリンの壁

 

 

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1914年春、教員になる道を捨て…

2年後のベルリンオリンピックを目指し、

マラソン一本で生きる覚悟を決めた、

我が韋駄天。

新生活を始めるにあたり、

まずは引っ越し先を探しています。

 

<東京大塚・ハリマヤ>

四三) よし! ここに決めました。

辛作) 本当に? 狭くないかい?

四三) ううん、男の一人暮らし…

 うん、ここで、十分たい!

 あ~こちらこそ、家賃ば…。

辛作) あ~払える時だけでいいよ。

四三) ばってん…。

辛作) いいって言ってんだからいいんだよ。

四三) ばってん…。

辛作) いいっつってんじゃねえか!

 「ばってんばってん」しつけえなこの野郎!

四三) すいませんすいません…。

ちょう) いいの。こっちも助かってますから。

男性の声) おかみさ~ん、お願いします!

ちょう) はいよ! ごめんね。

辛作) 見ろよ。近頃は高師だけじゃなく、

 明治や早稲田の学生もわざわざ買いに

 来るんだよ。

四三) お~。

辛作) 売れちゃってんだよ、金栗四三の

 マラソン足袋! 内心複雑だよ。足袋は

 和服で畳の上で履くもんだってのによ。

四三) あっ…すいまっせん。

辛作) だけどまあ、こうして、店が繁盛して

 んのも、金栗さん、あんたのおかげだよ。

(座り直す辛作)

辛作) ありがとな。(頭を下げる辛作)

四三) ちょちょ…いやいやもう、

 おるは、走っとるだけだけん。

 こちらこそ、こぎゃん、よか部屋…。

 あっ、おまけに、富士山まで。

辛作) 富士山?

四三) はい。

辛作) ああ…いや、あれ箱根でしょ?

四三) えっ? 

 ばっ…いやいやいや、富士山でしょう。

辛作) いやいやいや、箱根箱根。

 富士山だったら貸さねえよ、もったいねえ。

 しかし…だいぶ擦り切れたなあ。

四三) はい。東京はともかく、次のベルリン

 は、舗装路の多かですけん、衝撃の強くて、

 かかとの痛うなるでしょうな。

辛作) 当て布を増やすか。

四三) うん…。

辛作) ほかには?

四三) ほかには?

 ほかには…足首の、自由に動くよう、

 コハゼば、3個減らして、くるぶしまでん

 長さにしてはどぎゃんでしょうか?

辛作) なに~!?

四三) あっ…すいまっせん!

 こ、こ…こぎゃんもん、もう、

 足袋とは呼べんですよね。あっ!

(四三の足を掴み、コハゼを見る辛作)

辛作) 試しに作ってみるよ。

四三) ほんなこつですか?

辛作) 次こそは、金メダル取ってもらわな

 くちゃなんねえからな。ハハハ…ベルリン

 か~。西洋人にまで知られたら、ますます

 忙しくなるぞコンチクショー。

四三) ハハハ…。

ちょうの声) あんた~! 

 ちょっと下手伝ってよ!

辛作) ああ! 

 忙しいなコンチクショー! ハハハハ!

四三) あっ、ありがとうございます!

辛作) ああ! 今行くよ!

(届いた荷物の中に、四三宛の封筒)

 

**********

 

手紙・四三) 「母上、スヤ殿、何の相談もなく、

 進路ば決めてしまったこと、ただただ心苦し

 く…。まして…仕送りまで頂くとは、まことに

 かたじけなく候。嘉納校長のご厚意で、高

 師の研究科に、籍ば置くことになり申した。

 時々体協に顔出すほかは、日々練習に打

 ち込んどります」。

 

**********

 

<東京高師・寄宿舎食堂>

可児) 金回りがいい?

野口) 何か、怪しい商売でもしてるん

 じゃねえかって…。健脚を生かして、

 ひったくりとか。

可児) おいおい。

 金栗君に限って、そんな…。

野口) だって、気持ち悪いです。

 ほぼ毎日ですよ? 豚鍋食いに行くん

 ですよ。払いは全部金栗さんで。

 

**********

 

店員) 追加のお肉で~す。

四三) あっ、来た来た!

男性) こっちも!

四三) はいジャンジャン食え! ジャン 

 ジャン。そっちも。食え食え食え。

可児) いや~しかし、本当にいいのかね?

 ごちそうになって。

四三) ええ! いやまさか、可児先生まで

 いらっしゃるとは思いませんでしたが。

可児) アハハハハ…。

四三) よし、ぬしら、精ばつけてな、

 明日も走っぞ! お国んために~!

