大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第15回~あゝ結婚 | 日々のダダ漏れ

日々のダダ漏れ

日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第15回~あゝ結婚

 

 

※無断転載対策のため、不本意ですが、

しばらく、注意喚起させていただきます。

 

こちらの記事は、「日々のダダ漏れ」 の

記事です。ご覧になっているブログ名が

「日々のダダ漏れ」、以外のブログ名は、

記事を無断転載しているブログです!!

↓ オリジナルのブログはこちらです♪

「日々のダダ漏れ」

 

 

里へ帰ったら「寝耳に水」の縁談話。

それだけでも、「ばっ!」なのに…。

相手はなんと、「自転車節」でおなじみ、

春野スヤ。

 

四三) ばばばばば~!

 ばっ! ばっ…ばばばっ!

 

今日はもう、「ばっ!」の連続です。

 

幾江) 池部でございます。

(頭をさげる幾江)

四三) 池部? 池部…あん?

 

**********

 

志ん生) 話は明治43年、春まで遡ります。

 

(四三とスヤの馴れ初め)

スヤ) ♪逢いたかばってん逢われんたい

 たった一目でよかばってん

 

スヤの秘めたる思いに気付かぬ、

石部金吉こと金栗四三は、

東京高師で頭角を現し、

オリンピックの代表選手に選ばれるも、

日射病に倒れ、4年後の雪辱を誓います。

 

一方、石貫村の医者の娘であるスヤは、

熊本の女学校を卒業。玉名の大地主、

池部家の一人息子、重行と、

夫婦になりました。

 

実次) そん重行さんが、去年の夏、

 お亡くなりになり申した。

幾江) 胃弱でな。あんたがオリンピックで

 ほうけたように、走っとった頃じゃ。病気

 がちじゃったけん、覚悟はしとったばって

 ん、まさかこぎゃんはよう…親より先に。

四三) そぎゃんですか。それはなんとも…。

幾江) それはそれ。

四三) はっ?

男性) お願いいたします。

(仏壇の前から幾江が立ち上がる)

(座敷に並べられた膳)

幾江) こん池部の家ば、おるの代で潰す

 わけにはいかん。重行の代わりば探し

 とったら、実次さんが、弟の四三が近々

 熊本に帰ってくるけん、養子に出します

 けん、是非、跡継ぎにと。

四三) ばっ…養子!?

実次) 重行さんは、一人息子だったけん。

 お前は、7人きょうだいの6番目だけん。

四三) はい…。えっ、それだけですか?

幾江) そっだけじゃなか!

実次) そっだけじゃなかばい!

 ぬしゃ、池部さんに、大変お世話に

 なったとば、忘れたとか?

四三) オリンピックの渡航費ば、

 出してもらいました。

幾江) 田んぼば売ってな。そこが大事。

実次) あん田んぼは今、

 池部さんから借りとる形ばい。

幾江) ばってん、

 あんたが池部に養子に来たら…。

実次) あん田んぼはお前のもんばい。

四三) ばってん…順番のおかしかです。

 いや…養子縁組ばしてから、縁談なら

 まだしも、そぎゃ~んあけすけな話ば…

 見合いの席で…。

幾江) お~ようやくその気になったばい。

四三) はっ?

実次) た~か~さ~ご~や~!

四三) あっいや、ちょっと待って兄上。

実次) 言わんでも分かっとるばい。

四三) 分かっとらん! 「分かっとう、分か

 っとう」言う時の兄上は何も分かっとらん。

幾江) 地主ばい!? スヤと祝言ば挙げて、

 庄屋の旦那んさんになるとばい。

 何が不服ね!?

実次) た~か~さ~ご~や~!

四三) 田んぼと嫁は別もんばい!

(四三を見るスヤ)

四三) あっ…。

 それに、俺は、4年後に向けて…。

スヤ) お義母さん…せっかくですが、

 こんお話、やっぱり水に流して下さい。

 重行さんのうなったばっかりで、

 気持ちの追いつかんし。

幾江) 気持ちなど、どぎゃんでん後から…。

スヤ) それに…金栗さんにも、

 ご迷惑のかかりますけん!

