大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第9回~さらばシベリア鉄道 | 日々のダダ漏れ

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日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第9回~さらばシベリア鉄道

 

 

※無断転載対策のため、不本意ですが、

しばらく、注意喚起させていただきます。

 

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明治45年(1912)5月16日 

<東京・新橋>

 

明治45年5月16日。「敵は幾万」の合唱

に見送られた韋駄天金栗四三と痛快男

三島弥彦。日本人として初めてのオ

リンピックに出場するため、ユーラシア

大陸を横断し、はるか北欧のストックホ

ルムを目指します。その距離、8000km。

17日間の長旅が始まったんですが…。

 

四三) 監督、監督!

弥彦) あ~あそこ、あそこ。

四三) な~しですか? な~し嘉納先生

 は乗っとらんとですか? 監督。

大森) 校長は官員(=国家の役人)だろ? 

 国家の役人が、長期海外出張するのは、

 いろいろと面倒でね。

 

**********

 

<文部省>

治五郎) 言語道断! 小笠原を出せ。

 文部大臣の小笠原とは

 話はついとるんだよ。

職員) 内閣が代わりまして、

 小笠原さんは辞任されました。

 今は岡本文部次官が…。

治五郎) だったらその岡本に会わせろ。

職員) ここにはいませんよ。

治五郎) あのだね…IOC会長から、

 日本選手団団長宛てに、招待状が

 来とるんだよ。見たまえ。

 「Japan Team Leader」、誰だ?団長は。

職員) 誰ですか?

治五郎) 私だよ! 「JIGORO KANO!」.

 だから行くんだよ。文句あるか!?

職員) 渡航の申請を出して下さい。精査

 した結果、問題がなければ、文部次官

 から外務大臣に渡航を認める手紙を出

 します。その手紙の返答を待って…。

治五郎) そんなの待ってたら、

 オリンピック終わっちゃうよ!

 

**********

 

四三) 手続きん済んだら、

 合流ばしなさっとですか?

可児) うん。おっつけ、おっつけ来ると思うよ。

弥彦) あの2人だけじゃ心もとない。

可児) すっかりハニームーン気分だもんね。

弥彦) ところで可児さんは何でいるんですか?

可児) つ…敦賀まで。

 僕は敦賀で校長とバトンタッチ。

車掌) 皆さん、次は名古屋であります。

 お降りの方はご用意願います。

 

**********

 

2人の人気はもはや全国区。

大きな駅にはオリンピック選手を

一目見ようと人々が押しかけ…。

 

女性) あっ、ここに、名前おくれやすか?

四三) これ(扇)に?

 

四三は、生まれて初めて、

サインというものを書きました。

 

女性) ああっ!  

 三島さんの分、空けといて下さい。

四三) すんまっせん。

女性) 三島さ~ん!

男性) 握手を。

四三) あ~ありがとう。

男性) 頑張りや!

 

**********

 

敦賀に向かう各地でこんなことが

あったもんで、気が高ぶって眠れ

ない四三。これから始まる旅の記

録を日記に残す決意をしました。

 

志ん生) 誰も経験したことのない、

 暗中模索の旅という思いを込めて、

 その日記はこう名付けられました。

 おい。おい。火事だ~! 火事だ!

五りん) えっ?

志ん生) 火事だ~! 火事だ~!

五りん) 火事? えっ?

志ん生) 「えっ?」じゃねえ。

 火事なわけねえだろバカ野郎。

五りん) あっ、すいません。

志ん生) 火事だったらお客さんとっくに

 帰ってるよ。俺だっていねえよここに!

 めくれそれを。

五りん) えっ? あっ…。

志ん生) それをめくって、そこ座ってろ。

 

盲目旅行、

国際オリムピック競技参加之記。

これは、日本にたった一つしかない、

貴重なオリンピック初参加の記録です。

 

しかし、何しろ汽車に揺られながら書い

たもんで、ほとんど読み取れねえ。

 

志ん生) そんなわけでまあ、こっちで

 大体くみ取って、あとは面白おかしく、

 しゃべりますんで。めくれよ、めくれ。

五りん) あっ、はい。

志ん生) どうも、古今亭志ん生…こら!

