Chord Successionはシェーンベルクの和声法で述べられているので有名な用語で、シェーンベルクはChord progressionの対義語として使っています。
和声法 シェーンベルク
古典和声の解説本ではなく、シェーンベルクの和声に対する考えが多数述べられているので中級者の方でも十分に楽しめます。むしろ赤本や黄本の芸大和声を学ばれている段階の方ではきついかもしれません。
この本では興味深い後期ロマン派についての和声法が色々と述べられておりますが、Chord Successionとは一言でいうと似たような機能の和音を連結することです。
〇Chord progression
まずChord progressionについておさらいします。Chord progressionとは一般のポピュラーでも用いられる用語で普通のコード進行をそう呼んでいる本もあります。例えば下のようなものは典型的です。
典型的なChord progressionのTSDTカデンツ
和音の機能がトニック→サブドミナント→ドミナントとprogression(進歩・発展・前進)していきます。私たちの知る一般的な進行でいわゆる古典和声はこれを土台にしています。コードの機能がまさしく進歩・発展・前進していく(変化する)わけでポピュラーも同じです。
〇Chord Succession
Successionとは連続、継続、相続などの意味でChord Successionとは例えば下記のようなものです。
全部サブドミナント
全部トニック
上の2つの例はTSDTのChord progressionのようにコードの機能が発展せずに最初のトニックやサブドミナントを連続、継承・相続しています。コードの機能が発展していかないのがポイントですが、シェーンベルクは(おそらくは古典和声へのアンチテーゼとして)Ⅴ度のドミナントを特別扱いしていて下のTSTSという進行でもChord Successionと呼んでいたりします
Ⅴ度コードが出てこない
ⅠとⅡ7はⅤ度のドミナントとへ向かう半ば安定した和音とシェーンベルクは考えていたようで、なんとなく彼の言いたいことはわかります。
実例を見てみましょう。
シューベルト歌曲集「白鳥の歌」より《海辺にて》
シューベルトの例ではⅡーⅠが反復してドミナントが出てこないまま歌いだしが始まります。
ワーグナー ローエングリン序曲
ワーグナーの例ではⅠーⅥmが反復してトニック機能のまま和音機能が全く発展していません。
古典時代のベートーヴェンにも同じ機能を長く続ける例がないわけではありません。ただ後期ロマン派の作曲家たちはこうった手法を積極的に用いており、個人的には近代フランスのドビュッシーやラヴェルは実に効果的に自分の和声に組み込んで、Chord Successionを古典和声へのアンチテーゼとして活用しているが興味深いです。
ラヴェル 水の戯れ 43小節目
ラヴェルの例ではKEY-EでⅦ7(Ⅳ7の裏コード)とⅡ7がひたすら連続する箇所がありますが、これはⅣーⅡの繰り返しなので典型的なChord Successionになります。
コードは変わるのに機能は変わらないというのがポイントです。
言い出したら切りがないですが、前回紹介した牧神のアナリーゼ本でドビュッシーっぽいフレーズを作る時に紹介した譜例も同じChord Successionです。
MP3はこちら
根音の動きはⅠーⅠーⅠーⅥなので結局はトニックだけで回していることになります。最近ある生徒さんにドビュッシーの海のアナリーゼを行ったのですが、海もChord Successionだらけでこのことを理解していないとドビュッシーらしいフレーズを作るのは難しいと言えます。
ドビュッシーと関係の深いロシアの国民楽派にもChord Successionは多数見られます(ムソルグスキーなど)。
後期ロマンから近代以降の和声法では非常に重要な概念となります。
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