大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第13回~復活 | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第13回~復活

 

 

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「日々のダダ漏れ」

 

 

<東京高師・午前3時50分>

記者) 永井さん、

 体協を代表して、感想をひと言。

永井) 感想も何も、

 まだ結果も出ておりませんから。

本庄) 出ました! 現地の特派員から

 電報が入り、「金栗、敗退」と。

男性) えっ?

本庄) 棄権したようです。

可児) 何かの間違いじゃないですか?

(電報を見る野口)

野口) 「カナクリ キケン ハイタイス」。

 

**********

 

<ストックホルム・ホテル>

内田) 嘉納先生、すいません。

ダニエル) ニッシャビョウデス。

弥彦) 日射病?

内田) 我々がここへ、連れて帰ってきました。

ダニエル) (英)何も覚えてないようです。

(四三を見つめる治五郎)

四三) すいまっせん…。

 

志ん生) スウェーデンってのは北欧ですから、

 夏も涼しそうなもんですが、この日は、日陰

 でも、30度、灼熱地獄。68人中34人、半数が

 途中棄権したんですから。だからって勝手に、

 宿に帰るのはね、いかがなもんかと、思いま

 すが…。まずは、現場検証してみましょうか。

 

**********

 

敗北から数時間後

 

(自転車を押すダニエルとコートを羽織った四三)

 

「敗北から、数時間。

ダニエルと共にマラソンコースを歩く」

 

ダニエル) オボエテマスカ?

(残された給水所を見る四三)

 

「レース中のこと、

全く身に覚えなく、奇妙なり」

 

ダニエル) (英)折り返し地点です。

(教会を指さすダニエル)

ダニエル) オボエテマスカ?

(教会を背に、畑の風景を見る四三)

四三) ラザロ…。

ダニエル) (英)戻りましょうか?

四三) うん?

ダニエル) (英)戻りましょうか?

 

**********

 

ダニエル) (英)折り返したあとは、

 脱落者が続出しました。金栗さんは、

 ぐんぐんスピードを上げ、30位、

 いや、20位までは食い込んだと…。

四三) あっ…水は…。

 バッテンは、とらんかったかね?

ダニエル) (英)無理にでも渡せば

 良かったです。アイム ソーリー。

四三) ばってん…雨の降ったけん。

ダニエル) アメ?

四三) あ~…レイン?

ダニエル) (英)雨? 雨は降ってません。

四三) ノー? ノー レイン?

ダニエル) ノー。ノー レイン。

四三) いや…うそばい。こん先の道で、

 ラザロ選手ば抜いて…。

 あれ? あれ? 

 あれは…羽田やったかね?

(頭を抱える四三)

 

**********

 

<森の中のコース>

四三) あっ。

(道が二またに別れた17マイル地点)

四三) あっ…。こ…子ども…。

 チャイルドが、立っとったばい。

(回想)

四三) ポルトガルの、ラザロ選手が、

 後ろから来よったけん…。

 俺は、こっち…。

ダニエル) ノー カナクリサン。

 (英)コースはこっちです。

 練習の時から間違えてましたよね。

 コースはこっち。見て。

(17マイルの標識を前に、左の道を見る四三)

四三) あっ…。どうりで…ラザロは

 追いかけてこんかったばい。

 ああ…。思い出してきた。

 

(回想)

(森の中を彷徨う四三)

(目の前に日の丸。旗の向こうから

 顔を出し、ニカッと笑うチビ四三)

 

**********

 

(回想)

チビ四三) ほら! スッスッハッハッ

 スッスッハッハッ スッスッハッハッ

 スッスッハッハッ スッスッハッハッ…。

(日の丸の小旗を振りながら

 森を駆けていくチビ四三)

(フラフラついていく四三)

(赤い屋根の家に向かっていくチビ四三)

 

(庭に駆け込む

 スウェーデンの旗を持った少年)

ペトレ夫人) (ス)ベント。

 早く! レモネードなくなるわよ。

ペトレ) (ス)マラソン、どうだった?