一同) お~!

四三) お~!

可児) しかし金栗君、これ、お金はどこから?

四三) 食え食え!

 

**********

 

手紙・四三) 「我、ガキ大将のごとく遊ぶのも、

 私一身のためあらず。きたるベルリンオリン

 ピックで雪辱を果たし、帝国のために尽くす

 所存です」。

 

四三) おりゃ~!

 

**********

 

志ん生) 四三が、ベルリンオリンピックを

 目指していた頃、私はってえと…。ドサ

 回りの一座をクビになり、万朝って仲間

 と、浜松辺りを、うろうろしていました。

 

孝蔵) 飽きた! ああ…。旅は飽きたぜ。

 俺はよ、東京戻って円喬師匠のとこで

 一から出直すぜ。

万朝) それにしても、うなぎとは豪勢だね。

 勝鬨亭のちいちゃんにでも借りたのかい?

孝蔵) いや。

万朝) それじゃこの辺りに

 ごひいき筋か何かいて?

孝蔵) そんなものは、いねえよ。

万朝) えっ?

孝蔵) 万ちゃん…(金)持ってねえのかい?

万朝) 孝ちゃんは?

孝蔵) アハハ…一文もねえや。

万朝) えっ、じゃあ…!

女性) は~い待たせたよ。

孝蔵) 心配すんな、ちゃんと心得てる。

 おっ、ねえちゃん、よく見るといい女だね。

女性) 何言っとるんだあんた!

孝蔵) ハハハハハ! ねえちゃんも飲みねえ。

 

**********

 

<夜明け>

(風呂敷包みを一つ抱え、

 宿を振り返りながら去っていく万朝)

 

**********

 

女性) おはよう。

孝蔵) んん…。

女性) 朝ごはん出来たに。

孝蔵) うん…。

女性) ゆんべはがんこ飲んだやぁ。フフフフ。

孝蔵) 一本つけてくれる?

 

志ん生) もうはなから文無しですから、

 肝が据わっちゃったんですな、こりゃ。

 もうたんまり朝飯かき込んで、いよいよ、

 腹決めました。

 

**********

 

孝蔵) え~実は…おあしが、ねえんです。

男性) おい。

孝蔵) いや、あたしゃ東京の芸人でござい

 ましてね、あの~先に出てったのが、兄

 弟子なんでございますが。「おうおう、支

 払いは先済ましとくからゆっくり寝てけ」っ

 て、あにさんそう言ったんですがね。

女性) えっ、どうするでぇ!?

孝蔵) いや~「どうするでぇ」となりますと、

 え~そうですね…。まあ、東京に戻りゃ、

 仕事はございますんで、どうでしょう?

 お金をお送りさせて頂くというのは?

男性) 困るに~それじゃあ。

 何かかんか置いてってくれんと。

孝蔵) 置いてくといいましてもね、こちとら

 あいにく、着た切りすずめでございまして、

 置いてくとなると、てめえを置くしかない。

 「どうです? 旦那。ねえ、あたし、おあしが

 ないように見えます?」。「ええ、かねがね、

 思ってました」。「天井から、雨が漏るよ」。

 「や~ね」。…なんてのもございましてね。

 

志ん生) そう言やあなんとかなるもんでし

 ょうが、あっという間に、お縄になって、

 「ひいっひいっ」。ここにでかい石ぐんと

 載せられて、「あ~!」。それで、冷てえ

 牢屋に、放り込まれたんだが、情けなく

 て、眠れやしねえ。

 

(孝蔵の首筋にクモ)

孝蔵) あっあっ! あっち行けこの野郎!

(牢名主が顔にかけた新聞に飛ぶクモ)

(新聞をひったくる孝蔵)

牢名主) んっ、何しやがんでえ! チクショー!

(新聞記事に目をこらす孝蔵)

孝蔵) 師匠…。師匠~…。

牢名主) うるせえな! 寝れねえよバカ野郎!

 こっちのセリフだこのハゲ!

男性) 静かにしろ!

孝蔵) そっちが静かにしろコンチクショー!

