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👞 1960年代のトリッカーズのビスポークを入手する
僕の仕事は一般的なサラリーマンのように、カレンダーどおりに休みがとれない
したがって、あまり連休とは関係ないスケジュールで動いているのだが、今回の連休は、有給消化と他の同僚との兼ね合いから、おそろしく久し振りに、世間一般と同じ休みになった
で、休みの日は当然のように古着屋を回るつもりだが、先週、先々週の休みに高円寺、町田、下北沢、渋谷、原宿……と、ひととおり回ってしまったので、さすがにそんなにすぐ商品が入るわけもないから、京王沿線のリサイクルショップ巡りをした
しかし困るのは、例の騒ぎのおかげで軒並み閉店時間が切り上げになっていることで、以前なら閉店時間に合わせて合理的な巡回ルートを組めたのに、9時までには、多くの店が閉まるから大迷惑である
冷静に考えると営業時間が短くなれば、それだけ短時間に客が集中することになるのが道理だ。これはつまり、自粛しているように見せかけて、じつは反対に感染リスクを上げていることにほかならない
なのに、いまだに閉店時間を切り上げているのは、例の騒ぎに乗じて人件費を削ろうという、経営者の無能ぶりを晒しているだけなので、今すぐそんな愚策はやめるように提言したい
今日も仙川、つつじが丘と回って最後に調布の店を回ったら、夜の8時だというのに、蛍の光が流れていた。まだ小学生が塾で勉強している時間だぞファッキンシット!
そういえば渋谷川の脇にあるメゾンマルジェラの場所って、昔ピザのシェーキーズがあったよね
何を隠そう、高校に入って最初にできたガールフレンドとデートしたのが、ここにあったシェーキーズだ。しかし、挑発的な服を着て来た彼女のバストが気になって、あんまり味を覚えていない
という、くだらない話はともかく……
ジョージクレバリーのビスポークのことだ
購入したジョージクレバリーのヴィンテージのビスポーク靴は、パッと見、革はカサカサに近いぐらい乾燥していて、さらに欧米から輸入した古靴にありがちなワックスベタ塗り
――という、かなり酷いコンディションであったが、レクソルで汚れを落としたあと、グリセリンと馬油などを入れてしばらくブラッシングすると、カサカサだった革の表面にかなり潤いが戻ってきた
表面が落ち着いたら、今度はコロニルの1909シュプリームを塗りこんで、さらに布にとったシュプリームで、マッサージするように全体を磨くと、古いワックスやクリームがどんどん落ちる
拭いていた布には、バーガンディーカラーの古いワックスの汚れが、べっとりついていた。イギリス人、どんだけワックス塗ってんだよ! と、言いたくなる有り様だ
しかし、コロニル1909シュプリームと、シューツリーで伸ばした相乗効果によって、もはやボロい靴ではなく“履きこまれて貫禄のある靴”にまで回復した
それにしても、さすが昔のビスポークの靴である。よほど良質の革でなければ、あの状態からここまで甦ることはないだろう
これで基礎ケアの第一段階は終了。まだ古いワックスが硬化してこぴりついている場所があるが、それは後ほどじっくり落とすとして、その前にシロウト臭い踵の補修を、いつもの修理屋に直してもらうことにした
ついでだから修理屋まで、この靴を履いていって、足にフィットしているかの最終テストをすることにした
パーフェクト! 半世紀も前に、どこの誰かも知らないイギリス紳士の足に合わせて製作されたとは思えないほど、僕の足にピッタリだ
恐ろしいことに、僕の足にもっともフィットしていると思っていたエドワード・グリーンの33ラスト8 1/2 Dのカドガンよりもピッタリ。キツいところもないし、ユルいところもない
足との一体感は、まるで手袋か靴下のようである。また、当時のビスポークの靴は、より華奢に見えるように造っていたから、薄い靴底から伝わる地面の感覚は、グッドイヤーの靴とはかけ離れており、マッケイのものに近い
そして思ったのは、この靴は置物ではないということだ。ジョージ・クレバリーは、靴単体で見るよりも、このように履いたときにいちばん美しく見えるように計算して造っていたことがよくわかる
クレバリーを修理屋に預けたあと、こいつを購入した古着屋を再び訪れ、すっかり顔馴染みになった癒し系美人の店員のお姉さんに
「入荷したのこれだけなの? ほかに似たようなサイズの靴入ってない?」
と、訊ねたところ「あっ、こんなのも入りましたよ~」
出てきたのがコイツである
バーガンディーのプレーントゥ。なんとなく寸詰まりで、この手の靴にしては、あまりコバが出ておらず、革はよさそうだけど、イマイチ冴えない靴という第一印象だった
手に取ってみると、革はよさそうだ……ではなく、とんでもなくよい。驚くほど柔らかくしなやかである
しかし、靴紐のスレたあとが赤くなっていることから、これはいわゆるガラスレザー、つまり、革の表面をガラス棒で均一にして、ウレタンなどの塗料でコーティングした安物革ではないのか?