(首を横に振る四三)

(一礼し、奥へ行くスヤ)

幾江) スヤ!

実次) ぬしゃなんて薄情な!

四三) はあ?

実次) 田んぼと嫁は、そりゃ別もんばい。

四三) はい。だけんそぎゃん言いました。

実次) 言わずがもなっちゅうとがあるばい。

 わざわざ言うっちゅうことはぬしゃ、田ん

 ぼとスヤさんば、いっぺんはかりにかけ

 ようとしたっちゅうことばい。

四三) いやだけん、おるは順番が…。

幾江) 順番はこれでよか!

 四三さん、のぼせなさんなよ。

 おるが欲しかとは、スヤたい。

 あぁたじゃなか。

四三) えっ、え~?

実次) スヤさんは今、

 石貫のご実家に帰っとるばい。

幾江) 重行ば死んで、こんうちに、おる

 理由がのうなったけん…。ばってん、

 こぎゃん大きか屋敷に、一人でおって

 みんか。そりゃもう…たまらんばい。

 いっぺんに2人もおらんようになって、

 おるはもう、いっそ死んでしまおうか…

 うんにゃ死ぬわけにはいかん。そぎゃ

 んことぐるぐる考えて、菊池川ばどんど

 ん遡って…。気ぃ付いたら、スヤの家ま

 で来とりました。鍋ば洗っとったとです。

 生きようとしとる。おるは、死のうと思っ

 とるとに、こん人ば、生きようとしとる。

 そん姿ば見て、おるはようやっと分かっ

 た。こん人ばい…。おるはこん人が好

 きだけん、こん人と暮らしたか。理屈じ

 ゃなか、そう思ったったい。家がどうの、

 商売がどうの、そぎゃんことは知らん。

 スヤが一番だけん。こん先、おるが生

 きるとしたら、そら、こん人のためばい。

 おるは、お前さんと会うたこともなかし、

 オリンピックがどぎゃん立派なもんかも

 知らん。ばってん、スヤばもらわんなら、

 養子にゃせんけん。

 こん話はしまいたい!

(四三を見据えるスヤ)

(うつむく四三)

スヤ) お義母さん!

(幾江に抱きつくスヤ)

幾江) スヤ…。

スヤ) お義母さん、ごめんなさい…。

 ごめんなさい、お義母さん…。

幾江) どこにも行かんで!

 あんたもう…たまがったばい!

スヤ) (涙)

 

**********

 

金栗家でも、

緊急の家族会議が開かれました…が。

 

実次) いや~めでたか! さあ、一杯!

四三) ううん、酒は飲めんけん。

実次) まあまあ先生…いや、これからは、

 旦那んさんと呼ばんといかんばい。

 なあ初太郎!

初太郎) 旦那んさん。

 田んぼ、返してもらったとね?

女の子2人) 旦那んさ~ん!

スマ) 四三は、金栗家の、救いの神ばい。

四三) ばあちゃん、

 まだ決めたわけじゃなかばい。

シエ) 堂々とせんといかんばい。向こう

 行ったら、いつまっでん水ばかぶって

 わめいたらいかんばい。

実次) オリンピックに出たと思うたら、

 学生の身で、結婚とは、四三おじは

 やっぱ、とつけむにゃあ男ばい!

子どもたち) とつけむにゃあ!

四三) だけん、まだ結婚はせんて!

実次) いい加減にせんか! 男なら、

 腹ば決めんか! 往生際の悪か~!

 どっちみち、あさってには、祝言ばい!

四三) ばっ!

実次) もう後戻りできんぞ。

四三) (ため息)

 そぎゃん嫌なら、明日東京へ帰れ!

実次) 金栗家は、破産じゃ!

(子どもたちの泣き声)

四三) な~し…な~しそぎゃん大事な

 ことを、何も相談もせんで!

実次) 学校部屋に来い。

四三) 行かん。

実次) 来い!

四三) 行かん!

実次) 何だこら!

四三) 学校部屋に入ったらしまいだけん!