(新聞に載った円喬の写真を見る孝蔵)

 

志ん生) 地獄の底みてえな所で、この世で

 たった一人、私を認めてくれた人が、死ん

 じまったことを、知ったんです。

 

孝蔵) 師匠…。師匠~…。

(「享年四十八」と書かれた新聞記事)

 

**********

 

四三) あっ、よか天気ね~。

 こりゃ~冷水浴日和ばい。

(2階の物干し台で支度をする四三)

(向かいの2階の窓が開く)

シマ) うわ~富士山きれい。

四三) アハハ。箱根だそうですよ。

シマ) えっ? どう見ても富士…。

四三) まっ、富士だろうが、箱根だろうが、

 美しかことには変わりなかばってん…。

 あっ、おはようございま~す。

シマ) あっ、おはようござ…。えっ!?

四三) ばっ!

シマ) 金栗さん! あっ…シマです!

四三) そぎゃん…ですよね?

シマ) はい!

四三) 三島家の!

シマ) はい!

四三) 女中さんの!

シマ) はい!

四三) えっ、な~しな~しな~し?

シマ) あの、実は、三島家からお暇を頂きま

 して。…で、今は、こちらに下宿して、そこの、

 ミルクホールで働きながら、東京女子高等

 師範を目指して勉強してるんです。

四三) そぎゃんですか。

シマ) はい。

四三) あ~たまがった~。

 (胸を隠し) すいまっせん…。

シマ) 大丈夫です、慣れてるんで。

 天狗倶楽部で。

四三) なら、失敬して。

(ふんどし一丁になる四三)

シマ) えっ…あっあっあ~! ちょちょ…あ~!

 

**********

 

<ミルクホール>

治五郎) 女高師に? それはすばらしい。

シマ) ありがとうございます。

可児) こちら…。

治五郎) 君、スポーツは好きかね?

シマ) はい。金栗さんや、弥彦おぼっちゃま

 のお姿を見て、私も何かやりたくなって。

治五郎) さすがは、痛快男子。立派。

シマ) そんな…。

 おじさまのおひげも立派でしてよ。

治五郎) 嘉納治五郎だからね、ハハハ…。

シマ) 気が付かず大変失礼いたしました!

治五郎) まあよい。

 じゃあ、君にも見せちゃおう。

シマ) えっ?

治五郎) 届いたばかりの…。

(ミルクホールを見回し、こそこそ封筒を出す)

治五郎) 届いたばかりの、

 オリンピックのシンボルマークだ。

四三) シンボルマーク?

一同) お~…。

(カードに描かれた、五色の輪っか)

治五郎) IOC20周年を記念して、会長の

 クーベルタン自ら、考案したそうだ。

 ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジア、

 オセアニア。五大陸の、結合と連帯を

 意味している。

四三) アジアも入っとるとですか。

治五郎) うん! 君と三島君が、

 先駆者として走った功績だよ。

シマ) すごい。

 

かの有名な五輪マークが生まれた

直後、海のかなた、サラエボで、

皇位継承者が凶弾に倒れました。

 

サラエボ事件をきっかけに欧州は、

イギリス、フランス、ロシアを中心と

した連合国と、ドイツ、オーストリア

の中央同盟国に二分され、瞬く間

に戦乱に巻き込まれたのです。

 

治五郎) ベルリンオリンピック参加反対論が、

 喧伝されておるが、ここで我々が屈したら、

 この輪っかが一つ欠けてしまうんだよ。

 君の脚に懸かってるんだよ、金栗君。

四三) はい!

 

**********

 

<牢の中>

牢名主) へえ~。まっ、俺には関係の

 ない話だ。何見てんだ? うん?

(バナナを持つ牢名主の腕)

牢名主) あ~これか? これはな、上方で

 8人相手に1人でやり合った時の刀傷だ。

 えらい剣幕で「や~!」なんてんでハハ…。

 えっ? バナナか…。おめえ芸人なんだっ

 てな。何かやってみろよ。

孝蔵) その前に…。

牢名主) ほらよ。

(房から一本ちぎって投げる牢名主)

(むさぼり食う孝蔵)

牢名主) お~ハハッ、

 犬っころみてえだなおめえは。

 

腹の虫はおさまった。さて、何をやる?

