私たちは意識的に考えることもなく、倒れずに立ち、歩き続けることができます。その背景にあるのが、姿勢調整としての反射的な仕組みです。

「反射」と聞くと、膝のお皿の下を叩くと脚が跳ね上がる、あの反応を思い浮かべるかもしれません。それも反射の一つですが、姿勢に関わる反射は、もっと静かで、目立たないかたちで働いています。

※ここでいう「姿勢に関わる反射」とは、単純な脊髄反射に限らず、脳幹や小脳なども含む、自動的な姿勢調整を広く指しています。

姿勢調整に関わる反射は、「感覚からの情報を受け取り、ほとんど意識を介さずに起こる身体の調整」です。姿勢が崩れたことに「気づいてから」動く、あるいは揺れを「感じてから」修正する、というよりも、「感覚入力 → 神経系での処理 → 筋活動」が非常に短い経路で結ばれ、身体が先に応答しています。多くの場合、私たちはその調整が起こった「あとで」結果を自覚しています。

ここで、前回触れた感覚・知覚・認知という3つのレベルに立ち戻ってみます。

感覚:反射の出発点
 ・筋がわずかに伸びた
 ・重心が足の外側に移動した
 ・頭の位置が変化した
こうした変化が、筋紡錘、皮膚感覚、前庭感覚などによって検出され、感覚情報として神経系に入ります。この段階では、「傾いた」「不安定だ」といった意味づけはまだ行われていません。

知覚:身体の“状態”が把握される
入力された感覚情報は統合され、身体が今、どの方向に、どの程度、安定を失っているか?という状態を把握します。このような、意識的な判断に至る前の身体の状態把握を、ここでは「知覚」と呼んでいます。
姿勢調整に関わる反射の多くは、このレベルで成立します。

「前に倒れそうだ」と考える前に、「前方へ傾きつつある身体」という状態が把握され、それに応じた筋活動が選択されます。

認知:あとから生じる「気づき」
反射的な調整が起こったあとで、
「今、少し揺れた」
「バランスを立て直した」
と理解することがあります。これが認知です。

認知は、姿勢反射を起こすために必須ではなく、起こった出来事を振り返り、意味づける段階だと言えます。


立位での微細な揺れを思い浮かべてみてください。
私たちは常に、前後・左右・斜めへと、ごくわずかに揺れ続けています。そのたびに「今は前」「次は後ろ」と考えているわけではありません。

感覚情報が入り、身体の状態が把握され、反射的に筋活動が調整される。
この繰り返しによって、結果として「立っていられる」という状態が保たれています。
つまり、 揺れを「感じてから」考えて動く、姿勢が崩れたことに「気づいてから」直す、のではなく、身体が先に応答してくれています。多くの場合、私たちはその結果だけをあとから自覚しているのです。

無意識で行われている姿勢調整が自然に働くための“下地”—感覚が入りやすく、身体が反応しやすい状態へと整えてあげることで、より良い姿勢へと繋がっていきます。

 

 

先週末はクライアントさん達とクリスマス会をしました🎄

 

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「姿勢を保つには、ちゃんと感じられていないといけない」
そんなふうに思われることがあります。

けれど実際には、私たちが“感じている自覚”がなくても、感覚情報は絶えず生まれています。

筋がどれくらい伸びているか。
関節がどの位置にあるか。
足裏にどんな圧がかかっているか。
頭がどの方向に傾いているか。

これらはすべて、筋紡錘や皮膚受容器、関節受容器、前庭器官といった受容器によって検出され、神経信号として中枢へ送られています。

つまり「感覚」とは、刺激が検出され、信号として入力される段階を指します。
この段階では、まだ「意味づけ」や「理解」は行われていません。

そして重要なのは、こうした感覚情報の多くが、意識にのぼらないまま処理されているという点です。

末梢で生まれた感覚情報は、そのままバラバラに使われているわけではありません。


視覚、前庭感覚、体性感覚など、複数の情報が中枢で統合され、
 今、身体はどんな位置にあるのか
 動いているのか、止まっているのか
 安定しているのか、揺れているのか
といった身体の「状態」として構成されます。