 承知するまで、折檻されるけん…。

実次) 松雄! せ~の!

四三) あ~! ひゃあ~!

 

**********

 

四三は必死の説得を試みました。

ストックホルムでの屈辱的な敗北。

4年後のドイツ・ベルリンで日の丸を

掲げるという、なみなみならぬ、決意。

 

四三) 4年しかなか。

 一日も休まず訓練せんと勝てんとばい。

 そぎゃ~ん厳しか世界ばい。

 

さすがの誇大妄想狂の鬼も…

 

実次) よう分かった!

 四三、お前の、好きなようにせい。

四三) 兄上…。

実次) そのために、スヤさんと、結婚ばせい。

四三) な~し兄上! 

 な~し俺の話ば聞いてくれんね!

実次) 俺が家長たい! 俺の話ば聞け!

四三) な…ああっ!

実次) よかか? 教員の給料なんざ、たかが 

 知れとる。そこでだ、池部さんの養子にな

 れば、少なくとも、金の心配ばのうなる。

 思う存分走れる。相撲のタニマチばい。

四三) ばってん、そんためには…。

実次) まだ動かんとね?

 それなら、一本背負いでいくばい!

 四三、お前は、スヤさんのこつ、

 好かんとか!?

 

**********

 

<池部家>

幾江) 好かん! ほんなこつあん男は…。

 実次さんが是非っちゅうけん会うた

 ばってんが、いっちょん煮えきらん。

 もうよか。あんたさえ来てくれたら、

 おるはよかけん。跡継ぎはこっちで

 探すばい。

スヤ) いえ…私は、四三さんがよかです。

 相手が四三さんだけん、謹んでお受けし

 たばってん、四三さんじゃなかったら…

 (首を横に振り)こん話はしまいです。

幾江) 好いとっとね?

(うつむくスヤ) 

(スヤを見つめる幾江)

 

**********

 

四三) ひゃあ! ひゃあ!

 

文字どおり、頭を冷やしながら、

幾度も自分に問いかけました。

四三、お前はスヤのことが好きなのか?

 

(回想)

スヤ) 丈夫ならそれでよかたい!

 …って、将来、四三さんの奥さんに

 なんなはる方なら言われますよ。

 丈夫な体ば、お国のために使うか、

 自分のために使うか、決めるとは、

 四三さんたい。自由ったい!

 

四三) 幸い俺は丈夫ばい。スヤさんの

 おかげで…俺は誰よりも丈夫ばい!

(朝陽に向かって微笑む四三)

 

**********

 

大正2年、春。

四三は、池部家の養子となり、

スヤという嫁を、もらいました。

 

(震える手で、三三九度の盃を交わす四三)

(幾江がじっと見ている)

実次) ♪高砂や~

(扇子を広げる実次)

実次) ♪この浦舟に~

 帆を上げて~帆を上げて~

 間違った…すいません、ちょっと緊張して。

 

**********

 

(夜、鏡の前で、スヤが髪をといている)

(風呂から上がった寝巻き姿の四三が来る) 

スヤ) 疲れましたね。

四三) はい。春休みで帰省して、

 こぎゃ~ん大変なことになるとは。

スヤ) 「大変」?

四三) あ~いや…。大変、その~

 おめでたかことに、ハハハ…。はっ!

(並べて敷かれた布団に気付く四三)

(四三の前に正座するスヤ)

四三) ちょっと失敬!

(部屋を飛び出し、井戸端で寝巻きを脱ぐ)

(寝巻きを着直す)

四三) いやいやいやいや…。

 

**********

 

(スヤの布団と15cmほど間を空け、

 気を付けをしたように寝ている四三)

四三) スウェーデン語で水んこつば、

 バッテンといいます。

スヤ) えっ?

四三) あっ、すいません…

 聞こえましたか。独り言たい。

スヤ・四三) あの…。

四三) あっ…すいません。どうぞ。

スヤ) 四三さんから。

四三) いやいやいや…。

スヤ) 聞きたか。何? 何ね、何ね?

(体を起こし、身を乗り出すスヤ)

四三) し…重行さんの最期は、

 スヤさんが看取られたとですか?