バナナ1本でも、客は客。

 

牢名主) 面白えやつ頼むぜ。俺はこう見え

 ても、寄席には何度も通ったことがある。

 落語にはうるせえんだおめえ。

 

1対1の差し向かい。こういう客を

うならせなくちゃならねえ。

よし、師匠の十八番の人情噺、

「文七元結(もっとい)」をやってやろう。

 

※落語「文七元結」

身投げしようとしていた赤の他人を放って

おけず、大事な金をあげてしまう噺

 

孝蔵) 「おっ、待ちねえ!」。「離してください

 離してください。死ななきゃならない訳があ

 るんでございます。どうぞ、助けると思って

 殺して下さい」。「お~そんな器用なまねは

 できねえよ、助けたり殺したりとよ。おめえ

 さんよ、年は若えんだろ? 本当によ。命を

 粗末にするんじゃねえよ! コンチクショー」。

 「ああっ、痛い。な…何するんですよ。ケガ

 でもしたらどうするんですか?」。「何言っ

 てんだこの野郎。えっ? おめえ…」。

牢名主) (いびき)

孝蔵) 「吾妻橋から飛び込んで

 死のうってじゃねえか」。

(口を開けて寝ている牢名主)

孝蔵) 旦那。

牢名主) んっ?

孝蔵) ハゲの旦那。

牢名主) うっ、誰? んっ? ハゲ、誰?

孝蔵) あ~どうでした?

牢名主) よかったよ、よかったよ。

 サゲがよかったね。

孝蔵) まだ途中です。

牢名主) んっ? あっ、そう。しかしお前、 

 よくもまあそんな長え噺をお前、覚えて

 つっかえもせず大したもんだよ、うん。

 もう1本やるよほら。くれてやる。

孝蔵) 酒屋のガキにもおんなじこと

 言われました。

 

(回想)

まーちゃん) 長い噺覚えて、

 つっかえずに言えて、た~んと

 稽古したんだな、偉いやぁって。

 

孝蔵) 面白かったですか?

牢名主) 面白かねえや。

 

(回想)

まーちゃん) 面白くねえら。

 

**********

 

<浜松・八百庄>

ちいちゃん) 庄吉っつぁん! 

 庄吉っつぁん? 庄吉っつぁん!

庄吉) 何でえ、ちいちゃんけ。

ちいちゃん) 孝ちゃんが…! 

 朝太が、これで。庄吉っつあぁん、一緒に

 警察行って、引き取ってくれんかいや!?

庄吉) 悪いけえがこっちも今それどころ

 じゃねえで。政治(まさじ)が…。

ちいちゃん) えっ?

 

**********

 

庄吉) 下痢と腹痛がひどくってのう。

 政治、大丈夫け?

うら) 頼むに、先生。この子は

 生まれつき体が弱くてやぁ。

先生) 熱もあるのう。

 何か、変わったことはないけ?

うら) いや~いつもどおり朝から

 浜名湖で泳いで、帰ってきたで。

庄吉) 浜中の大遠泳が夏にあるもんで、

 弟は毎年この時分から泳ぐで。

先生) あ~それが原因だら。慢性盲腸

 炎と、大腸カタルを併発しておるに。

政治) あ~痛い…。

うら) じゃ、泳ぎは?

先生) ううん! やめさせにゃあいかんら。

庄吉) 何でね!? 

 丈夫になるために始めたんだに。

うら) 諦めるしかねえら。田畑の家は

 代々、男らが体の弱い家系だで。

ちいちゃん) まーちゃん…。

 

**********

 

志ん生) まーちゃん? たばた?

 たばたのまーちゃんって…。

 

そうです!

このたばたのまーちゃんこそ、

後の1964年東京オリンピック招致の

立て役者、田畑政治なんですが、まあ、

この話はまだまだ先でございやす。

 

志ん生) あの憎たらしいクソガキが。

 まあいいや、続けましょう。

 

**********

 

<牢の中>

孝蔵) くそ…何がいけねえんだよ。

牢名主) 思い詰めちゃいけねえよ。

 芸はもう一つだが、おめえさんどこ

 かこう…おかしなところがある。

孝蔵) どこか? どこですかい?

牢名主) まあどこかってのは分からねえ

 けどどこかなんだよ。あるんだよ。ところ

 が噺を始めるってえとその、おかしなと

 ころはふと消えてなくなっちまうんだよ。

 あっ、今だ未だ。そこだそこだ。フッ、今

 の方がよっぽど面白えや。ハハハハ…。

孝蔵) 今は何もしてねえや。

 バナナ食ってるだけだ。

牢名主) バナナ食ってるのが面白えよ

 おめえ。バナナ食うみてえにやれよ。

 うめえもん食う時はうまそうに食うだろ?

 面白え噺をする時は面白そうにだな…。

孝蔵) そういうくせえことはやりたくねえ。

牢名主) くせえかどうかを決めるのは、客

 じゃねえか? うん? こっちだよ。違うか?