ベント) (ス)まあ普通。

(お茶会を開いているペトレ家の人々)

ペトレ) (ス)おい、誰か歩いてくるぞ。

(フラフラの四三)

ペトレ夫人) (ス)こんにちは。

 暑いから、お茶いかが?

 あら、もしかしたら。

(他の国の選手もフラフラやってくる)

ペトレ) (ス)違いますよ!

 こっちじゃないですよ!

 コースはあっち! あっち!

(フラフラ庭を行く四三)

ペトレ夫人) (ス)あの人はどこ行っちゃったの?

ペトレ) (ス) おーい!

(大きな木の下に倒れ込む四三)

ペトレ夫人) (ス)あらあらあら。

ペトレ) (ス)寝かせないと。

 おーい、大丈夫か? レモネード! 

 着るもの! 水! 早く! 早く!

(四三にレモネードを飲ませるペトレ夫人)

ペトレ夫人) (ス)飲んで、飲んで。

(シナモンロールを四三の口に押し込む)

(ユニフォームの日の丸を見るペトレ)

ペトレ) (ス)日本人?

 ヤーパン…ヤーパン!

一同) ヤーパン! ヤーパン!

ペトレ夫人) (ス)静かに。何かしゃべるわ。

四三) 日本人です…。

 日本人です。日本人です…。

ペトレ) (ス)家に入って、休んでいきなさい。

四三) アイ ドント ノー。

(四三の体にコートをかける男性)

四三) アイ ドント ノー… アイ ドント ノー…。

 

**********

 

内田) 金栗君…金栗君…。

ダニエル) カナクリサン、ダイジョウブデスカ?

四三) アイ ドント ノー…。

内田) 無事でよかった。

(四三を見る内田)

内田) 残念だったな。

(寝たまま、辺りを見回す四三)

(四三を見ているペトレ家の少年)

(立ち上がる四三)

内田) 金栗君!

ダニエル) カナクリサン!

 

**********

 

ダニエル) (英)それから、

 駅まで連れて行き、汽車でホテルへ。

 

**********

 

(ペトレのコートを羽織り、

 窓際の席で泣いている四三)

(ユニフォームの日の丸を隠すように、

 コートのえりをかき寄せる四三)

(鼻水をたらし、泣きじゃくる四三)

(四三に帽子をかぶせるダニエル)

四三) (泣)

(「大丈夫?」と四三に声をかける

 車内で編み物をしていたおばさん)

 

**********

 

<ホテル>

 

「七月十五日。

大敗後の朝を迎ふ。

終生の遺憾のことデ心うづく。

余の一生の最も重大なる

記念すべき日なりしに、これ、

日本人の体力の不足を示し、

技の未熟を示すものなり」

 

(ノックとドアが開く音)

四三) おはようございます。

弥彦) おはよう。新聞に、

 昨日のレースのこと、詳しく出てるよ。

四三) そぎゃんですか。

(弥彦の手に、現地の新聞)

弥彦) 13位までが、

 オリンピック新記録だそうだ。

四三) 新記録?

 はあ~…あの暑さん中で、ハハハ。

 西洋人は、とつけむにゃあですな。

弥彦) それから君、足袋をプレゼント

 した選手が、いたと言っていたね。

四三) ええ。ポルトガルの、ラザロ選手。

(四三に新聞を渡す弥彦)

四三) おお…ラザロ。ハハッ。

弥彦) 亡くなったそうだよ。

四三) えっ?

弥彦) 新聞には、意識不明とあるが、

 今朝病院で息を引き取ったそうだ。

 日射病による、髄膜炎らしい。

(脇目も振らず、練習をするラザロの写真)

弥彦) ストックホルムの悲劇だよ。

 君も…危なかったね。

四三) はい。あん…分かれ道で…。

 左に行っとったら、俺も…。

 ばってん…それでよかったとか?

弥彦) よかったに決まっている。

 死んだら君、二度と走れんのだぞ!