 何やって…。

五りん) あっ、こっちか、こっちか!

 えっと、1、2…ほっ!

志ん生) それでは、「ストックホルム

 青春編」の、開幕でございます。

 

**********

 

「5月17日、快便。

早朝、福井件敦賀着。快晴なり」

 

可児) では、私はここで失礼するが、

 2人とも、頑張ってくれたまえ!

四三) 頑張ります。

弥彦) ありがとうございます。

可児) 頑張って。

大森) ありがとう、可児君。

可児) まあとにかく、体調だけは、大事に。

本庄) じゃあいいかな~? 撮るよ~。

四三) あっ…はい。

本庄) はいそのまま~。

 

「嘉納先生、ついに敦賀には現れず」

 

**********

 

福田) 一行を乗せた船は、2日間かけて

 ウラジオストックに着く。

学生たち) おお~。

福田) そもそも、シベリア鉄道を通した、

 ロシア人の目的は? 野口。

野口) はい! 貿易ルートの確保と、

 アジアへの侵略であります。

福田) ばってん、我が日本軍は、日露戦争

 に勝利を収め、やつらのもくろみば、一蹴

 した。我らが金栗四三君擁する、日本選手

 団は今、この、シベリア鉄道を、逆走して

 だな、今度は、スポーツでヨーロッパに攻

 め込もうとしておる!

学生たち) おお~!

 

**********

 

<ロシア ウラジオストク駅>

 

「五月十九日。快便。気温五度、極寒なり。

嘉納先生の姿、浦盬(うらじお)にも無し。

シベリア鉄道は、二等車両、

大森夫人は隣の、女子寝台なり」

 

四三) ばっ…狭か~。

弥彦) うちの風呂より狭いな。

四三) 風呂より?

大森) 金栗君は、そっち。

四三) はい。

大森) 三島君は、こっちだ。

弥彦) はい。

四三) ばってん、嘉納先生は?

大森) うん、嘉納先生…。

 

「嘉納先生、ついに間に合わず。

望みは絶たれし。午後一時二十分、

鐘の音三つ鳴り、いよいよシベリア

鉄道、西へ向かって走り出す」

 

**********

 

弥彦) よし、金栗君、食堂車行こうか。

四三) あっ、はい。

大森) ノーノーノーノーノー。倹約の

 ため、食事は自炊をベースにする。

弥彦) 自炊? えっ…ここで!?

大森) 安仁子が、腕を振るう。

安仁子) そうだよ。

 えっと、魚や、牛肉の缶詰と、

 アルコールランプを持ってきました。

四三) あっ、それなら、野菜は名古屋で、学

 生からもらったとがあります。八丁味噌も。

大森) おっ、そいつはいいな。

みそ汁が作れるよ、アニー。

男性) (英)君たちは

 シベリア鉄道でどこに行くんだ?

大森) (英)我々はオリンピックの

 日本選手団だ。

男性) (英)オリンピック?

大森) イエス。

男性) (英)それでわざわざ日本から?

大森) イエス。

男性) (英)ストックホルムまで?

 ヤーパン…。ヤマモトダマシイ?

弥彦) あっ、大和魂?

男性) (英)それだ、大和魂!

弥彦) 大和魂。

男性) (英)私にはジャーマン・ダマシイが

 ある! ヤマトダマシイ。食堂車で一杯

 やろうじゃないか。

 

**********

 

<食堂車>

(メニューを見る一同)

大森) (英)高いな…。

安仁子) ぼったくりじゃないのか?

弥彦) どうします?

大森) 今日は、初日だから特別だ。

 僕がおごろう。

安仁子) ヒョウ。

男性) (英) どうした、頼まないのか?

 (ゲップ)ハッハッハッハッハ…!