孝蔵) じゃあ、今度はくさくやります。

牢名主) おっ、来たねえ。えっ? 今度は

 面白え噺を…。さっきは眠たくねえのに

 眠くなっちまったよおめえ。今はもうはな

 から眠い。(あくび)

(はだけた着物を整え、座り直す孝蔵)

孝蔵) 「あたしは、白金町のべっ甲問屋の

 奉公人で、名を、文七と申す者でござい

 ます。今し方、小梅のお屋敷で百両のお

 掛けを頂きまして、その帰り道、スリに遭

 って、大事な百両をとられちまったんでご

 ざいます」。「おめえが…百両、とられちま

 ったのかい?」。「ええ。ですからあたしは、

 川に身を投げて死ぬんでございます」。

 「冗談じゃねえなおい。するってえと、何

 かい? お前、どうしてもその百両なきゃ

 死ぬってのかい?」。

 

(回想)

円喬) 「ええ。私も、死にたくはないんでご

 ざいますが、よんどころない訳でございま

 して、どうか、お構いなく」。「いやこっちが

 構うな。え~? ハァ…しゃあねえな~」。

 

孝蔵) 「しゃあねえな」。「面見せろい!」

 

円喬) 「面見せろい!」。

 「どうにもしゃあねえな…ハァ。俺は、

 貧乏神に取りつかれちまったい」。

 

孝蔵) 「貧乏神に、取りつかれちまったい」。

 

円喬) 「おっ、ここに百両ある。

 いいからこれ、持ってけ」。

 

孝蔵) 「そんな…そんな大金

 頂くわけにはまいりません」。

 

円喬) 「いいから持ってけよ…持ってけよ!

 あっ? なにも怪しい金じゃねえだよ」。

 

孝蔵) 「実は、うちの娘がね、吉原の佐野槌

 (さのづち)ってうちへ身を売ってこさえてく

 れたのが、この…百両だ。怪しい金じゃね

 えよ。いいから持ってけ!」。

 

円喬) 「そんな話を聞いたら、

 なおさら頂くわけにはいきません」。

 

孝蔵) 「いいから…。俺だってやりたく

 ねえんだよ! でもよ、おめえ、この

 金がなきゃ死ぬんだろうが」。

 

円喬) 「うちの娘はな、百両なくても、生きて

 はいけるんだい。いいから持ってけよ!」。

 

孝蔵) 「頂くわけにはまいりません」。

 

円喬) 「いいから持ってけって!」。

 

孝蔵) 「頂くわけには」。

 

(回想)

円喬) 持ってけこの野郎!

孝蔵) いてっ!

(別れ際に煙草を投げられた孝蔵)

孝蔵) 何するんだコンチクショー…。

円喬) 泣くやつがあるかい。

 ちゃんと勉強すんだよ。じゃあな。

 

孝蔵) 「バカ! 何言ってやがんだ、チク

 ショー。そんな汚いなりして、百両なん

 て大金持ってるわけないじゃないか!

 あんな大きなこと行った手前、引っ込

 みがつかないからって、こんな、石なん

 ぞ、ぶつけてきやがって。チクショー!

 チクショー! チクショー…チクショー、

 チクショー! チクショー…。石なんぞ

 ぶつけてきやがって…チクショー…」。

 師匠…師匠! (泣)

 「もし、今のお方…今のお方! もし!」。

(バナナの皮を握りしめた孝蔵)

孝蔵) (泣)

 あの~すいません、看守さん。

 ハサミ貸してもらえませんか?

 

**********

 

(長かった髪の毛を切りながら話す孝蔵)

孝蔵) 「いえいえ、今日は、商売のことで

 伺ったのではございませんで、見て頂き

 たい男が、いるのでございます」。「ゆん

 べ吾妻橋のところで、俺はおめえに百

 両やったな、えっ?」。「親方、その節は

 どうも、ありがとうございました」。

牢名主) 何やってんだおめえは!

孝蔵) あっ、起きた。へへへ…。

 いやあのね、奉公人のね、文七をね、

 もっとこう、くさくやろうと思いまして。

 あれ? これじゃくさすぎます? 

 ヘヘヘへ…。

 「見覚えはございませんかな?」「百両

 やったな」。「ありがとうございました」。

 

**********

 

<勝鬨亭の楽屋>

小円朝) ちい…ちゃん!

(ちいちゃんの尻を触る小円朝)

ちいちゃん) ああ…。

小円朝) あっ、違う違う。俺じゃない。

 こいつがね、勝手に。

(手をひらひらさせる小円朝)

ちいちゃん) 孝ちゃん?

