「マッサン」 第55回
第10週 「灯台下暗し」
第10週 「灯台下暗し」
ウイスキー工場の場所探しとエリーが欲しいもの
1921年（大正10年） ５月
政春） エリー…ちいと待ってくれ。
エリー） ハハッ…。マッサン、早く！ 川だよ。
政春） 大丈夫か？
エリー） はい。
政春） エリー、あれ見い！
エリー） すごい！ マッサン。
政春） 見つけた。見つけたど！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
その一か月前
エリー） ♪春が来た 春が来た どこに来た
山に来た 里に来た 野にも来た
政春） 帰ったど！
エリー） えっ？ あ～お帰り！
政春） ああ、ただいま～！ おおっ、見つけたど。
エリー） 見つけた？
政春） 北海道じゃ、北海道！
エリー） 北海道！？
政春） 大阪のはるか北じゃが、行ってみたいと
思わんか？ あっ、これ、土産。
エリー） お土産！
政春） 大阪名物塩昆布。この昆布はのう、全部、
北海道から取り寄せとるんじゃ。
エリー） どういう事？
政春） 船場の昆布問屋に行って、何べんも北海道
に行った事のある、仲買人に会うてきたんじゃ。
エリー） お～！ 昆布、おいしそう！ 大好き！
政春） 昆布は今はええんじゃ。これ見てみ。
どっかに似とると思わんか？
（北海道の写真を見せる政春）
エリー） スコットランド？
政春） ほうじゃ！ 似とるじゃろ？
これも、これも…これなんかそっくりじゃ。
エリー） そう…。
政春） ああ。調べてみたらのう、北海道は、気候も
スコットランドそっくりなんじゃ。わしゃここに…
ウイスキー工場を建てたらええ思いよる。
エリー） 私も行ってみたい。日本のスコットランドに！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
政春） う～ん！
エリー） フフフッ。いよいよ、マッサンの
ウイスキー造りが、始まるね！
政春） アハハ…。ほうじゃ。
鴨居商店で始まる、
ウイスキー造りに向け、
夢膨らむマッサンとエリー。
エリー） （北海道の写真を見て） きれい。
政春） ええじゃろう。
そして初出勤。
エリーはマッサンのために、
新しい背広をあつらえました。
エリー） すごくいいよ。似合う！
政春） ありがとう。
じゃけど、わしば～っかり新しい服あつらえとる。
わしゃエリーに何かプレゼントしたいのう。
エリー） プレゼント？
政春） ああ。わしが入社できた祝いに、
エリーも何でも欲しいもん言うてくれ。
エリー） そうね。う～ん…宝石。
政春） 宝石。
エリー） うん。ダイヤモンド。
政春） ダイヤモンド。
エリー） …と、ルビー。
政春） ルビー。
エリー） …と、オパール。
政春） オパール。
エリー） …と、イブニングガウン。
政春） これ全部か？
エリー） うそ！ 何もいらない。マッサンの夢が叶う。
それだけで十分。
政春） エリー…。エリーは泣かせるのう。じゃけど、
ほんまに遠慮のう言うてくれ。わしが鴨居商店
に入れたんは、エリーのおかげなんじゃし。
わしゃこれまで苦労かけっ放しじゃったけん。
エリー） うん…。もし、プレゼントしてくれるなら…。
政春） してくれるなら？
エリー） 一つだけ。
政春） 何ね？
エリー） 当てて。
政春） う～ん、ほうじゃのう…。ガスか！
エリー） …ガス？
政春） キッチンにガス引いて、料理すりゃ、火ぃおこ
す手間ものうなるし、火加減調節するのも楽に
なるど。
エリー） …ガス、素敵。でも、贅沢でしょ？
政春） ほうじゃ！ ミシンもそろえるか？
エリー） それも素敵。でも、マッサン…。
政春） そうすりゃのう、エリーの好きな洋服も、
な～んぼでもあつらえる事もできる。
金はなんぼかかっても構わんど！
エリー） ありがとう。でも、マッサン…。
政春） あっ、ほうじゃ、こんな時間じゃ！
遅刻じゃ、遅刻。
エリー） あっ、マッサン、これは、いいの？
政春） いや、それはまだ出来とらん。
エリー） 本当？
政春） なら、行ってくるけん。
エリー） 行って帰り！
政春） はい！
エリー） はあ～。う～！ マッサン、人の話、
ちゃんと聞かない。悪い癖！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ｷｬｻﾘﾝ） マッサンらしいわ。