弥彦・大森) ハハハハ…。

 

こういう連中と俺は闘うのか。

敵対心を抑えられない四三でした。

 

「食堂にて、外国人の人相を見る。

ドイツ人は、堂々として、動じず。

ロシア人は、粗大で実に大陸的。

米国人の、実に快活そうな

気持ちの浅そうな趣き。

フランス人は、老獪にて分からず。

日本人は…論外なり」

 

男性) ヤナトダマシイ!

 ジャーマンダマシイ!

四三) あっあっあっ…

 あの人の分まで、払うとですか?

弥彦) いや、ほとんどあいつでしょ。

 ビールがぶがぶ飲みやがって。

大森) 明日から自炊にしよう。

 君らは、2円ずつでいいよ。

四三・弥彦) はあ!?

 

**********

 

「夜、大森監督の咳と、忌まわしき

ドイツ人の鼾が五月蠅くて、眠れず」

 

**********

 

<熊本・池部家>

スヤ) ばっ! お義母さん。

 おはようございます。すいまっせん。

 鶏の鳴かんけん、寝過ごしまし…。

(スヤを手招きする幾江) 

スヤ) はい。あっ…すいまっせん。

幾江) スヤさん、あんたはよう笑う愉快な

 人だけん、伸び伸びやってもろて構わん

 ばってん、この家にもいくつか守ってもら

 わんといかん、しきたりのあるとばい。

スヤ) はい。

幾江) 例えば、朝はこんタライにその井

 戸から水ばくんできて、顔ば洗い終わ

 るまでこがんして持っとらんといかん。

スヤ) お義母さんが?

幾江) あんたが! おるが顔ば洗うまで。

スヤ) すんまっせん。

 

**********

 

四三) お~うまそうな、匂いのしますな。

安仁子) うん。ミソスープ。

四三) アハッ、みそ汁ですか!

大森) 着替えて、顔洗ってきなさい。

四三) 便所行ってからじゃいかんですか?

大森) ノー。人前に出る時は正装。いか

 なる時も、日本人としての謹厳さ、紳士

 的な振る舞いを忘れてはならない。

四三) はい。

安仁子) わっ! 

 フォーティースリー、何してるの!?

四三) いやいや…。

大森) ハハハハ…。

 

「シベリア鉄道の旅、二日目。朝起きて

から寝るまで、Yシャツ、ネクタイ、背広

革靴で、肩が凝る。三島氏の、身支度

の長さに閉口。毎朝きっちり、三十分を

要する。まるで女子の如し」

 

弥彦) 頂きます。

四三) 頂きます。うん?

大森) う~ん。やっぱり朝は

 みそ汁に限るな。金栗君。

四三) だしは?

安仁子) Dash it?(くそったれ)

四三) だしば! だしばとらんといかんと

 ですよみそ汁は! これは、お湯にみそ

 ば溶かしただけでしょ? ねえ?

弥彦) あっいや…僕は、作ったこと

 ないから。ただこれは確かに…。

大森) おいしいよ。安仁子。

 すごくおいしい。そして美しい。

安仁子) フフッ、ヒョウ。

 

「やはり日本人は論外なり」

 

大森) そろそろハルビンだな。

 先も長いことだし、途中下車しよう。

四三) そぎゃんですね。体もなまっとるし。

弥彦) ハルビンか…

 伊藤さんが殺された所だね。

 

3年前、つまり明治42年10月、ハルビン駅で、

初代内閣総理大臣、伊藤博文が、日本の

朝鮮統治に不満を持つ、朝鮮人によって、

撃たれました。当時満州の地は、中国、ロシ

ア、日本が覇権を争う、不安定な状態でした。

 

**********

 

「5月20日、満州ハルビンに着く。

規模雄大なれど、不穏な空気が漂う」

 

弥彦) 体が、縮こまってたまらんな、金栗君。

四三) どこかで、絵葉書、売っとらんですかね?

弥彦) わっ!

四三) ばっばっ!

弥彦) 僕はちょっと一汗かいてくる。

四三) えっ、待って…あっ。

(2人を囲むロシア兵)

ロシア兵) (露)

弥彦) えっ?

ロシア兵) パースパルト。

弥彦) あっ、パパ…パスポ-ト、パスポート?

