
豚袋でございます。
このところファン限定記事含め訃報からみの記事ばっかり書いているような気がします。あまりいい年末テンションではありませんね。何か楽しい記事を書こうかと思っていたところ、また訃報に出くわしてしまいました。12月18日にツィッターを何となく見ていたところ、「キャプテン・ビーフハートが亡くなった」の文字が…ついその3日くらい前に久々に聴いていて、彼について「豚袋が牛心隊長を聴くなんてオツじゃね?」などとふざけて呟いたりしていたばかりでしたのでとても驚きました。ブログ記事を誰かアップしていないかと探しましたが、やっぱりマイナーなミュージシャンなのか、亡くなったニュース自体が知られていないのかほとんど記事にされておりません。という訳で、いずれ記事にしようとは思っておりましたし、今回は追悼の意も込めましてロック史に残る異形盤「トラウト・マスク・レプリカ」を取り上げようと思った次第です。
キャプテン・ビーフハートに関しては自分は特にファンというわけではありません。このアルバムも2000年を過ぎてからようやく聴いた程度です。「ロックの名盤」のような特集や本には必ずと言っていいほど名前のあがるこのアルバム。何せジャケットといったらショッキングピンクの背景とあいまって、鱒マスクの異形感満載でまず忘れられないインパクト。おのずと歴史の温故知新よろしく購入衝動にかられました。内容に関してはジャケが象徴するように、これまた異形の音楽としかいいようのない驚きがありました。
Captain Beefheart & His Magic Band - Frownland
Captain Beefheart & His Magic Band - Frownland
最初の曲からまず違和感を感じるはずです。まるでスタジオの練習風景にありがちな、各自パートの楽器かきならしそのままのような演奏。ギターもベースもドラムスも他のパートをまるで無視したかのように独立したリズムで、キーで音を掻きならす。そこに被さるまったく演奏とあっていない、トム・ウェイツもビックリのスーパーダミ声ブルージーボーカル。音楽と呼ぶには、あまりに調和を無視した無秩序な音塊。アヴァンギャルドの名の下であればこんなテキトーな演奏をレコードにしていいものなのか、疑問を投げつけたくなるような代物。それが最初の印象でした。
バックボーンとしてはまさに「ブルース」、しかして演奏は即興性の高い「フリー・ジャズ」。そのハイブリッドであるかのような混沌とした音。体が欲するグルーブ感と対極にあるような、変拍子と分断されたむきだしの音はポップ・グループが出てくる10年も前にここにあったのか、と言えば褒めすぎで、何となく真剣さというかひたむきさがないような妙な脱力感。そのローファイ感は4曲目まで続きます。
Captain Beefheart & His Magic Band - Ella Guru
この曲でやっと、変拍子ながらも一定のまとまったリズムの中で展開する曲を聴いた気がする。しかしながらボーカルは「歌う」というより「語る」ようなラップ要素が強く、何ともいえない正に「異形性」を感じ音に身をゆだねる事ができません。と思ったらまた混沌としたごちゃごちゃ感の世界へ。本当に不思議な感触の音楽です。
最初このアルバムを通して聴くのはかなり辛いと思います。何といってもこんな感じの曲が28曲も続くという恐ろしさ。どちらかというと「踊れるグルーブ感」が好きな自分にとっては、数曲は理性で納得して感心しながら聴くことはできても28曲はほぼ拷問に近いものがあったように思います。しばらく放置しておりましたが何となくまた聴きたくなり、そして通してやっと聴けるようになり、何回か聴くと楽しくなってくるというなんと屈折した楽しみ方なのか非常に不思議な魅力のあるアルバムであることに気がつきました。
不思議なのは即興演奏でリズムも各々が勝手にやっている割に、ちゃんとエンディングがぴったり合うという事です。よーく聴いていると拍子がぴったり合う瞬間も曲の途中途中であり、それが妙に気持ち良かったりします。これは何故だろうと思って調べたら、ポリリズムという民族音楽等で使われる手法で、各楽器パートが違う拍子で演奏すると周期的に拍子がぴったり合わさったり離れたりを繰り返すため、独特のリズム感が生まれるという現象のようです。牛心隊長は、このアルバムをポリリズムと不協和音をテーマとしていたらしいです。なるほど。
このアルバムの制作方法も型破りであったようです。作曲はビーフハートがたった8時間半で全曲を作曲。各パートの演奏をひたすら完璧に習熟させるため、ミュージシャンを集めて9ヶ月間もの間拷問のような特訓合宿を行ったらしいです。しかしてレコーディングはほとんど一発どりの、ミックスを含めてもたったの22時間で完成という、即興的であることに偏執狂的とも思える執念の美学の結実であったようです。だから即興的に見えながら散漫で冗長にならない芸術作品となったのでしょう。
キャプテン・ビーフハートはすでに1982年には音楽界から離れ、前衛画家として活動していたようですが、彼のこのアルバムによる功績と影響は計り知れないものがあるのでしょう。パンクやポスト・パンクへの影響は特に色濃く、ビーフハートが作り出したエッセンスを様々な作品で感じる事があるはずです。ポリリズム手法は後にイエスやクリムゾンも後塵を拝しております。
最後に牛心隊長の在りし日のライブという珍しい動画がありましたので、こちらを見ながらご冥福をお祈りしたいと思います。
R.I.P…
Captain Beefheart - Live In Belgium 1969
(She's Too Much For My Mirror & Human Gets Me Blues)