プレゼント何が欲しいて、ガスて！
梅子） ええやん。ガスあったらどんなけ楽か。
桃子） それにミシンやろ？ ええやないの。
ｷｬｻﾘﾝ） これやから日本の夫婦はあかんねん。
日本男児は考えが乏しい！ おなごにはち
ょっと家事が楽になるもん与えといたらええ
と思うとる。ワイフは女中じゃないっちゅうね
ん！ なあ？
（猫の鳴き声）
梅子） うちやったら、大皿いっぱいの、
おまんじゅうやな～。
ｷｬｻﾘﾝ） あんた食べる事ばっかりかいな。
もっとロマンチックな事言うて。
愛がないねん。愛が！ なあ？ エリー。
エリー） そう。そうね。愛…ラブは一番大事。
桃子） …で、エリーちゃんの、
ほんまに欲しいもんは何？
梅子） 何？ ん？
エリー） そう…ラブだけど…。
桃子） ラブだけど？
エリー） 秘密。
ｷｬｻﾘﾝ） 何やもったいぶって。
梅子） あっ、けどガス引くんやったら、
へっついさんは邪魔やな。
ｷｬｻﾘﾝ） いっそのこと…改築したらええねん。
エリー） カイチク？ カイチク…？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
欣次郎） 今日から正式に、
うちの従業員になる…鶴山や。
政春） 亀山です！
欣次郎） フフフ…。
政春） ハハハッ…。
欣次郎） 亀山政春、通称マッサンや。
政春） よろしくお願いします。
（拍手）
欣次郎） マッサンには、新事業である、ウイスキー
部門を、全面的に取り仕切ってもらう。ゆくゆ
くは、ウイスキー工場が出来たら、工場長に
就任してもらうつもりや。よう分かってると思
うけど、ウイスキー事業には、この鴨居商店
の未来が懸かってる。みんなで一丸となって、
この国に新しい洋酒の時代を、世界中に日
本人の底力を、思い知らせたろやないか！
一同） はい！
政春） よろしくお願いします！
（拍手）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ｷｬｻﾘﾝ） ガスを引くだけやのうて、キッチンは土間
からシャ～ッと板張りにして、もう何もかも
思いっきり欧米風に！
桃子） うわ～！
梅子） おお～！
ｷｬｻﾘﾝ） リビングルームには、暖炉や！
…で、ルームライトは、キラキラッとシャンデ
リア！ なっ、家具も欧米から取り寄せて、ソ
ファーも置いて！
梅子） ええやん、ええやん！
エリー） だけど、たくさんお金かかるでしょ？
桃子） 今までエリーちゃんが職なしのマッサン
どれほど支えてきたか。
梅子） それぐらい贅沢したかて罰は当たらん。
ｷｬｻﾘﾝ） よっしゃ、任しとき。
その改築、うちが仕切ったるわ！
梅子） ほな、うちの信ちゃんに、やらしたって。
エリー） 信ちゃんに？
梅子） うんうん！ 大酒飲みのドアホやけどな、
大工の腕は、確かやで～！
桃子） そういえばこないだも、帝塚山に、
洋館建てた言うてたもんね。
エリー） そうなの？ でも、もしかしたら…。
梅子） ああ見えて、西洋建築も、できんねん！
ｷｬｻﾘﾝ） ほな、決まりやな！
早速信ちゃんに相談しよう！
エリー） …ちょっと待って。
マッサンにも、相談してみないと…。
ｷｬｻﾘﾝ） マッサンはええねんて！ エリーが好き勝手
やったかてもうそんな罰なんか当たるかいな！
桃子） いやでも、借家勝手に触ったらあかんやろ？
ｷｬｻﾘﾝ） かめへんよ。家主さんにはうちから
話つけといたるわ！ ハハハッ…。
梅子・桃子） おお～！
ｷｬｻﾘﾝ） まあ忙しくなってくるで、これ。
えらいこと、えらいこと…。
桃子） 楽しみ～！
（笑い声）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
欣次郎） 読ませてもろた。よう出来てるがな～。
政春） ありがとうございます！
欣次郎） いや、このとおり一つずつ形にしてったら、
間違いなくウイスキーが造れると、はっきり
分かった。
政春） あとは工場の場所と、職人の確保です。
欣次郎） 工場長の意見は？
政春） わしゃこの北海道が一番ええ思うとります！
欣次郎） ほう！
政春） 適度な寒冷地で、乾燥し過ぎず、水質にも恵
まれ、原料であるピートが取れる。本場スコット
ランドでも、こういった条件を欠いた土地では、
ウイスキー造りはできません。霧がある場所が
最高で、逆に、空気が乾燥しとる場所は、不向
