羽海野チカのラムネ (完全版) | 日々のダダ漏れ

日々のダダ漏れ

日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

グレーテルのかまど (アンコール放送)
羽海野チカのラムネ
(完全版)




漫画・「ハチミツとクローバー」。美大生たちの恋や
葛藤藤などを描いた、青春群像。テレビドラマや映
にもなり、「ハチクロ」と呼ばれて、幅広い世代か
支持されました。作者は、羽海野チカ。



羽海野さんの最新作が、「3月のライオン」です。
将棋指しのプロとして生きる、男子高校生の物語。
孤独な17歳のプロ棋士が、悩みを抱えながらも、
まわりの人との人間関係を築いていく、成長物語。
2011年の、マンガ大賞受賞作品です。

その名場面のひとつ。主人公に初めて友達が
出来るシーンに登場するのが、ラムネ。

このラムネには、作者・羽海野チカさんの幼い日の
記憶と、深い深い想いがギッシリつまっていました。

**********

漫画の中で、
ラムネはこんな風に描かれています。



ラムネは 甘くて
口に入れたら ホロホロと崩れて
胸いっぱいに 溶けていった

主人公は、中学生で将棋のプロになる程の、卓越
した才能を持つ、桐山零。しかし、実生活の彼は、
幼い頃、事故で家族を亡くし、友達からも苛められ、
引き取られた家でも冷たくされ、次第に心を閉ざす
ようになります。それでも、なんとか人間関係を築
こうと、もがく姿を見かねた担任教師が、ある日、
放課後の理科クラブに誘います。
ラムネはそこで、実験のように作られるのです。

ラムネって 何で出来てるか 知ってますか?
え? あ いえ
ブドウ糖と でんぷんです
まずは 細かくくだいた ブドウ糖を
よくふるいにかけます
ビーカーに 片栗粉と ・・・水と
――で ブドウ糖に 少しずつ混ぜて・・・
もんでもんで ギュッっとして!!
ハイ 出来上がり
え!?
もう?


**********

羽海野さん、どうしてラムネだったんですか?



羽海野) はじめまして、羽海野チカです。なんか、
     零くんがお友達ができるシーンなんです
     けれども、みんなで何か一緒に食べると、
     こう親しい感じが出るかなあと思って、さら
     に一緒に作ったものだったらもっと、楽し
     い感じが出るかなあと思いました。


友達できるきっかけにと、ラムネを選んだのです。
しかも、手作りのラムネを。



**********

作っていくうちに、零は理科クラブのメンバーと、
打ち解けていきます。

おお ホントだ ラムネだ スゴイ!!! 
ラムネって こんな風にできてるんだ!!!
へーっ! へーっ! ほー

僕 やってみていいですか?
どうぞ どうぞ


羽海野) あの、零くんがあのとき感じたのは、大
     事だ
った家族が、いきなりみんないなくな
     ってし
まうとこから始まってるので、友達
     もできた
けど、ラムネみたいに、こう、ぱぁ
     ーって溶け
ちゃうんじゃないかって。でも、
     淡くてうれし
い気持ちだったと、思うんで
     すね。友達がで
きた、みんなと笑って、
     しゃべった・・・

そして、零は、あることに気がつきます。

オレ 部活やってる
笑って しゃべってる
学校で・・・

さあ 食べてみましょう 桐山君

ラムネは 甘くて
口に入れたら ホロホロと崩れて

うっかりすると 目から何か出そうだったけど
それは 死ぬ気でふんばった



桐山零のラムネ。それは、はかなく崩れる、でも胸
いっぱいにやさしさが広がる、そんなお菓子でした。



**********

羽海野チカさんの漫画には、料理や洋服を
手作りするシーンが、たくさん登場します。



羽海野さんがこだわる、手作り。
その原点は、子供時代にありました。

東京足立区、家内制手工業の職人の多い町
に生まれました。両親は鞄を作る職人でした。





朝9時から夜11時まで、ミシンに向かいっぱなしの
毎日。子供の相手をする暇などありませんでした。



羽海野さんは、両親の邪魔をしてはいけないと、
子供心にも感じていたといいます。

一人で過ごすうちに、ある本に出会います。それ
は、子供向けに書かれた、お菓子作りの本でした。

羽海野) 隣の部屋でずーっと両親が鞄を作って
     るので、何か作ってる人がいると、私も作
     りたくなるんですね。で、キッチンが隣の
     部屋だったので、向こうで両親が、ミシン
     かけてて、こっちで私が、こう激しく泡立て
     をしてるとか、何かそうすると、一緒に作っ
     てるなぁみたいな気持ちになりました。


魚焼きグリルが、オーブン代わり。シュークリーム
も、
クッキーも、ケーキも、何でも作りました。
でも、魚焼きグリルでは、失敗することがほとんど。

羽海野) でもあの、本物食べたことないので、
     当時、
わからなくて、家族も食べたことが
     ないので、美味しいからこんなものじゃな
     いかぁと何か首捻りながら、一緒に私の
     作ったものを食べて、お茶飲んで、美味
     しいねぇとかいう話をするのがとっても楽
     しかったです。