(髪を短くした孝蔵が2人の前に正座する)

孝蔵) ちいちゃん…じゃねえ、席亭。宿賃

 立て替えて頂き、ありがとうございます。

 師匠。本日より、また、お世話になります。

小円朝) おう、頑張んな。

 

**********

 

<寄席>

孝蔵) 「寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ

 海砂利水魚の水行末 雲来末 風来末
 食う寝るところに住むところ」。

 

志ん生) そんなこんなで、高座に戻ること

 を許された私は、田舎の寄席で、一から

 修業のやり直し。

 

孝蔵) 「長助ちゃ~ん、学校行こう」。「あら

 金ちゃん、迎えに来てくれたのかい?」

 

**********

 

志ん生) 一方四三は、ベルリンオリン

 ピックを目指して、真夏の海で、猛特

 訓に打ち込んでいました。

 

野口) 大丈夫ですか?

四三) ああ、大丈夫ばい! あっ、ぬし

 たちも、水しぶきば上げてみんか!

 これは、脚、腰、腹筋の、

 鍛錬になるば~い! あ~!

野口) ハハハ…やっぱり、バカだな~。
四三) あ~!

 

**********

 

<熊本・池部家>

スヤ) お義母さん、

 かわいか息子さんから、手紙手紙。

幾江) あんたがうれしかくせに。

スヤ) お盆は帰ってこんかったけん、

 いつ帰ってくるとだろう?

 「母上様、スヤ殿。喜んで下さい。

 四三は、世界」…。

幾江) 何ね? どぎゃんしたと?

スヤ) …いや。

 

手紙・四三) 「母上様、スヤ殿。

 喜んで下され」。

幾江) 何ね? 読まんね。

手紙・四三) 「四三は、世界新記録ば出し

 たとです。陸軍戸山学校グラウンドで開

 催された、日本陸上競技大会で、2時間

 19分30秒という驚異的な速さで優勝し

 ました。夏の猛練習で習得した、水しぶ

 き走法が、功を奏したようです」。

 

**********

 

手紙・スヤ) 「四三殿、世界新記録、

 おめでとうございます。今日は中秋

 の名月、いきなりだごばこさえました。

 そうそう、こんな雑誌の記事を見つ

 けました。世界の速いものの中に、

 四三さんの名前が、東京電車の上

 に、書いてありました。9位でしたよ」。

四三) ハハハハ…。

手紙・スヤ) 「ところで、お正月は、

 お戻りになられますか?」。

 

**********

 

大正4年(1915)1月

 

手紙・四三) 「今月分の金子、受け取り

 ました。いきなりだご、懐かしかです。

 帰りたきはやまやまなれど、今年はい

 よいよ予選の年」。

(準備体操をする四三のそばに野良犬)

四三) 明けましておめでとう。

手紙・四三) 「一日も無駄にはできまっ

 せん。スヤも、写真を送ってくれたまえ。

 身は遠く、さすらへ人となるとても、故

 郷(ふるさと)の空は、はるかにのぞむ」。

 

<池部家>

スヤ) どぎゃん意味かね? お義母さん。

幾江) どぎゃんもこぎゃんも、

 「自転車節」たい。

スヤ) ♪逢いたかばってん 逢われんたい

幾江) ♪たった一目で よかばってん

スヤ) ハハッ、いや、お義母さん! 

 ハハハハ…。

幾江) あの山越えて行ったらよか。

スヤ) えっ?

 

**********

 

スヤ) ありがとうございました。

(路面電車から降りるスヤ)

スヤ) 来てしもうたばい。

 

スヤがあの山越えて来たちょうどその頃…。

 

(道でぶつかる2人)

スヤ) すいまっせん。

トクヨ) こちらこそ、失礼しました。

 

永井道明の秘蔵っ子、二階堂トクヨが、

3年のイギリス留学から帰国しました。

 

**********

 

<体育協会本部>

(トクヨを激しく抱きしめる永井)

永井) 無事でよかった。

 よく帰ってきたトクヨ君。トクヨ君…。

トクヨ) もう、大丈夫です。

永井) まあ、座りたまえ。

治五郎) え~それでは、

 ベルリンオリンピック…。

武田) 会長のお言葉は最後に頂戴

 いたします。まずは、収支報告を。

治五郎) 最後? 冗談じゃない! もう4月

 だぞ。オリンピック予選の時期は? 種目

 は?予算は? それが最重要事項だろう。

岸) ない袖は振れんでしょう嘉納さん。

 見積もりを出して頂かないと。

可児) あっ、それでしたら、ストックホルムの…。

岸) (くしゃみ)失礼。

可児) すみません。ストックホルムの、費用の、

 5…いや…まあ、およそ、10倍ですね。

武田) 10? (ため息)

岸) お話にならない。二階堂君はどう思う?