(紙のパスポートを出す弥彦)

ロシア兵) オーケー、オーケー…。

弥彦) 出して出して。

四三) あっ…。

(足袋に挟んだパスポートを出す四三)

(笑い声)

ロシア兵) (露)日本人か?

弥彦) イエス。

ロシア兵) (露)よし、行け。

(うろたえる二人を突き飛ばすロシア兵)

四三) 支那も、おりますな。

弥彦) 物騒だね。

四三) さっさと、用ば済まして、戻りまっしょ。

弥彦) うん、そうだね。

四三) あっ! あっ、俺…パスポート…。

弥彦) えっ? えっ? 何やってんだよもう。

四三) すんまっせん。

弥彦) ヘイ!

四三) パスポート…。

弥彦) ノーノーノ!

 

**********

 

(列車の中で美女に声を掛ける弥彦)

 

「先刻までロシア兵に狼狽して

いたのにも関わらず、三島氏の、

軽薄な振る舞いに呆れる」

 

**********

 

<熊本・池部家>

(縁側でたらいを持っているスヤ)

(敷いてあった新聞に四三の記事と写真)

幾江) おはよう。

スヤ) おはようございます。

(スヤの持つたらいに両手を入れ、

 水をすくう幾江)

実次) 幾江さ~ん!

幾江) わっ!

実次) スヤさん! あ~おったおった!

 痛い痛い痛い…何これ…。

幾江) 朝っぱらからやかましか!

 何ね? あぁたは。

実次) すんません。! いてえ…。

スヤ) どぎゃんしました? 金栗さん。

実次) あっ、四三が、絵葉書ば書いて、

 送ってきよりましたばい!

葉書・四三) 「前略、シベリア鉄道の旅、

 四日目。列車はバイカル湖に沿って進

 む。その壮大なる景色に見惚れつつ、

 退屈を忘れたり」。

実次) 「バイカル湖は世界第一の湖

 にて、四方は山、気温摂氏5度」!?

 へえ~想像もつかんばい!

スヤ) 冷水浴のことは書いとらんですか?

実次) ハハハハハ…。

 まだ続けてるとです。ハハハハ!

 

**********

 

「シベリア鉄道、五日目。いよいよ、

ヨーロッパ領に入る。各自、なまった

体をほぐす。それが済んだらもはや、

する事なし、話題も、なし」

 

**********

 

志ん生) え~人間っていうのは、どんな

 気の合う同士でも、四六時中顔を突き合

 わせてりゃ、ギスギスしてくるもんですな。

 

弥彦) 何だい?

四三) いえ。

弥彦) 何だよ?

四三) だけん何でもなかですって。

 

志ん生) 「何でもなくないよ。何であたしの

 顔見んだい?」。「いや…立派な顔をして

 るなと思って」。「そうかな?」。「いやもう、

 顔が立派で、鼻なんか立派ですよ」。「そ

 うか」。「つまんでみたい」。「うるせえバカ

 野郎。鼻をつまんでどうすんだよ」。…で

 2人で行くと、そのうち、あの、つまらない

 ことで、ケンカになってしまいまして。「ちょ

 っと、あんたね…あんたはいびきがうるさ

 いよ」。「いびきなんかかいてないですよ

 私は」。「かいてるじゃないか。うるさいん

 だよ」。「どうしてそういう事言うんですか。

 いびきなんかかいてないですよ。何言っ

 てんだ、表に出ろ」。「表に出るって汽車

 ん中じゃないか。何言ってんだ」。「いび

 きかいてないって」。「かいてるよ!本当

 に。おい、車掌さん…次の駅まで、何時

 間かかんだい? えっ? 10時間? 10時

 間だってよ。じゃあ俺寝るから。いびきか

 くんじゃないよ。本当に」。(いびき) 「お

 前がうるせえんじゃねえか!」。そんな

 事があったとかなかったとか。それはそ

 うと、嘉納先生はどうしたんでしょうな?

 

**********

 

<文部省>

治五郎) 金も出さない、私も出さない。

 申請して1週間だぞ。

 何をもたもたしておる。岡本は!?