(写真の中のラザロを見つめる四三)

四三) ばってん、彼も国の期待ば

 背負うて、必死でした。惜しかです。

 悔しかでしょうなあ…。

弥彦) うん。

四三) はあ…。

 

**********

 

<大森の部屋>

治五郎) 明日、IOC総会がある。

 4年後どうなるか分からんが、少なくとも、

 マラソンは、廃止の声が上がるだろうな。

 君にも、苦労かけてしまったね。

大森) いえ。生きてる間に、

 オリンピックを見られてよかったです。

 私に4年後は…。(せきこみ)

 絶対にありませんから。

(大森の肖像画を描いている安仁子)

大森) ただ、結局はこの体のせいで、

 監督としての役目を果たせなかった。

 それどころか、金栗君や三島君に、

 無用なストレスを与えてしまった。 

治五郎) そんなことはない。

大森) ふがいない。ほかにも適任者が

 いただろうに。(せきこみ)

治五郎) いい加減にしたまえ! 体悪い

 んだから、せめて心ぐらいしゃんとした

 まえ! 残り短い人生、ずっとウジウジ

 して、終わるのか!? そばにいる者

 の身にもなれ!立派だったよ。君は立

 派な監督だった。一緒に走ったり、大

 声で気合いを入れたりする代わりに、

 すばらしい遺産を残してくれた。

大森) 遺産?

治五郎) これだよ。

(大森が書いた論文「陸上運動競技法」)

治五郎) 感服したよ。足の運び方、腕の

 振り方、スタートの切り方、練習法…見

 事にまとめてある。選手だけが主役じゃ

 ない。こういう繊細な仕事が、スポーツ

 の未来をつくるんだよ。胸を張りたまえ!

大森) はい。オリンピックは、若者の、大会

  です。未来の…10年後、50年後の若者の

 ために、今がある。日本人の肉体が劣っ

 ているなら、10年後、50年後に追いつけば

 よいと、私は思います。

治五郎) そのとおり。よくやった、大森君。

大森) はい。

(涙をこらえ、笑みを浮かべ絵を描く安仁子)

 

**********

 

志ん生) マラソンの結果は、

 日本の新聞にも、載りました。

 

(新聞記事を読む永井)

永井) 「金栗選手は、十七哩(マイル)

 走(はしり)たる後、競走を中止するの、

 止(やむ)なきに至(いたり)し」。

可児) (泣)

男性) おい…おい! 金栗からだぞ!

 

志ん生) ちょうど、金栗君が、2週間前

 に書いた手紙も、届いたようで。

 

**********

 

<熊本>

実次) 「拝啓、いよいよ、オリンピック

 が始まります。マラソンは、14日です。

 兄上、母上、ばあちゃん、東京高師の

 仲間、諸先生方など、皆様の温かい

 支援のおかげで、練習に、熱中でき

 ているところです」。

 

**********

 

<池部家>

スヤ) 「更には、池部家の皆さんからの、

 温かいご支援、遠い異国の地で、日々

 感謝に堪えません。いずれ優勝メダル

 を手土産に、ご挨拶に伺う所存です」。

重行) 優勝メダルて…。

スヤ) そう書いてありますね。

重行) ばってん…。

スヤ) 手紙は2週間かかりますけん。

 「四三はやります。必ずやり遂げます」。

 

**********

 

<ストックホルム>

(ホテルのベッドで眠っている四三)

(洗濯して部屋に干されたユニフォーム)

 

**********

 

<播磨屋>

(「祝 金栗君オリムピック出場 當ハリマヤ

 謹製! 足袋ニテ行進」と書かれた貼り紙

 と入場行進時の写真)

勝蔵) これ、開会式の写真でしょ。

ちょう) えっ?

 フフッ、しょうがないでしょう。

 走ってるところの写真ないんだから。

 

**********

 

志ん生) あっ、そうそう、今日は私の、

 初高座の日でして。オリンピックにゃ関

 係ねえけど、少々おつきあいのほどを。

 

**********

 

(風呂敷包みを手に屋台をのぞく清さん)

清さん) あ~。やっぱりな。

 …んなこったろうと思ったんだよ。

孝蔵) 何が?