トクヨ) その議論には、

 全く意味を感じないのですが。

治五郎) 何?

トクヨ) 先生方は、今日の世界情勢を

 ご存じないのでしょうか? 欧州で今

 何が起こっているのか。

治五郎) 知ってるよ。IOCから報告があった。

 この戦争は長続きせんから、予定どおり

 ベルリンオリンピックは開催すると。

トクヨ) それはドイツが優勢だった去年の話

 です。戦況は刻一刻と変化しながら、欧州

 全土に広がり、その犠牲者は、過去最大と

 いわれています。はっきり申し上げます。今

 欧州は、オリンピックなど開催できる状況で

 はない! ましてドイツは敵国、選手の身に

 何かあったら…。

治五郎) 関係ない!

トクヨ) 関係ない!?

治五郎) 政治とスポーツは別だ。

 オリンピックは平和の祭典。

 4年に一度の相互理解の場なんだよ。

 たとえ戦時中でも、殺し合いの最中でも、

 スタジアムは聖域だ!汚されてたまるか!

 前回は金栗君一人だったが、今や多くの

 後輩が金栗君の背中を追いかけてる。陸

 上だけじゃない。水泳やほかの競技にも、

 有望な選手が現れ、オリンピックの大舞台

 を夢みて練習に励んでいる。その更に下、

 若い世代にもスポーツマンシップは受け継

 がれている。金栗・三島の敗北が、その教

 訓が、生かされた証拠だよ。彼らの努力は

 無駄にしてはいけない! 国家だろうが、戦

 争だろうが、若者の夢を、奪う権利は誰に

 もないんだよ!

 

**********

 

<播磨屋>

四三) 辛作さん、辛作さん!

 よかです、新しか足袋。

 コハゼば取ったとは大当たりでした。

 もうね、かかとに、ピタ~ッと来るけん!

 足首の、締めつけられる窮屈さがのう

 なりました~。(草履を見て) うん?

 誰か、お客人ですか?

辛作) 誰かって…。

辛作・ちょう) ねえ~。

 

**********

 

<播磨屋・2階>

(ほうきで履く音)

(部屋を覗く四三)

四三) ばばっ!

スヤ) 四三さん!

四三) スヤさん? スヤ?

スヤ) 行って、何かお手伝いでも

 してこいと、お義母さんが。

四三) あ~…そぎゃんね。

スヤ) 右も左も分からんけん、

 市電ば乗ったり降りたりして来ました。

 よか部屋ですね!

 (外を見て) あれは、阿蘇?

四三) 富士山。

スヤ) あ~。

四三) いや箱根。

スヤ) フフッ。

四三) うん? 

(重箱の蓋を開ける四三)

四三) おっ! いきなりだご!

スヤ) 作ってきました。お正月にも

 帰ってこんし、食べたかろうって。

四三) う~ん、うまか!

スヤ) 普段は外食ばしよるとですか?

四三) うん。播磨屋さんとこで、

 頂くのと、半々たい。

スヤ) そぎゃんですか。後でちゃんと

 お礼ば言わんとですね。はい。

(お茶をいれるスヤ)

四三) ああ…スヤが部屋におる。

スヤ) フフフ…おります。

四三) ハハハ…帰って。

スヤ) えっ?

(お茶を飲み、スヤに向き直る四三)

四三) スヤさん…いやスヤ。俺は今、オリ

 ンピック出場ば目標に掲げて、日々頑張っ

 とる。2年前から、一日も休まずやっとる。

スヤ) はい。

四三) 妻も、郷里も忘れて、祖国ん為に

 走ろうて思っとる。だけんスヤ…さん…

 おるの気ぃば散ららんとって。月々の仕

 送り、感謝に堪えぬ。おかげで助かっと

 る。ばってん…いや、だからこそ、ここで

 くじけたら何もならんけん。甘えは…堕

 落の入り口ばい。スヤさん…いやスヤ。

 いやスヤさん! いやスヤ!

スヤ) どっちでもよか。

四三) すまんが…帰ってくれ。

(四三を見つめるスヤ)

ちょう) 金栗さん…ねえ、金栗さん。

 お布団一組しかないでしょう?

