昨日、会社から帰って来て、ごはんを作る気力がないとだんなさんに訴えたら、彼が夕飯を作ってくれた。
「作るけどさ、何作ればいいのぉ?」
心優しい彼は私に指示を求めたが、私にはメニューを考える元気もない。
「なんでもいい。食材、結構いろいろあるから、なんでもできるよ」
たまにこういう無気力な日がくるんです。働く女って、疲れる。ふぅ。みたいな日って、ありますでしょ。
私がウトウトうたた寝している間に、いいにおいが漂ってきた。どうやら彼は、ルクルーゼのオシャレな鍋で何かを煮込んでいるようだ。果たして、彼が自分で考えたメニューは何だったのか。湯気の上るキッチンを遠目に見ながら考えた。
「わーい、何作ってくれたの?」
彼がダイニングテーブルに並べた器には、食べる前からやさしい味を髣髴させる野菜のスープ。いいね、いいね。あたし、こういうのを求めていたよ。
が、スープの中にぷかぷか浮いてる異色な存在は一体だあれ?
一人だけ仲間はずれの顔が見える。
コンソメ味のスープのなかで異彩を放つその正体は??
…輪切りにされたちくわだよ。
しかも、あなた、隠し味にちょっぴり七味も入れたでしょ~
斬新だ。いつも彼の料理には驚かされる。私だったら、鶏肉かベーコンあたりを選ぶところ、彼はちくわを投入していた。温かいスープは愛情たっぷり、ちくわもコンソメになじんでいたけど、気になったから聞いてみた。
「なんで、ちくわ?鶏肉もあったじゃん」
せっかく作ってくれた人に意見して、すみません。
「いや、オレも鶏肉だと思ったんだよ。でも、鶏肉切るの面倒だったから」
確かにね。ちくわ切るほうが簡単だわね。
和洋折衷、固定観念にとらわれない男の料理を見習いたいと思いつつ、これから私がつくる今宵のごはんは、ありきたりなまとまりのある料理になるだろう。昨日、出番のなかった鶏肉を使ってね。よーし、やるぞ~。一日ごはん当番代わってもらえば、働く女も料理のやる気がでるってもんだ。