スヤ) はい。

(布団に寝て、天井を見るスヤ)

スヤ) こん部屋で。

(目だけ動かし、部屋を見回す四三)

四三) あっ…そぎゃんですか。

 

志ん生) 何やってんだい本当に。

 堅物の新婚初夜ほどじれってえ

 ものはねえですな、こりゃ。

 

(薄目を開け、そっとスヤの布団に手を伸す)

スヤ) 寝られんですか?

(寝返りを打ち、背を向ける四三)

スヤ) 私もです。こん部屋で、

 こうしてまた、夜ば迎えるとは…。

 ばってん、うれしか。ありがたかです。

 お義母さんに、恩返しばせんといかん。

 こん池部の家ば、四三さんと…。

四三) お…俺には、4年後がありますけん。

(飛び起きてスヤに向き直る四三)

四三) オリンピックに出るっちゅう大志

 のありますけん、日本スポーツの、向

 上のために、雪辱ば果たさんといかん。

 そんためには、脇目も振らんで、

 何はさておきオリンピックだけん。

スヤ) だったら私も、

 何はさておき、お義母さんです。

四三) そぎゃんですか。

 では、お互い、頑張りましょう。

スヤ) はい。

四三) おやすみなさい。

スヤ) おやすみなさい。

(布団に寝て、無理矢理目を瞑る四三)

 

**********

 

(井戸端に素っ裸の四三)

四三) ひゃあ~!

 おいちに、おいちに、おいちに…。

(スヤが来る)

四三) ひゃあ!

スヤ) すいません!

四三) すいません!

 

**********

 

<玄関>

男性) 旦那んさん、

 お荷物ばお持ちしますんで。

四三) ばばば…いや、自分のことは自分で。

スヤ) いえ、それが、こん人らの仕事だけん。

実次) せわしなか男ばい。

 そぎゃん慌てて帰らんでも。

四三) まさか結婚するとは

 思わんかったけん。

スヤ) すいまっせん。

四三) あっ、いや…

 今後のことは、また、改めて。

 

**********

 

<表>

男性) 行ってらっしゃいませ!

一同) 行ってらっしゃいませ!

(一つの傘に入り、船着き場へ向かう2人)

(立ち止まり、スヤを見る四三)

男性) 旦那さん…旦那さん! はよはよ!

スヤ) あっ、はい。

(スヤに傘を渡し、舟の方へ走る四三)

船頭) 旦那さん、

 足場ん悪かけん、つかまって。

四三) はい。

(舟に乗る四三)

四三) あっ…。

実次) 大丈夫か?

四三) ほんなら、手紙ば、書きますけん。

船頭) 出しますばい。

スヤ) あっ…お元気で。

四三) スヤさんも。

(傘を受け取り、スヤと見つめ合う四三)

実次) 硬か~2人とも。コッチコチばい。

(舟が出て、見つめ合う距離が離れていく)

 

**********

 

志ん生) さて、四三さんがぎこちなく身を

 固めた頃、朝太こと、美濃部孝蔵、つま

 り私はですね、旅巡業の真っ最中で。

 東海道を西へ、静岡の浜松辺りを、ほっ

 つき歩いてた。

 

<浜松勝鬨(かちどき)亭・高座>

(落語・付き馬)

孝蔵) 「ナカの若いもんなんでございますよ。

 ゆうべあの男がね、うちでもってね。50円近

 い遊びをしちゃって、その勘定をこしらえて

 もらうために、こちらへ来たわけですよ。何

 もこんな早桶をこしらえてもらいに来たわけ

 じゃないんですよ」「えっ? あっ、そうかい」。

子供) ねえ、帰らんけ?