清さん) 駄目だろ飲んじゃあ。

 大事な初高座だっつうのに。

孝蔵) だからワニラ食って

 精つけてんじゃねえか。

 

志ん生) ワニラってのはね、牛飯の、安い

 やつですな。食ってる客の足元で、ワン

 公が、にらんでる。ウウッ。だから、ワニラ。

 

清さん) 本当だな? 孝ちゃん。

 飲んでねえな?

孝蔵) 飲みたくても銭がねえよ。

清さん) よし…そんなら、これ。

(風呂敷をほどき、着物を出す清さん)

清さん) 播磨屋って、世話になってる、

 足袋屋のおやじがさ、安く、こさえてくれ

 たんだよ。芸は知らねえが、せめてなり

 ぐれえはビシッとしてもらいてえからよ。

(着物の襟先に「朝太」の名前の刺繍)

孝蔵) 清公よう…。

清さん) 頑張れよ孝ちゃん。今度しくじ

 ったら、後はねえんだ。しっかりな。

(孝蔵の肩をたたき、立ち去る清さん)

孝蔵) ありがてえな…。

 持つべきものは、友だな。

(屋台の向こうで、

 質屋ののれんが風に揺れている)

 

**********

 

<寄席>

清さん) お~…お~いたいた…。

 ちょっとごめんよ、ごめんよ。

小梅) 遅いよ清公。どこ行ってたんだい?

清さん) ハッパかけてきた孝ちゃんによ。

 そちらさんは?

小梅) あっ、美川君。小説家の卵。

清さん) どんなの書いてんの?

美川) 冒険小説をね…書きたいと

 思ってるね。小梅をモデルにね。

小梅) やだ…もう。

美川) 以前は恋愛小説を書きたいと思っ

 ていたが、今は、2人で、世界一周なん

 てのも、オツだなって、思ってるね。

小梅) ちょっと~さっきは熊本帰って

 所帯持とうって。

美川) あ~もちろん…それも、思ってるね。

小梅) ん~もう、どっちよ。

(太鼓の音)

清さん) よっ、待ってました!

小梅) よっ!

(拍手)

席亭) うちの席を何だと思ってんだ!?

 なめてんのか? どういう了見だ!?

 初高座を何だと思ってんだ!

噺家) どうもよろしくお願いいたします。

(拍手)

清さん) あれ? 違ったね。おや?

噺家) え~いっぱいのお運びで…。

 

**********

 

<楽屋>

円喬) 飲んでるね。

孝蔵) 飲んでましぇん。

円喬) 飲んでるだろ?

 怒らないから言ってごらん。

 飲んでるよね?

孝蔵) 飲んでませんよ。怒りますよ。

 うそで~す。飲んでま~す。

円喬) (ため息)着るものは?

孝蔵) あ~さっきまでね、もうちょっといい

 やつがあったんですけどもね、曲げちま 

 いました。あっ、「曲げる」っていうのはで

 すね、芸人の符丁で質ぐさに入れちまう

 っていう…。これはね、さっきワン公がね、

 ワンッってかみついてきやがってね。

 それでワニラこぼしちまったんですよ。

 あっ、ワニラっていうのはね…。

円喬) いいよ! (ため息)

 着物見に来たんじゃない。

 客は君の芸を見に来たんだ。

 …で、ネタは決まってんのかい?

孝蔵) 「富久」です。

円喬) 「富久」!? 前座の分際で、

 「富久」!? 暮れでもねえのに「富久」!?

孝蔵) だって…それしか教わってねえし。

円喬) あんだって!?

孝蔵) すいません。

 「富久」で、行ってまいりやす。

(拍手と太鼓の音)

噺家) お先に勉強させて頂きました。

 

**********

 

清公) 今度こそ朝太だ!

(袖の破れた小汚い着物で高座に上がる孝蔵)

清さん) よっ、朝太! 朝太!

(拍手)

清さん) はっ? おいおい、何だって

 俺の贈った着物着ねえんだよ?