職員) …ですから、まだ審査が。

治五郎) 見ろ、この写真を。団長不在で、

 みんな浮かない顔をしておる。

職員) まあ、とにかく、文部次官の許可が

 なければ、団長だろうが村長だろうが、

 国から外に出すわけにはいきません。

治五郎) この国辱役人め! 

 明日も来るぞ。来るからな!

 (戻ってきて)嘉納治五郎だぞ、私は!

 

志ん生) にっちもだっちもですな。

 まあ、私の方も相変わらず。

 師匠について半年たったんですが…。

 はあ~弟子なんだか、俥屋なんだか、

 宙ぶらりんな状態でして。

 

**********

 

孝蔵) 明日も浅草で、ようござんすか?

円喬) 美濃部君、君、飯は好きかい?

孝蔵) えっ? そりゃあ師匠、

 飯食わなきゃ死んじまいますよ。

円喬) 飯を食おうなんて了見じゃ、

 とても駄目だよ。

(小さな封筒を差し出す円喬)

(受け取る孝蔵)

 

**********

 

五りん) えっ? 5厘?

志ん生)  5厘ってのは、1銭の半分だ。

 うん…これがね、初給金だ。

 取ってあんだ。ほれ、5厘。

知恵) へえ~。

五りん) 少ないですね。

 初任給が5厘って、少ない。

知恵) 車代なんじゃない?

志ん生) あのねえ、そのころ車代はね、

 一日借りると、50銭。

五りん) 100分の1じゃないですか。少ない!

知恵) 安く済まそうとしたのよ。

五りん) なるほどね。50銭払うのももったい

 ないから5厘で弟子にしたんだ。

志ん生) うるせえな、本当に。

五りん) いやいや…てっきりオリンピックに

 ちなんで五りんって名付けてくれたんだと

 思ってました。小銭だなんてがっかりだよ。

志ん生) もらったのはな、銭だけじゃねえぞ。

 見てみろ。初めて名前を頂戴したんだ。

五りん) 朝太(あさた)?

志ん生) バカ。

 

**********

 

円喬) 朝太(ちょうた)。

 お前さん今日から、三遊亭朝太だよ。

(5厘が入っていた封筒を見る孝蔵)

孝蔵) えっ…これは、あっしですかい?

円喬) 私んち知ってるかい?

孝蔵) 人形町の…へい。

円喬) じゃあ、明日っから来な。

 あ~車はいいからね。手ぶらで来な。

 

**********

 

志ん生) つまり、噺家なんか水物だ。

 のうのうと暮らせると思うなと。食うこと

 なんか後回しにして、芸の苦労をしな

 きゃいけねえって。この5厘が教えてく

 れたんだよ。ありがてえじゃねえか。

知恵) ありがてえじゃねえか。

志ん生) おめえもありがてえと思え。リンリン。

知恵) アッハハハ…。

(5枚の1厘硬貨と封筒を見つめる五りん)

 

**********

 

孝蔵) ってな訳で、

 これは要らなくなったからけえすぜ。

清さん) へえ~そいつはよかった

 じゃねえか、孝ちゃん。

孝蔵) 「孝ちゃん」じゃねえんだよ。

清さん) うん?

孝蔵) これからは…三遊亭朝太だ。

清さん) 朝太?

小梅) 恐れ入ったねえ。よっ、朝太師匠!

 あっ、初高座はいつだい?

清さん) お~そうだ。見に行かなくちゃな。

 このぐらいでっけえのぼりこしらえてよ。

小梅) でかすぎ。

孝蔵) よせやい。

小梅) 今度はしくじるんじゃないよ、孝ちゃん。

孝蔵) 朝太だバカ野郎!

(跳ねるように浅草の街を駆ける三遊亭朝太)

 

**********

 

「五月二十六日。日本を出て、十日目。

全行程のちょうど、真ん中を過ぎる」

 

大森) グッドモーニング マイ ラブ。

安仁子) グッドモーニング。 

大森) ホワット アー ユー メーキング?

安仁子) ウォーム ミルク。

 ノー ミソスープ。よかったね。

大森) ♪アー ゼア ビーツ?

