私たちは「今の動き」をしているつもりでも、実際にはこれまでの経験に基づいた予測をもとに身体を動かしています。これまで、身体は「予測→動き→感覚→調整」という循環の中で動いている、という話をしてきました。では、その「予測」はそもそもどこから来るのでしょうか。
答えはシンプルで、それは「経験から」、です。
脳は生まれた瞬間から、膨大な試行錯誤を積み重ねています。「こう動いたとき、こういう感覚が来た」という記録が、繰り返しの中で少しずつ積み上がっていきます。その蓄積が、予測モデルの土台になっています。
赤ちゃんが歩けるようになるまでのプロセスを思い浮かべてみてください。最初は重心の移し方も、足の踏み出し方も、わからない。転んで、立ち上がって、またバランスを崩す。そのひとつひとつが感覚として脳に届き、予測は少しずつ更新されていきます。
歩けるようになるのは、「正しい動き方を覚えた」からではありません。無数の試行錯誤を経て、予測の精度が上がっていった結果です。
ここでいう精度とは、「こう動けば、こうなるはずだ」という見込みと、実際に起きたことのズレが小さくなっていくことを意味しています。動くたびに生まれるこのズレがフィードバックとなり、次の予測をわずかに修正していく。その小さな更新の積み重ねが、動きを少しずつ洗練させていきます。
近道のように見える「正解」だけをなぞるやり方では、この更新は起こりにくいのです。予測が変わるためには、「思った通りにいかなかった」という誤差の経験もまた必要です。試行錯誤とは、その誤差を引き受けるプロセスでもあります。
そしてこの積み重ねは、新しい動きに出会ったときにも現れます。たとえ最初はうまくいかなくても、修正が早くできます。それは正解を知っているからではなく、「どこがズレているか」を捉える力が育っているからです。動きは、この小さな修正の積み重ねの中で変わっていきます。

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