(フラフラでヨロヨロの孝蔵)

(前屈みのまま座る孝蔵)

孝蔵) え~浅草阿部川町に…。

清さん) 飲んでるね。

孝蔵) たいこもちの、

 久蔵という男がおりまして…。

 

志ん生) …つって、あの~顔を上げたは

 いいんですけども、どういうわけか、次の

 文句が出てこない。何しろ客がみんなこ

 っち向いてね、座ってますから。とにかく、

 40~50個の目ん玉にいきなり、ニッと睨

 まれちゃって、私は驚いちまった。

 

清さん) おい、どうした? 孝ちゃん。

孝蔵) あっ、あっ、真面目なんだけど、

 え~酒癖が悪いのが玉にきず!

清さん) それはおめえじゃねえか!

(笑い声)

孝蔵) ヘヘッ、ヘヘヘ…。

(孝蔵の手が車を引く手になる)

孝蔵) おう…おう…。「何だい? うん? お

 前さん、えっ、しくじったのかい?」。「ええ

 まあ、しくじりで」。「お前さんはねえ、たい

 こもちときた日には、江戸でも指折りの腕

 なんだが、飲むといけないねえ」。「そうい

 うお前さんは今何してらっしゃる?」「えっ、

 あたしかい? あたしはそりゃね、もうね、

 あの~商売はね、もうせがれに譲っちま

 って、今は、富の札売って歩いてるんだ」。

 「あっ、富くじ! それ、当たるの?」。「冗

 談言っちゃいけないよ。当たらないものは

 ないよ」、「じゃあそれ一分で売って下さい

 よ。一つ、当たるやつを」。「何言ってんだ

 い。当たるのが分かってりゃあたしが買

 っちまうよ。今はね、一枚っきゃねえんだ。

 これだ、鶴の、千五百番」。「ああじゃあそ

 れ買おう!」ってんで、うち帰(けえ)って

 大神宮様の中にその札しまって拝んだり

 なんかして。ある晩、ジャンジャ~ンと、

 半鐘がなる。「お~い! お~い留(とめ)

 さん」。「あっ何だい?源公」。「火事だよ

 火事。ちょいと屋根上がって見ておくれ」。

 「おう…どっちだい? 方角は」。「あ~そ

 うだな。燃えてんのは、日本橋の方だな」。

 「日本橋!? 日本橋っつったら、久蔵の

 旦那の屋敷がある方じゃねえか。おい、

 おい…起きろ! おい久蔵! おい、寝て

 る場合じゃねえぞ!起きろ!」。「へい?」。

 「おい、おい…火事なんだよ火事!」。

 「へい?」。「そりゃあ…よござんす」。

 「よござんすってことはねえじゃねえか! 

 日本橋で火事なんだよ!」。「日本橋で、

 火事だ!?」。

 

**********

 

(ユニフォームと足袋で

 マラソンコースを走る四三)

 

**********

 

孝蔵) 「火事だ火事だ火事だ火事だ火事だ!

 どけどけどけどけ!邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪

 魔だい!って誰もいねえや邪魔なやつは」。

 ウ~ッ、ワン! ワンワンワンワン!「何だ?

 何だコンチクショー何だって鳴きやがんだい。

 俺は怪しいもんじゃねえや。泣きてえのはこ

 っちなんだ本当に。『旦那~!』って飛び込

 んでいきゃきっとなんとかしてくれらぁ。『旦

 那!』。『おう、久蔵じゃねえか』『へい、駆け

 つけてまいりました』。『どこから?』。『浅草

 阿部川町から』。『おっ、浅草から日本橋ま

 でよく来たな。よし、出入りを許してやるぞ』。

 …ってな具合にいくかどうか分からねえが、

 行ってみなくちゃ分からねえや。え~いどけ

 どけどけどけ~! 邪魔だ邪魔だ邪魔だ!

 火事だ火事だ火事だ火事だい!」。「お~い

 お前さん、何だってそんなに走るんだい?」。

 「火事なんだよ火事!」「火事? どこで?」。

 「日本橋だよ日本橋~!」パ~ッと燃える…

 パパパパパ…パパパパッっとひづめの音。

 「旦那~!」。

(高座に倒れる孝蔵)

(客の口がポカンと開いている。

孝蔵) (荒い息遣い)

 すいません…あ~…ちっと、

 頭が痛いんで…今日はここまで。

一同) え~!?