安仁子) フフッ。

 ♪ノー マイ ラブ ゼア ノー

大森) ウップス。

(二段ベッドの上から見ている四三と弥彦)

安仁子) 何を見てるの!

 じゃあ、レッスンしよう。起きなさい。

 (英)私に続けて言いなさい。

 Where is the stadium?

四三) ホエア イズ ザ スタジアム。

安仁子 ホエア イズ ザ スタジアム。

四三) ホエア イズ ザ タタ…。

安仁子) 無理。弥彦。

弥彦) オー ヤー。♪エクスキューズ

 ミー ホエア イズ ザ ステ…

安仁子) ちゃんとやりなさいよ!

弥彦) ホエア イズ…。

(通り過ぎる美女に気付く弥彦)

弥彦) あああ…エキスキューズ ミー!

 ビューティフルレディーズ フォトグラフ!

大森) こら三島君!

 ちゃんと着替えてから行きなさい。

 顔も洗っ…。(せきこみ)

 サンキュー アイム ファイン…。

 

「人には、気の合う人と、否とあり。

いかに西洋人の真似したとて、

日本人は日本人なり。なんぞ真の

西洋人ならんや、むしろ日本人の

元気あるを示し、特徴を示せよ」

 

**********

 

可児) 「世は、西洋人が嫌いなり、

 半かじりは、尚嫌いなり。いかに

 西洋人のまねをしたとて、

 日本人は、日本人なり」。

永井) この「半かじり」というのは、

 大森氏のことかな? アハハハ!

可児) フフフ…でしょうな。

永井・可児) (笑)

永井) よく言ったぞ金栗。

 あれはまさに西洋かぶれの半かじり。

可児) やはり永井先生が同行すべきでしたな。

永井) いやいや…可児君が、適任だったよ。

可児) いや永井先生でしょう。

永井) まっ、大森氏が行くよりマシだったさ。

可児) でしょうな。ハハハ!

治五郎) そんなに、行きたかったかね?

可児) 校長!

 

**********

 

四三) 大森殿は、な~し監督ば

 引き受けたとですか?

大森) 何だね? サドンリーだね。

四三) いや…嘉納先生が任命したから

 には、理由のあるでしょうが、ばってん、

 アメリカで体育ば学んだと、それしか

 知らんけん。

大森) 僕はね、体が弱かったんだよ。

 アメリカには、経営の勉強で行ったんだ。

 スタンフォードにね。しかし、西洋人の、肉体

 の強靱さには驚いてしまってね。僕みたいな、

 脆弱な日本人が、この先出てこないように、

 国民の体格体位の向上のために、YMCAの

 トレーニングスクールに移ったんだ。あ~君、

 バスケットボールは知ってるかね?

四三) はい。ばってん、やったことなかです。

大森) バレーボールは?

(首を横に振る四三)

大森) どちらも僕が、日本に持ち帰った。

 安仁子もね。

四三) はい?

大森) 持ち帰った。僕が、日本に。

安仁子) もう、ヒヨウ。

大森) 画家だったんだよ彼女は。僕は、生

 活費を稼ぐために彼女のギャラリーでハ

 ウスボーイをしていたんだが、気に入られ

 てね。大恋愛ってやつさ。ハハハハ…。

 おいおい、何を言わせるんだね。(せきこみ)

 

**********

 

(通路に出る弥彦)

(窓の外を見ている四三)

弥彦) 金森君、大森さんどう思うかね?

四三) いや…どぎゃんもこぎゃんも、

 いっちょん頼りなかです。

 ふた言目には、「安仁子、安仁子」て。

弥彦) いや、そうじゃなくて。

 このところせきばかりしている。

 

**********

 

可児) ええっ?