女性) し~っ。静かにしな。

孝蔵) 「お前さん逃げられちゃったんじゃね

 えか。えっ? ナカの若え衆がそんなことで

 どうすんだい本当」「こんなバカでけえもん」

 「職人の手間代はまけといてやるから、木

 口の代10円だけ置いて持ってけ」「いえい

 えそんな冗談言っちゃいけませんよ」

 

**********

 

志ん生) もう貧乏で博奕好きが集まってる

 から、着るもんなんかとうに売っちまった。

 

<楽屋>

万朝) (着物を着て)何だこれ、

 朝太って書いてあんじゃねえかよ。

孝蔵) 構やしねえよ。

 とっとと帯締めて出ちまえよ。

 

志ん生) 勝鬨亭のね、何がいいって、

 う~ん、三度の飯が出て、楽屋に泊ま

 れて、近くにね、八百庄て、造り酒屋

 があって、おまけに…。

 

(女が丼を運んでくる)

ちいちゃん) 今日は特別。

 大入りだでうなぎだに!

孝蔵) 待ってました!

男性) お~ありがてえ!

万朝) おいおい俺の分残しといてくれよ。

小円朝) おうおう…大丈夫だよ。

 行け行け行け行け。

 

**********

 

孝蔵) ちいちゃん、悪いんだけどよ、今月

 もいくらか前借りできねえかな? 頼むよ。

 

五りん) ちいちゃん?

知恵) えっ、あたしと一緒だ!

志ん生) こんなチンチクリンじゃねえよ。

 浜松のちいちゃんは、小股の切れ上がっ

 たいい女だったな~。あんたには、フラが

 あるよ…なんてね。ありゃ俺に惚れてたな。

りん) 誰の話?

志ん生) もうちいちゃんもう、目が…。

(目をつり上げて見せる志ん生)

 

**********

 

(酒を出す丸眼鏡の少年)

孝蔵) お前、どうだった? とぼけんじゃ

 ないよ。聞いてたんだろ? 俺の噺。

少年) はあ…まあ、

 大したもんだやぁと思いましたね。

孝蔵) んっ?

少年) 前座だら? なのに長い噺覚えて、

 つっかえずに言えて…た~んと稽古した

 んだな、偉いやぁって。

ちいちゃん) 八百庄の次男坊のまーちゃん。

 

志ん生) うん? まーちゃん?

 どっかで聞いたような…。

 

ちいちゃん) お父っさのお供で、

 バカちっせい頃から寄席通ってんだに。

孝蔵) うん? んっ、んっ、おい、おい…。

 「偉かった」ってのは? えっ、ほかには

 何かねえのかい?

少年) 面白かねえら。

孝蔵) ハハハ…何だとこの野郎!

ちいちゃん) よしない孝ちゃん!

 子どもの言ってることだで。

孝蔵) いいや! 「付き馬」は、大ネタだ。

小円朝) どうせ田舎だ、分かりゃしねえ

 ってかけたんだろうが、目の肥えた客

 はお見通しさ。

孝蔵) ですがね、お師匠さん、

 いつまでも「子ほめ」や「やかん」じゃ

 うまくなれやせんからね!

小円朝) じゃあ、お前の「付き馬」で、客は

 沸いたかい? なっ? 真面目に稽古した

 大ネタより、笑える前座噺だよ。

孝蔵) だったらてめえの人情噺は

 どうなんだよ、このハゲ!

万朝) よしなよ孝ちゃん!

小円朝) 何すんだよこら!

孝蔵) 眠くて聞いてらんねえや! 円喬

 師匠の爪の垢でも煎じて飲みやがれ!

 知ってんだよ。えっ、ちいちゃんに夜這い

 かけようとしてしくじったことはな、一座の

 連中みんな知ってんだよ。えっ? 小せえ

 野郎だな。えっ? 小円朝の「小」は、小

 者の小だ! 止めんなら早く止めろよ!

万朝) ごめん!

小円朝) おい!

孝蔵) 痛っ!

小円朝) 出てけ~!

 

志ん生) …ってんで師匠に追ん出さ

 れまして、その後はどうなったか。

 続きはね、また後で。

 え~東京高師の最終学年を迎えた

 我らが、韋駄天。嘉納校長に、結婚

 の報告をしなくちゃならないんだが…。

 

**********

 

<大日本体育協会>

治五郎) いつまで金の話をしておるんだね!

 せっかく金栗君に選手の立場の話をして

 もらおうとしているのに!