(ヨロヨロ立ち上がり、

 フラフラ袖に引っ込んでいく孝蔵)

(無表情で楽屋に座っている円喬)

 

**********

 

(マラソンコースを走ってきた四三が、

 坂の途中で足を止める)

(各国の選手が集まり、木の枝で

 作った十字架に、野花を供えている)

(十字架の前に置かれた

 ゼッケン518のユニフォーム)

 

**********

 

<会議室>

クーベルタン) (英)平和の祭典、

 オリンピックにおいて、ついに

 初めての死者が出てしまった。

内田) 「選手が亡くなって、大変遺憾だ」と。

クーベルタン) (英)義援金を募り、

 遺族へ送ることとする。

内田) 義援金を募って、遺族に送るそうです。

男性) (ポ)ポルトガルを代表して、

 ご挨拶申し上げます。ラザロは、

 とても有望な選手でした。

 

**********

 

(ユニフォームに野花を供え、合掌する四三)

選手) ラザロ…。

選手) (ポ)42度の熱にうかされ、病院に

 運ばれた。それでもベッドの中で、レー

 スを続けていたんだ。死ぬ直前まで。

 

**********

 

<会議室>

男性) (ポ)祖国のために、息絶える

 まで走り続けました。ここで彼は、 

 人生を最大限生きました。スポーツ

 発展のために、とくに、マラソンのために。

 彼の妻は、妊娠4か月でした。

 

**********

 

(ラザロが倒れた場所で泣き崩れる、

 ポルトガルの選手)

(合掌する四三)

 

**********

 

<会議室>

男性) (ポ)彼の死を、無駄にしないで

 ほしい。ラザロを忘れないでほしい。

 誰が何と言おうと、4年後も、オリンピ

 ックを、マラソンを続けてほしい。

 ラザロに捧げるために。

(拍手)

(頷くクーベルタン)

クーベルタン) (英)4年後の1916年も、

 予定通り、オリンピックを開催しよう。

治五郎) 4年後もやるそうだ。

内田) ええっ!?

治五郎) 当然だろう、平和の祭典だ。

(拍手)

 

**********

 

選手) (英)4年後に会おう。

(ラザロのユニフォームを前に、握手や

 ハグをし、再び走り出す各国の選手達)

選手) (英)4年後に。

 

(回想)

ラザロ) 私は貧しい。

 負ける訳にはいかない。

 勝つか死ぬか、どちらかだ。

 

**********

 

<会議室>

(弟子の小泉八雲が書いた、

 柔術の本にサインをする治五郎)

クーベルタン) オ~サカラワズ シテ カツ。

治五郎) イエス。

クーベルタン) サンキュー。

治五郎) (英)これで、あなたも私の弟子だ。

 いずれ、極東にも、オリンピックを。

クーベルタン) (英)いくらなんでも、遠すぎる。

治五郎) トゥー ファー?

クーベルタン) オー イエス トゥー ファー。

(握手をしてきたクーベルタンを…)

クーベルタン) ウウッ!

(どよめき)

(一本背負い…と見せかけ)

治五郎) ディス イズ 柔道。

 

**********

 

(ユニフォームと足袋で街を走る四三)

 

「人笑はば笑へ、

ストックホルムにて重任を全う

することあたはざりし口惜しさ。

死してなお足らざれども、

死は易く、生は難く、

その恥をすすぐために…。

粉骨砕身してマラソンの技を磨き、

もって皇国の威をあげん」

 

**********

 

(スタジアムの表に弥彦)

四三) あっ…。

弥彦) はい、ご苦労さま。

(四三に飲み物を手渡す弥彦)

四三) すいません…ありがとうございます。

弥彦) 日本に着く頃には、

 夏も終わっておるだろうね。

四三) 白夜とも、ようやくおさらばです。

弥彦) あっ、嘉納先生。

(車に乗ってやって来た治五郎)

四三) 嘉納先生。

 

**********

 

(ゲートの前に立つ治五郎)

治五郎) 三島君、金栗君、我々は、

 またオリンピックに帰ってくる。

 よって今回は、閉会式を待たず、

 明日、この地をたつ。

四三) はい。

弥彦) はい。

(スタジアムを見つめる3人)

(拍手と歓声)

 

**********

 

<ホテル・大森夫妻の部屋>

四三) あっ…ご挨拶に、伺いました。

安仁子) (英)お気持ちは嬉しいけど、

 中には入らないで。

四三) あの…大変、お世話になりましたけん。

弥彦) お目にかかって、せめてお礼を。

安仁子) ノー! 察して下さい。

四三) そぎゃんですか…。では、また日本で!