手作りのお菓子をわかちあうことで生まれる、
かけ
がえのない時間。あのラムネのシーンには、
羽海野さんの大切な記憶が、刻まれていました。

**********



羽海野グマ) はじめまして。
ヘンゼル) ビックリしたぁ。
羽海野グマ) ちょうど卒業の頃なので、桜の形
        に作ってお友達と一緒に食べてほ
        しいなあと思います。
ヘンゼル) はぁあ。桜のラムネ。
羽海野グマ) はい。
ヘンゼル) さすが羽海野さん。
羽海野グマ) うふふ。
ヘンゼル) グッときました。




**********



創業以来40年間ラムネひとすじ。ラムネ作りを追
及し続け、独自の技術を幾つも生みだしてきたそ
うです。企業秘密ってことなんですが、ひとつだけ
見せてもらっちゃいました。



これがこの乾燥室。ガスでなく、電気で制御する
ことで、独特の食感を生み出すことができたん
ですって。他のラムネと、どう違うんでしょう?

ラムネ工場代表・平口治さん(談) 
口入れたときは、堅いんですけども、その外っ
かわが溶けた状態になりますと、ふわっと、口
の中で溶けるのが特徴なんです。

独自の技術が生み出した、絶妙な食感。どんな
味わいなのかしら。ヘンゼル、食べてみて。



ヘンゼル) 堅い。うん、なんか噛み応えがある。
      外が堅いじゃん。でも中はこう、なんち
      ゅうの、上品に溶けてゆく感じかなあ。
      美味しい!!


**********



漫画に出てくる方法で作った、白くてシンプルな
ラムネと、こちらはヘンゼルのオリジナル、メロ
ン味。お隣はオレンジ味のラムネです。



そして、桜と楓のラムネ。
ほんのりピンクと若葉色。春ですねえ。

**********

主人公・零は、ラムネを作って、その場で食べた
だけではありませんでした。いつも自分を気づか
ってくれる、近所の姉妹のもとに、ラムネを持っ
ていきます。

残ったラムネは
ノートの切れ端に 包んでカバンに入れた
ひなちゃんとモモちゃんにあげたら 
喜ぶかもしれないと思ったから

会いに行こう
あの橋を渡って
―― そして
ラムネの作り方を 部活の話を
野口先輩の話を 先生の話を
―― 聞いてもらいたいと 思ったんだ


自分が感じた喜びを、人にも分けてあげたい。
孤独だった零にとって、ラムネは心をときほ
してくれた、大切なお菓子でした。



**********

羽海野さんにとっても、
ラムネは、幸せの象徴だと言います。

羽海野) こう、やっぱり、毎日、暮らしてると、い
     いことがあったとしても、ずーっと続くもの
     ではないので、わあって幸せって思って、
     またそれが消えて、また、わあって幸せっ
     て思って。ふふふ。だから、無くなったら
     また作って食べましょうみたいな、それが
     ラムネかしらと思っています。今度は、ひ
     なちゃんとかモモちゃんと一緒に作って、
     一緒にみんなで食べてっていうシーンが
     いつか漫画にかけたらいいなあと、思う
     ワンシーンです。何か、夢広がりますね。




羽海野チカのラムネ。
それは、生まれては消える幸せ。



でも、
何度でも作り出すことができるもの。
つまり、人生そのものでした。



**********

実は、この「羽海野チカのラムネ」が、グレーテル
のかまどを見はじめるきっかけとなったのでした。
その初回の記事は、かなりザックリとした記事だ
ったので、今回、羽海野さんの言葉をちゃんと残
しておきたくて、完全版として書き直してみました。

羽海野さんの漫画 「ハチミツとクローバー」 が大
好きで、もちろん、今回出てきた「3月のライオン」
も、何度も読み返しては号泣してしまうという、い
つも深く心が揺さぶられる、心の奥の大事な場所
に、そっとしまっておきたい宝物のような漫画。羽
海野チカさんは、私にとって特別な存在なのです。
読んだことがない方には、ぜひ、騙されたと思っ
て(騙しませんが)、一度読んでみてほしいです。

幸せな時間はずーっと続かないかもしれないけ
れど、口の中で溶けてしまう幸せの時間は短い
かもしれないけれど、また、作ればいい。消えて
も、また何度でも、いろんな形の、いろんな味の
ラムネを作って、ひとりでも、誰かと一緒にでも、
幸せな時間を作り出せばいい。同じではなくても、
違うからこそもっと楽しい時間が待っているかも
しれないし。そんな風に考えると、なんだかとて
もワクワクしてくるし。何かを一緒に作ったり、美
味しいものを一緒にわかちあったり。同じものを
見て、同じものを食べて、それを一緒に語り合え
たら、幸せだなあって。誰かがそうしてくれること
を待たなくても、自分がそうすればいいんだとい
うこと。単純だけど、つい、忘れてしまいそうにな
って。子供の頃大好きだったラムネも、いつのま
にか、食べなくなっていたことに気づいて、あの、
口の中にほうりこんで味わった幸せな時間が懐
かしく。今度駄菓子屋に寄ったら、きっと買って
しまう思い出の味は・・・ストロベリーミルクの味。

☆番組中に登場したラムネの予約は、「ハガキ」
 または「事前予約会場」のみ。お店のHPは↓
●イコマ製菓本舗


「グレーテルのかまど」関連ブログはこちら↓