岸) 借金問題の解決は、

 我が体協の急務ですから。

武田) ストックホルムの惨敗で、

 世間の体協に対する風当たりも強い。

治五郎) 惨敗だと?

 そこじゃないんだよそこじゃ。

永井) 基礎を侮るなかれ!

 今は、私が書いたこの要目に従い、

 体操中心の学校教育を、広く全国

 に推進すべきなんです。

治五郎) ああっ。

四三) あ~!

可児) ああ、ああ…。

治五郎) あ~息が詰まる。

四三) すいません、拭くもんば…。

治五郎) 何だよこれは。えっ? 読むだけで、

 肩と首が凝る。広まらんだろうこんなもん。

可児) しかし、文部省と、軍部の介入から、

 体育を守ったという意味では、永井さんの、

 功績も…。

治五郎) 何言ってんだよ。あいつは

 もともと学生時代テニスボーイだぜ?

可児) えっ?

四三) はっ?

治五郎) 朝から晩までテニス漬け。

 あまりにも面白く夢中になりすぎて、

 ある時ふと、気が付いたそうだ。

 

(回想)

永井) これはいかん。面白すぎて

 勉学と並立し難い…害悪だ!

 

治五郎) それですっぱり、

 テニスをやめたそうだ。

可児) ハハッ。

治五郎) そういう極端なやつだから、

 聞き流してればいいんだ。

 

結婚の報告を誰にもできず、春が過ぎ…。

 

**********

 

大正2年(1913)夏

 

待ちに待った夏、

四三は、灼熱の海へ繰り出した。

 

耐熱練習。日射病で負けた雪辱を晴らす

ために、どんな暑さにも倒れぬ体を作ら

ねばならない。そこで、日中最も気温が

高い正午過ぎを練習時間とし、炎天下の

砂浜で、帽子もかぶらずがむしゃらに走

りました。まさに、耐熱練習。

 

野口) 金栗さ~ん!

(倒れる四三)

(男性) あっ、おい、大丈夫か!?

野口) あ~ちょっと、触んないで下さい!

 触んないで下さい! 失格になりますから。

 金栗さん、まもなく8km。頑張れ!

(練習を手伝う野口)

野口) 大丈夫ですから。頑張れ。

(立ち上がりフラフラ走る砂まみれの四三)

(また倒れる)

 

志ん生) 倒れない工夫をするのではなく、

 倒れても、起き上がって走る練習をする。

 バカと天才は紙一重といいますが…。

 

**********

 

<浜名湖の水辺>

万朝) おい…何だ? ありゃ。

(白や赤の帽子をかぶった少年たちが、

 ふんどしで泳いでいる)

孝蔵) ありゃ…河童だな。

 

志ん生) そう。彼らこそ浜名湖の河童

 軍団。詳しくは、弟子の五りんから。

五りん) はっ? えっ?

(高座を降りる志ん生)

(座布団に座る五りん)

五りん) あっ、どうも…。

 え~昔から、浜松はですね、水泳が盛ん

 な土地柄でして。自分たちの泳ぎを、浜

 名湾流、と名乗るようになりました。旧制

 中学の生徒たちは、毎年夏に合宿を行

 いました。自らを河童、と呼ぶほど、水に

 親しんだのです。当時の水泳は、速さを

 競うものではなく、鎧姿でも泳ぐなど、戦

 国武士の修練を受け継いだものでした。

 立ち泳ぎをしながら字を書いたり。腹を

 わざと水面に当てて沈まぬことで、水中

 に仕掛けられた罠をかわす技、腹打ち

 飛び込み。

 

万朝) あっ…おい。

 あれ八百庄のせがれじゃねえか?

孝蔵) おい、浜名の河童。

 潜ってウナギでも取ってこい!