ところが、ガラスレザーとは思えないほど深い艶がある。基礎ケアをしたところ、グリセリンも馬油も乳化性クリームも、あっさり入ったので、やはり単純なガラスレザーではなく、特殊な加工を施されているようだ
ガラスなのにクリームか入るとなると、やはり思い浮かぶのはチャーチのブックバインダーカーフだ。というより、これはガラスレザーではなくブックバインダーカーフとしか思えないが、この靴はチャーチではない
インソックには、細い字体の筆記体でトリッカーズとある。ということは、1960年代のトリッカーズだ
太い字体の筆記体の1970年代のトリッカーズなら1足持っているが、この時代のものは持っていないので、サイズや型番を見ると……
サイズやモデル名などは一切なく、2列に記された
R 1448
H 9375
と、あるだけで、ほかには何も記されていない。この表記は、ロンドンに本店がある古着屋「old hat」のホムペで見たことがある
ホムペでこれと同じ表記を持つ靴の解説を読むと、こう記されていた「世にも珍しいトリッカーズのビスポーク」だ。と
トリッカーズのビスポーク! こんな超がつくほど珍しい靴を、まさか実際に目にすることができるとは、まさに眼福といってよいだろう
値段を見ると、現代のトリッカーズの中古価格相場と似たような数字である。当然、試着してみた
ジョージクレバリーのビスポークと同じように、まるで僕の足を計測して造ったように、ジャストフィット!
ええっ、そんなバカな。1960年代のロンドンに、僕と同じかたちの足をした人間が、しかも靴をビスポークするような階級の人間が、そう何人もいたとは考えにくい
これが、ちょっとやそっとサイズが近い。などというレベルではなく、全長、全幅、甲、踵と、すべての位置が同じなのだから、これは同一人物が造らせたとしか思えない
こちらはスマートなクレバリーとは異なり、丸々としたコッペパンのような形状のせいか、タイトなフィッティングではなく、ピッタリだけど足の指が自由に動かせる楽なフィッティングであった
購入した翌日、さっそく8時間ほど履いてみたが、やはりノンストレスで、履き心地はオールデンのバリーラストに似ている
トリッカーズはどれも踵がユルいので僕の足とは相性が悪く、かつて購入したのはよいが、3足ほど処分してしまった過去があるが、こちらはユルいどころかピッタリなのも驚きである
ここで脳裏をよぎったのは、1960年代のビスポークの英国靴、そして微調整も必要ないほど僕の足にピッタリ。この条件に当てはまる靴がもう1足あったことだ
ロンドンのメイフェア、クラリッジホテルの正面にあった英国軍の将校御用達、コンウェイ・ウィリアムズのストレートチップである
この靴に関しては……
https://ameblo.jp/pias-202/entry-12569277428.html
https://ameblo.jp/pias-202/entry-12569644055.html
このふたつの記事に詳しく書いているので、そちらを参照してほしい
1960年代という同じ時期にロンドンで造られた、ほぼ同じサイズのビスポークシューズ。もしこれが、同一人物が造らせたものだとしたら……
持ち主のもとを離れ半世紀以上の時を経て、その靴が東京で偶然出合う。まさにロマンと言えるだろう
ところが、これで話が終わったわけではなかった。このあとさらに驚きの展開が待っているなどとは、このときの僕は、まだ知るよしもなかったのである
この続きは……もう少し先、ジョージクレバリーが修理を終えて戻ってから記そう
†PIAS†
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