辛作) 新婚さんなんだから一組で

 いいって俺は言ったんだけどね。

ちょう) 駄目よ。

四三) すいまっせん!

辛作) えっえっあれ? おい…ちょっとおい!

 

**********

 

四三) あっ、すいまっせん。

(道に飛び出し、足袋を履く四三)

(ぎゅっと目を瞑り、ぐるっと頭を振る四三)

 

**********

 

辛作) 何か、すいやせんね。

スヤ) 帰ります。

辛作) えっ?

スヤ) どうぞ、主人ばよろしゅうお願いします。

 

**********

 

四三) スッスッハッハッ。スヤスヤハッハッ。

 スヤスヤハッハッ。スヤスヤハッハッ。

 スヤ…あ~違う!

 

**********

 

<熊本・金栗家>

(囲炉裏端で熱々のみそ汁を飲んでいる実次)

幾江) 実次!

実次) あっあっ…。あっち…熱っ!

(急いで土下座する実次)

実次) すんまっせん!

幾江) まだ何も言うとらんばい。

実次) すんません。

幾江) あんたに言うてもしかたなかばってん、

 あんたしかおらんけん、あんたに言うけん、

 よう聞いときなっせ!

スヤ) お義母さん、よかですもう。

幾江) よかじゃなか。嫁ば泊めんで追い返

 すとは何事か! 何か、あんたの弟は!?

 何様のつもりか! 

 スヤは、恥ばかいたとばい! 堕落! 

 堕落の入り口て呼ばれたとばい!

実次) だ…だらく?

幾江) よかか? 韋駄天かじゃこ天か知らん

 ばってん、オリンピックの終わったら玉名か

 ら一歩も出さんけんね! 覚悟ばしとけ!

(出て行く幾江)

スヤ) すんまっせん。

実次) すんまっせーん!

キヨメ) すんまっせん!

(土下座したままの実次)

実次) あの野郎…。

 

**********

 

そんなことは全く意に介さず、

四三、25歳、世界記録をマーク。

選手としてピークを迎え、ベルリン

オリンピック、金メダル間違いなし

と期待されていましたが。

その舞台であるヨーロッパでは、

戦争が更に激化しており…

 

**********

 

<校長室>

(窓辺から走る四三を見ている治五郎)

可児) 早く、言ってあげた方が

 いいのでしょうが…。

治五郎) 言えるかね? 君。

可児) 無理です。

治五郎) 私もだ。

 

**********

 

(号砲)

(走る四三)

(スタジアムの歓声と拍手)

四三) スッスッハッハッ。スッスッハッハッ。

 スッスッハッハッ。

 

**********

 

(窓から顔を出すシマ)

シマ) 金栗さ~ん、おはようございます。

 金栗さ~ん! 起きて。

辛作) おねえちゃん、

 今日は、そっとしといてやんな。

シマ) えっ?

(2階に目をやり玄関に戻る辛作)

 

**********

 

<播磨屋・2階>

(地球儀が倒れ、ドイツの国旗や

 本が散らばった部屋)

(膝を抱え、壁に寄りかかっている四三)

(壁に、「目標一九一六年、ベルリンオリン

 ピック大会迄あと一年」と筆文字の貼り紙)

(貼り紙を剥がし、やぶる四三)

 

**********

 

<熊本・池部家>

(新聞を読んでいるスヤ)

スヤ) お義母さん、今から、

 東京に行ってもよかですか?

幾江) 何ね、いきなり。こん前、

 追い返されたばっかりたい。

 

**********

 

大正4年6月。ベルリンオリンピック

の中止が、報じられました。

 

(壁に頭を打ち付け、泣く四三)

 

**********

 

ニュー辛作さん登場。うん、いいかも。大変

だろうけれど、このまま頑張ってほしいなぁ。

 

古今東西速いものとして載っていたもの↓

(一) 飛行機、(二) 自動車、(三) 汽車、

(四) 馬、(五) オートバイ、(六) 蒸気船、

(七) 猪、(八) 自転車、(九) 金栗四三、

(十) 東京電車

 

確かに市電には勝ってたしね。猪、自転車に

は負けるのか…(まあ、スヤさんのあの疾走

には勝てないかもw)。それにしても、気持ち

は分からないでもないけれど、ひどすぎるよ。

堕落してしまいそうになるほど好きってことな

んだろうけど…。そして…孝蔵の中の人の凄

さよ。もう1人の陰の主役は、森山未來だね。

視聴率なんて関係ない。ぎゃん面白かよ~!

 


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