 

五りん) 合宿の総仕上げは、6時間にも

 及ぶ大遠泳。その距離なんと16kmです

 から、浅草から芝なんてもんじゃありま

 せん。韋駄天が海岸を走っていたころ、

 浜松では河童が泳いでいた。どちらが

 速いかは知りませんが、どちらも、バカ

 なのは間違いございません。

 

孝蔵) しかし、この河童軍団の中から、

 金栗三島に続く、オリンピック選手が

 生まれます。

 

**********

 

野口) 金栗さん、無理ですよ。

 気温摂氏36度、死んじまいますよ。

四三) 今しかなかばい…

 今しかなかばい…。次のオリンピック

 まで、夏は、あと2回しかなかばい!

(砂まみれで走る四三)

 

つらい時は、ストックホルムの

屈辱を思い出して、頑張った。

 

(砂の上を這う四三)

 

(回想)

四三) オリンピックに出るっちゅう大志の

 ありますけん。日本スポーツの、向上の

 ために、雪辱ば果たさんといかん。そん

 ためには脇目も振らんで、何はさておき

 オリンピックだけん。

 

**********

 

(池部家の庭にスヤ)

(朝陽に向かい、手を合わせるスヤ)

 

**********

 

そしてついに、1か月。

 

(砂浜を走る四三)

野口) なんということだ、日本の金栗、

 今、ぶっちぎりで、ゴール!

 

40kmを、倒れることなく、

走り抜きました。

 

**********

 

大正3年(1914)2月。

 

やがて秋が過ぎ…冬になり、

東京高師の最高学年を修了する日が、

刻一刻と近づいてきた。

 

平田) 金栗君! 金栗君ちょっと。

 

東京高師を卒業した者は、

全国の中学に散らばり、

教壇に立つのが、当たり前でした。

 

徒歩部の橋本は、長野中学。

平田は熊本。それぞれ赴任先が

発表になり、辞令を受け取ったが…

 

平田) 金栗君がこう顔を真っ赤に染めて

 ゴールした瞬間、あれは忘れられないよ。

 すごかったんだから! アハハ。

橋本) 金栗君は、これからどうすんだ?

 

**********

 

<金栗家>

幾江) 実次~! 出てこい!

 こんペテン師が! 実次!

実次) どぎゃんしました?

幾江) どぎゃんもこぎゃんもなか!

 あんたの弟が熊本に帰らんて

 言うてきたばい。ほれ!

実次) えっ?

(手紙を読む実次)

実次) 「四三は、教員になる道ば

 捨てる決心ばしました」。

 

**********

 

<寄宿舎>

四三) いや~教員にはならん。

 マラソン一本でいこうて思うとる。

 

**********

 

<金栗家>

実次) 「養子話も縁談も、破談にして

 頂いて構いません。四三は退路を

 断って、ベルリンを目指します」。

 

**********

 

<寄宿舎>

四三) オリンピックまで2年半。

 みっちりやれば、最高の状態で

 ベルリンへ行けるばい!

 

**********

 

<金栗家>

実次) おのれ四三~!

 

**********

 

<寄宿舎>

四三) 片手間でやったら、

 一生後悔するけん。

 

**********

 

<金栗家>

幾江) 卒業したら帰るて言いよるけん

 養子にもろたとに、だまされたばい!

 

**********

 

<寄宿舎>

野口) よし! 俺も、オリンピック目指します!

四三) おっ、そぎゃんね、野口!

野口) はい。夏の合宿で、あんなに何度も

 倒れて、それでも諦めない金栗さん見て、

 バカだと思いましたよ。

 バカなんでしょうね~。フッ。

 

**********

 

<金栗家>

幾江) こん、バカタレが!

実次) あっ、痛い痛い痛い!

幾江) バカタレバカタレバカタレ…。

実次) すんません…あ~!

 

**********

 

永井) 貴様、正気か!?

四三) すいまっせん!

永井) 4年間官費の教育を受けておきな

 がら、教員になりたくないとは、高師に

 学んだことをなんと心得る!? 教職に

 就くことは、高師卒業生の義務だ! 

 来い! 肋木につかまれ!

(首を横に振る四三)

福田) 金栗、おるは、熊本中の校長

 もよう知っとる。お前が望めば、

 新任で雇ってくれるばい。

四三) いや、熊本には帰りません!

東京で、トレーニングばします。

福田) ばってん…2年間も

 無給でやっていけるとね?