きです。
欣次郎） なるほど。その点、北海道は？
政春） 空気、水、気温、湿度、そして原料。
この全てを兼ね備えとる場所は、北海道だけ。
それも、湿度の高い、日本海沿岸が最大じゃ
思われます。
欣次郎） 分かった。
政春） よし！
欣次郎） 職人に関してはどう考えてる？
政春） はい。できるだけ、
酒造りの現場を経験した人がええ思うとります。
欣次郎） なるほど。
政春） 酒の味が分かる舌、匂いを嗅ぎ分けられる
鼻は、一朝一夕にはできません。
欣次郎） ほな、こいつや！思う職人に
心当たりあるんか？
政春） できれば、
広島から蔵人を連れてきたいと思うとります。
欣次郎） やってみなはれ！
実家は、造り酒屋やったな？
政春） はい。
欣次郎） 日本で初めてのウイスキー造りに懸けて
みたいいう、骨のある職人がおったら、是非
わてにも、会わせてくれ。
政春） はい！
欣次郎） それとは別に、新しい工場で働いてもらう、
新たな人材を、募集してみよう思とる。こっち
で進めてええか？ もちろん、工場長にも立ち
会うてもらう。
政春） 分かりました！
欣次郎） いや～とにかく、
何でも思いどおりにやってみ！
政春） ありがとうございます！ へじゃわしゃ一遍、
北海道に下見に行ってきてもええですか？
気候や地形が、理屈の上じゃ最適でも、
ちゃんとこの目で確かめてみん事にゃ…。
欣次郎） 北海道には行かんでええ。
政春） えっ？
欣次郎） 北海道やないな。
政春） いや…ええっ！？
欣次郎） 北海道の日本海側言うたな。
政春） はい。
欣次郎） そっから商品を、輸送する手段は？
政春） 鉄道と船です。
欣次郎） 大阪まで何日かかる？
政春） 約６日か７日。
欣次郎） 輸送の費用は？
政春） 報告書の、８ページに記載しとります。
欣次郎） いや、それは高い！
船便は、天候にも左右されるしな。
政春） いや、じゃけど…。
欣次郎） わてらが往復する分も含めて、時間も費用
もかかり過ぎる。他にも、スコットランドみたい
な土地がないとは限らん。
大阪の近くで、探してみてくれ。
政春） 大阪の近く！？
欣次郎） わてがお前を誘ったんは、どんな状況でも
最高のウイスキーを造ってくれると信じたか
らや。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
エリー） やっぱり、ガスはいいな～。改築も！
♪花が咲く 花が咲く どこに咲く
あら？ エリーはすっかり改築計画に
夢が膨らんでいるようです。
笑顔の花が咲く、素敵な家を造ってね。エリー。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ダイヤモンド、ルビー、オパール、イブニングドレス。
まあ、着ていくところがないだろうから、冗談なのは
分かるけど～。貧乏性な私には、小さな石しか思い
浮かばないので、ガスやミシンの方が高いんじゃな
いの？って思ってしまったよ。てか、エリーが想定し
た宝石の大きさは一体どれほどのもの？ どれぐら
いのお値段？ その後出て来た家の改築も、そっち
のほうがよっぽど高くつくと思うのだけれど～。もし
かして、それよりも高い宝石のお値段を想定してる
のか？ 宝石も服もピンキリだからね～。恐ろしや。
ラブが欲しい。ラブが一番というエリーが、欲しいも
のとは…。ベタな答えしか思いつかないけれど…。
さて、エリーが本当に欲しいものはな～んでしょ？
マッサンもね、自分のやりたい事まっしぐらすぎて、
商売のことは全く考えない人だよね～相変わらず。
何を今さらな、マッサンの「人の話を聞かない悪い
癖」を愚痴るエリーに、もう同情できなくなっている
自分がいて…。ガスとミシンって…カーネーション
とごちそうさんへのオマージュのつもりでしょうか？
マッサンだけでなくエリーをも落とした脚本に腹が
立って仕方がないのだけれど…。ｷｬｻﾘﾝのキャラ
も、まさかこんなに厚かましいおばちゃんキャラに
なるとは思ってなかったよ…。ホント、家主さんが
お気の毒…。改築とか言う前に、散々今まで迷惑
かけた家主さまに、お詫びのプレゼントぐらいしろ
って話ですよ！ ガスがないぐらい我慢しろよっ！
お金の使い方がね…おかしいよ、この夫婦は…。
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