治五郎) 本人から決して口外しないでくれ

 と言われたが、どうやら、肺を患っている

 らしい。

 

(回想 2か月前)

安仁子) (英)彼の病状は、決してよくありま

 せん。四年後はおそらく無理でしょう。これ

 を逃したら、一生オリンピックを見る夢は叶

 わないのです。選手に迷惑はかけません。

 どうか行かせてやって下さい。ヒョウ。

(分厚い原稿の束を治五郎に差し出す大森)

安仁子) (英)これが彼の…”大和魂”です。

 

永井) 「オリンピック式陸上運動競技法」。

治五郎) 読んでみたまえ。

 彼が相当の覚悟で、監督を引き受けた

 ことが、よく分かるだろう。

可児) すごい…。短距離走の練習法、フォ

 ーム、足の運び方まで。あ~写真も…。

治五郎) 全く、大したワイフだよ、安仁子は。

永井) それで、校長は…。

治五郎) 大森君一人、行かせるわけには

 いかんからね。君たちには悪いが、最愛

 の妻を同行させた。

永井) そうとは知らず、

 私は自分のことばかり…。恥ずかしい!

 いっそ消えてなくなりたい!

可児) 申し訳ございません!

治五郎) まあまあまあまあ。

(地図を見る治五郎)

治五郎) 今は、どの辺りだ?

 

**********

 

「五月二十八日、大森氏の体調、回復

の兆しを見せず。ついに、安仁子さん

が自炊の中止を申し出る」

 

四三) こぎゃんこつで大丈夫でしょうか?

弥彦) 何が?

四三) 何もかんもですよ! 監督はあぎゃん

 かふうで、嘉納先生もおらん。三島さんだ

 って、おなごのケツば~っか追っかけて、

 こぎゃん状態で俺たちは、日本スポーツの

 黎明の鐘になれっとですか!? なあ!?

 こぎゃんこつで、オリンピックに出場してよ

 かとですか!?

弥彦) ちょっとつきあいたまえ。

 

**********

 

<食堂車>

弥彦) 最後の晩餐だ。今日は、予算を

 気にせず食おう。考えても始まらん。

 走るのは僕たちだよ。臆するな、韋駄天。

 練習の成果、見せてやろうじゃないか。

四三) はい。

(フォークとナイフで肉を食べる四三)

弥彦) 大したもんじゃないか。

 西洋人に負けとらん。

四三) 料理の味は、よう分からん。

 ばってん、胃袋は喜んどっとです。

弥彦) フフフフ…。

四三) 三島さん、

 ブドウ酒ば、頼んでよかですか?

弥彦) よし、今夜はつきあおう。

四三) (せきばらい)エクスキューズ ミー!

 ワインを、ツー、大至急。

(頷くウエイター)

四三) あっ、通じた。

弥彦) ハハハハハ…。

 

**********

 

四三) 三島さん。三島さんは、16から負け

 知らずっちゅうのは、ほんなこつですか?

弥彦) ああ、本当さ。

四三) へえっ! とつけむにゃあ!

弥彦) うん? えっ、何?

四三) ああ、三島さんは、

 とつけむにゃあです!

弥彦) あっそう? ありがとう。ハハッ。最後

 に負けたのは、1万m走の時でね、それ

 以来、長距離を走るのは、やめたのさ。

四三) へえ~。そぎゃんですか。

弥彦) 羽田で、君のマラソンを見てね、

 僕は、自分の決断が正しかったと、確信

 したよ。僕に言わせりゃ、君の方が…

 と…と…とんでもにゃあ。

四三) あ~「とつけむにゃあ」です。

弥彦) そう、それ。

四三) いや、俺も、

 長距離でよかった~思うばい。

弥彦) そう。

四三) うん! 短距離だったら、こぎゃん

 かふうに、打ち解けんかったもんね。

弥彦) ハハtゥ、そぎゃんたい。

四三) あっ、うまか~。

 三島さん…頑張りまっしょう!

(差し出した四三の手を握る弥彦)

弥彦) うん!

四三) あの…あれば、

 俺にもやってくれんかね?

弥彦) えっ何だい?

四三) いやあの…。

(ぎこちなく天狗ポーズをまねる四三)

 

**********

 

弥彦) 我らは、スポーツを愛し、スポーツ

 に愛され、ただ純粋に、スポーツを楽し

 むために活動する、元気の権化!