可児) 教員やりながらでも、

 十分練習できるんじゃないの?

四三) そぎゃ~ん生半可な気分では、

 立派な先生にも、立派な選手にも

 なれんとです!

治五郎) 金栗! こっち来い。

四三) はい!

治五郎) 靴を脱いで、はだしになりたまえ。

四三) は…はい!

(四三の足を見る治五郎)

治五郎) きったない足だな~。

四三) すみません!

治五郎) ほら、見たまえ。夏も冬もぶっ通し

 で走ったせいだろう。血まめだらけじゃな

 いか。なんと不格好でゴツゴツしたみっと 

 もない…足! 教師は、生徒の手本にな

 らなくてはいかん。こんな足では人の上

 には立てん。不合格!

四三) はい。

治五郎) こんな足では、

 世界一のマラソン走者ぐらいに

 しかなれんと言っておるんだよ。

四三) 校長先生…。

治五郎) ハハハハ…。走れ!

 君は何も考えず、存分に走りたまえ。

 文部省には、私が話をつけよう。

 それで問題ないね?

ただし、寄宿舎からは出ていってもらうぞ。

何だそんなもん!

 衣食住の面倒ぐらい、体協で見る。

可児) 校長!

治五郎) 職にも就かず、

 マラソンばかりやっているようなやつを

 何というか知っとるかね?

永井) さあ。

治五郎) プロフェッショナルだよ。

 君はマラソンを極めて、

 我が国における、プロフェッショナルの、

 スポーツ選手第一号になりたまえ!

福田) しっかりやれよ、金栗!

四三) はい! ありがとうございます!

 

**********

 

手紙・スヤ) 「スヤより。お手紙拝読しまし

 た。進路の件、マラソンへかける思い、私

 は理解しました。お義母様は、これじゃ話 

 が違うと騒ぎますが、四三さんが、オリン

 ピック制覇の宿願を、達成するまでの辛

 抱ですと、言い聞かせております」。

 

**********

 

男性) あれ? 新しか旦那んさんは?

幾江) どぎゃんもこぎゃんも祝言を

 挙げた翌朝、東京に帰り申した。

(笑い声)

スヤ) 2年後のオリンピックまでの辛抱

 だけん。はい皆さん、ようがまだしたな!

 

**********

 

<池部家>

(縁側で手紙を読んでいるスヤ)

手紙・四三) 幾江殿、スヤ殿。

 私の身勝手な決断、ご理解頂き、

 ありがとう。四三は、幸せ者です。

 これを励みに、日々ますます精進する

 所存。スヤさんも、お体ご自愛下さい」。

スヤ) 「スヤさん」…。

手紙・四三) 「冷水浴はよかばい。

 いっちょん風邪ばひかんけん。

 だまされたと思って、やってみなさい」。

スヤ) えいっ、何事も、経験ばい。

(素っ裸になって冷水浴をするスヤ)

スヤ) ひゃあ~!

 

**********

 

<寄宿舎>

四三) ひゃあ~!

 

**********

 

<池部家>

スヤ) 気持ちよか~!

 

**********

 

<寄宿舎>

(寄宿舎の井戸端で、四三も素っ裸)

 

**********

 

あゝ結婚…いや~ホント結婚! マジ結婚!w

面白かった~! もうホント四三ったら。幾江さ

んったら。スヤさんったら。みんな大好きだよ!

まさかのスヤさんの冷水浴に思わずひゃあ~

って声が出てしまった。あっぱれ綾瀬はるか!

視聴率なんて関係ないね。どぎゃんもこぎゃん

もこんな面白いドラマ、見るっきゃないっしょ!



●「いだてん~東京オリムピック噺~」HP

「いだてん~東京オリムピック噺~」関連ブログリスト
NHK(大河/時代劇/スペシャル・その他)ドラマ関連ブログリスト


ランキングに参加しています。
ポチっとしていただけると、嬉しいです♪
にほんブログ村 テレビブログ テレビドラマへ
にほんブログ村
にほんブログ村 テレビブログへ
にほんブログ村