豚袋でございます。
またちょっと間があいてしまいました。お仕事が少しだけ忙しかったので、一日中パソコンと向き合う仕事のせいか家でブログと向き合う気力がありませんでした。土日は久々にゆっくりできましたので、気力も戻った感じです。しかしもう月11月も半ばなのですねぇ、今年ももうひと月半。早い。
ところで金曜日の夜、実はツイッターの方で知り合ったお仲間の方々とのリアル飲み会に参加してきました。オフ会って自分は初めてでしたが、初めて会っても全く違和感がないのが不思議。ネットでのコミュニケーションをしているから話題にも事欠かないですし、非常に楽しく過ごす事ができました。やはり共通の言語として音楽があることの幸せってあるんだなぁという事と、同じような音楽が好きだと、経験してきた映画とか本とかそうした嗜好も共通点があるんだなぁという事を感じ、妙に納得してしまいました。またぜひ行きたいと思います。
さて、ブログ本編の記事ですが、今回は10ccの「オリジナル・サウンドトラック」を取り上げたいと思います。10ccの代名詞ともなっているこの曲が入っている盤として有名ですね。
I'm Not In Love - 10cc
全英No.1、全米No.2に輝いたこの曲を知らない人の方が少ないのではないかと思う名曲です。美しいメロディとどことなく漂う寂寥感。しかしバックで流れるコーラスの分厚さと女性のささやきに代表される随所に見られるコラージュやサウンドエフェクトの圧倒的な存在感。実験性を大いに感じさせながらもマニアックに収める事無く「極上ポップ」に仕上げてしまったその力量。全てが完璧としか言いようのない名曲だと思います。
あまりにこの曲が突出してしまったために、このアルバム全体の事に触れられる機会が少ないのが唯一残念な事です。しかしながら、このアルバムは本来コンセプト・アルバムで、アルバム全体としてのストーリーと流れで完成する世界観を持つ名盤です。タイトルが示すように映画のサントラなのだけれども、実際には存在しない映画を想定してサントラ風に仕上げた「架空の映画のサウンドトラック」というまた捻って面倒臭いコンセプトであるのも、英国人らしい偏屈さが出ていて楽しめるのではないかと思います。
アルバムの冒頭からいきなりオペラ風ミュージカル的な導入で驚かされます。
Une Nuit A Paris (One Night In Paris) - 10cc
「パリの一夜」と題された映画の冒頭という感じがします。わざとフランス語でタイトルを付けるあたりがまた心憎い。といってもいきなり9分近くにものぼる曲で、しかも一曲なのに3部構成。まるでプログレみたい、と思わせるところも既に計算済みなのでしょうか。一聴していただければわかりますが、これは明らかにクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」との共通点を感じると思います。ちょうどリリースされた年も一緒ですが10ccのリリースが半年ほど早かった事を考えると、クイーンが影響を受けたのは間違いないと思われます。当時の音としてはかなり異質であったことは言うまでもないでしょう。
この曲以降、前出の「アイム・ノット・イン・ラブ」を経て、「ゆすり」「二度目の最後の晩餐」「ブラン・ニュー・デイ」「フライング・ジャンク」とまるで映画のシーン構成のようなタイトルの曲が続きます。そのどれもが機知とウィットに富んだ感触で、コーラスワークを中心とした展開重視志向により、まさにロック・ミュージカルを見ているかのような錯覚を催させます。そしてラストの「我が愛のフィルム」という曲で、映画は幕を閉じるという構成になっています。ただ単なるストーリー仕立てであるだけでなく、言葉の遊びや英国的な偏屈と斜視的視点が全体を飽きさせないスパイスとなっているようでもあります。
このアルバムの優れているところはやはり、「メロディ」と「サウンドメイキング」の素晴らしさにつきるのではないでしょうか。10ccはもともとスタジオミュージシャンの出自であるメンバーだけに力量があり、またエリック・スチュワート とグラハム・グールドマン による卓越したメロディーメーカーとしての才能と、ケヴィン・ゴドレイ とロル・クレーム による実験的かつ先進先駆的なサウンドメーカーとしての才能が集まったバンドでした。メロディとサウンド、そのふたつが見事に調和し完璧なまでに昇華されたのが本作であり、その象徴が「アイム・ノット・イン・ラブ」なのでしょう。
あの分厚いコーラスが現在の技術を持ってしても作られないニュアンスを持っているのは、シンセによる合成でつくられたものでなく、肉声を合成するというアナログの限界にまでのぼる偏執狂的多重録音で実現したがゆえの産物であるからです。またシンプルながらも美しいメロディであったからこそ、そのコーラスを生かす事ができたのも事実。しかも普遍的な極上ポップ!80年代のシンセポップで流行った無機音とソウルフルな有機音ボーカルの掛け合わせはそれに比べると何と安易な事かと思ってしまいます。
この後のアルバムでゴドレイ&クレームは袂を分かち、10ccはサウンドメイキングの才能を失いメロディ勝負で続けていく訳ですが、残念ながら片肺飛行という印象はまぬがれずその後はシュリンクして行ったように思います。このアルバムはそうした意味でも10ccの一番素晴らしい才能が調和し、発揮できた最高で最後のアルバムだったのでしょう。
仲が良かったころのスタジオライブで「人生は野菜スープ」を聴きながら本日は締めたいと思います。
それでは、また。
Life Is A Minestrone