四三) ああ…。

(立ち上がる弥彦)

弥彦) 奮え~。奮え~。か・な・く・り~!

四三) ああっ、うわ~アハハハッ!

(うれしそうに拍手する四三)

四三) ありがとうございま~す!

弥彦) ハハハハハ! 

(拍手)

弥彦) サンキューサンキューサンキュー。

 

**********

 

「翌日、ロシアの首都、

セントピータースバーグに着く。

六月二日、日本を発ち十七日目。

天気は日本晴れ。快便。

バルチック海を船で進み、

我らが目的の地、ストックホルムへ」

 

弥彦) 金栗君、街が見えてきたぞ。

四三) ばっ!

弥彦) 見に行こう!

四三) はい。

(甲板に立つ四三と弥彦)

 

**********

 

昭和45年(1912)6月2日

スウェーデン・ストックホルム

 

内田) どうも! ハハハハハ。

四三) あっ、どうも。

大森) 金栗君と、三島君。

 

「大使館の内田公使が出迎えに来る」

 

内田) 馬車を、ご用意してますんで、

 どうぞ、こちらへ。

四三) 馬車…馬車?

 

「何より驚いたのは、子供から大人まで、

誰もがオリムピックを知っていること。みな、

一ヵ月後の開催を、心待ちにしています」

 

**********

 

(ホテルのフロントに立つ四三)

男性) カナ…クリ…。

 (英)ようこそ、ストックホルムへ。

(ホテルから見える外の明るさに驚く四三)

四三) うわっ! ああ…うわ~これ…。

 朝、8時じゃなかですよね?

弥彦) 白夜だね~。

内田) 紹介しよう。ダニエル。

ダニエル) コンニチハ。

弥彦) こんにちは!

ダニエル) ナイス トゥ ミート ユー。

弥彦) ナイス ミート ユー トゥー。

ダニエル) コンニチハ。

四三) あ~こんにちは。

 

**********

 

(ガイドのダニエルに案内される四三と弥彦)

ダニエル) (英)これがスタジアム。

四三) お~…。

弥彦) うわ~…。すごいよ。

四三) うわ~…。ああ…。

弥彦) うわ~…。広いな~。

 ここを走るのだね。

四三) はい。ここば、走っとばい。

弥彦) まあ…マラソンはすぐ

 出てっちゃうんだけどね。

四三) はい。

(黒足袋で走り出す四三)

 

「必ずやあのポールに、日の丸の

旗を挙げん、決意を新たにする」

 

**********

 

<東京高師>

福田) 我らが韋駄天、ついに

 オリンピックの地に立つ!

学生たち) おお~!

野口) 韋駄天! 韋駄天!

一同) 韋駄天! 韋駄天!

 韋駄天、韋駄天、韋駄天、韋駄天、韋駄天!

 

**********

 

志ん生) よっ、韋駄天!

 あれ? ところで嘉納先生は?

 

治五郎) 何をやってるんだ私はここで!

 私が行かなくて、どうする!? 団長だぞ!?

 ジャパン チームリーダー、ジゴロー・カノー!

 

**********

 

いろいろと不満を募らせ、四三の暗黒面がだん

だんと見えてくる中、弥彦に応援されて少女の

ように歓喜する四三に癒やされた。かわいすぎ

だろ四三、ヒロインかっ!いや~笑った笑った。

 

そして何より、大森兵蔵31歳と安仁子50歳での

結婚という史実に驚愕。シベリア鉄道に乗って

いた時、大森36歳、安仁子は55歳!ということ。

安仁子の中の人が若いから、そんな風には見

えないんだけど、前回、永井が「青い目の年増」

と安仁子を言っていた事に合点がいくというか。

あの時代で、50代ならそりゃそう言うよね~と。

そして…即効反省する可児&永井の可愛さよ。

 

聖人君子はいない。天使のような四三さえ、黒

い気持ちが漏れでるのが人間。凸凹した人間

臭さを、絶妙なさじ加減で見せてくれるクドカン。

これだからやめられないのよ、クドカンドラマは。

 


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