(ベッドに寝た大森の腕が、鏡越しに見える)

(指を鳴らす音)

(指を鳴らし、親指を立てる大森)

(頭を下げる四三と弥彦)

(ドアを閉める安仁子)

 

残念ながら、大森兵蔵が再び日本の

地を踏むことはありませんでした。

大森は数か月後、アニーの故郷、

米国へ渡り、翌年の1月、他界します。

37年の、短い生涯でした。

 

**********

 

(ホテルを出る、弥彦と四三)

安仁子) フォーティースリー! 弥彦!

 (英)がんばって。わかった? 大和魂!

(指を鳴らし親指を立て、微笑む安仁子)

安仁子) 忘れないで!

 

**********

 

<ペトレ家>

四三) (英)お借りしたコートを返しにきました。

ペトレ) (ス)わざわざありがとう。

 もうよくなったのかい?

ダニエル) オーケー?

四三) あっあっ…イエス。アイム オーケー。

(庭の木を見つめる四三)

 

スウェーデンで四三は、

ミッシング・ジャパニーズ、

消えた日本人と、呼ばれるようになります。

(”Missing Japanese” = 消えた日本人)

 

**********

 

(質から出した着物を清さんに投げる孝蔵)

孝蔵) 返(けえ)すぜ。

清さん) 要らねえよ。

孝蔵) いや~俺にはもったいねえよ。

清さん) しくじったのかい?

孝蔵) どうもこれが、

 クビにはならずに済んでんだよな。

 前座で小ばなしでもやってらぁ。

清さん) だったら着てくれよ。

孝蔵) どうせまた曲げちまうからよ。

清さん) 入れたり出したりすりゃ、いいじゃ

 ねえかよ。嘉納治五郎みてえによ。ほい。

(着物を羽織る孝蔵)

孝蔵) なるほどな。なるほどな。

 

**********

 

<ストックホルム・港>

ダニエル) カナクリさん…カメラ。

四三) あ~いやいやノー ノー。

 これは、三島さんのだけん。

 すいません、ずっと借りっ放しで。

弥彦) やるよ、君に。

四三) えっ? ばっ、ええっ!?

弥彦) 君はこれから、世界を渡り歩く男だ。

 その風景を、そのキャメラに収めてくれ。

四三) ばってん…。

弥彦) 実は…新しいの買っちゃった

 んだよね。ハハハハハ。

四三) あっ…なら、遠慮なく。

弥彦) うん。

四三) ありがとうございます。ばっ…。

 あっ、ダニエル。

ダニエル) ンッ?

(小さな野花をダニエルの襟元に挿す四三)

ダニエル) サンキュー カナクリサン。

四三) サンキュー ベリー マッチ。

ダニエル) サンキュー アリガトウ。

四三) ありがとう。

ダニエル) アリガトウ。

 

**********

 

<船上>

治五郎) (ス)ありがとう!

四三) ありがとうございました!

弥彦) ありがとうございました!

 

「スウェーデン滞在、実に四十八日目。

我、ついに水の都に別れを告げる。

いざ、ベルリンへ」

 

(「1916年 オリンピック、

 ベルリンに決定!」の新聞記事)

 

**********

 

なんとも切ない回でした。ラザロの史実も知って

いたので、見る前からちょっと辛かったし、四三

を導くチビ四三…うちひしがれる四三にも涙…。

 

ペトレ家の人たちは、本物の子孫の方々で、今

だに交流があるらしいので、それも嬉しいよね。

 

四三と弥彦には、感謝しかない。日本の未来の

ために走ってくれて、本当に本当にありがとう!



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