このように、感覚情報が統合され、身体の状態として立ち上がったものを「知覚」と呼びます。

たとえば、
 「なんとなく前に傾いている感じ」
 「右に体重が寄っている感じ」
 「少し不安定だな」
こうした感覚は、知覚のレベルにあります。

ただし、ここでも必ずしも言葉になる必要はありません。
気づいていなくても、説明できなくても、知覚は成立しています。

これまで見てきた姿勢調節やバランス反応の多くは、
 感覚情報が入力され
 → 知覚のレベルで身体の状態が把握され
 → それに応じて筋活動が調整される
という流れの中で行われています。

つまり、感覚 → 知覚 → 運動というループは、
私たちが「考える前」に、すでに回っているのです。

立っているときの微細な揺れや、つまずきそうになったときの一歩は、「姿勢を直そう」と考えた結果ではありません。知覚された身体の状態に応じて、運動が自動的に選ばれた結果です。

一方で、知覚された状態を、言葉や意味として理解し、評価や意図と結びつける働きを「認知」と呼びます。

たとえば、
 「姿勢が崩れている」
 「バランスが悪い」
 「意識して立ち直そう」
と感じたとき、ここではじめて認知が関わっています。

そして、姿勢調節や運動に必ずしも「認知」は必要ありません。

感じていないから、使っていないのではなく、
感じていなくても、感覚情報は入り、知覚レベルで統合され、運動に反映されている。

この視点を持つと、「もっと意識しなければ」「ちゃんと感じなければ」という力みから、少し自由になれるかもしれません。

身体はすでに、多くのことをうまくやってくれています。
身体の中で自然に生まれる感覚情報が、必要な形で使われる。
その前提条件を整えてあげることが、姿勢や動きの精度を高めていくことにつながります。

 

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「まっすぐ立つだけなら、感覚はそんなに必要ない」と思うかもしれません。ここで、目を閉じた瞬間に身体がふわりと揺れる、あの感じを思い出してみてください。ほんの一つの感覚(視覚)が弱まっただけで、身体はバランスの取り方を変えざるを得なくなります。姿勢とは、実は“見えない情報に支えられた現象”なのだと、教えてくれます。

足裏にどれくらい体重が乗っているか、膝は伸びているのか、肩が上がっているのか、呼吸が浅いのか深いのか。このような感覚はすべて、身体の内側から送られてくるシグナルです。そして、そのシグナルをどれだけ“取り上げられる”かによって、姿勢や動きの質は大きく変わります。

身体感覚にはいくつかの種類があり、それぞれが少しずつ異なる“役割”を担っています。
まず、皮膚で感じる触覚。足裏が床にどのように触れているか、靴下の布の感触など、ごく表面的な情報ですが、身体と外界の“境界線”を教えてくれる大切な感覚です。立っているときに足裏の圧が少し前に移れば、身体は自然とそれを“前へ倒れつつある兆候”として察知し、小さく調整を始めてくれます。

次に、筋肉や関節の状態を知らせる固有受容感覚。「関節がどれくらい曲がっているか」「どの筋がどれほど伸びているか」など。こうした情報は、身体の“内側にある地図”のようなもので、動きを精密にコントロールするうえで欠かせません。 私たちが目を閉じても身体の位置がわかるのは、この固有感覚のおかげです。 この地図の解像度が上がるほど、意図した方向にスムーズに身体を運べるようになります。

そして、重力や加速度を感じる前庭感覚。頭の位置がわずかに変化しただけでも、身体全体が姿勢を微調整しようとするのはこの感覚が働くからです。前庭感覚は、時間的な変化―動き出し・止まる・加速するといった“変化の瞬間”に特に敏感で、姿勢の安定には欠かせない基盤となっています。電車で揺れていても姿勢を保てるのは、この前庭感覚が速やかに働き、身体全体へ“揺れが来るよ”と知らせてくれているからです。

興味深いのは、こうした感覚は“ゆらぎへの応答”“ゆらぐ前の予測”のどちらにも深く関わっているということです。ゆらいだ身体を元に戻すためにも、これから起こりそうな揺れを察知するためにも、感覚の精度と豊かさが欠かせません。

もし姿勢が固まりすぎていたり、特定の筋がいつも緊張していたりすると、この感覚の流れが弱まり、身体は状況を読み取りにくくなります。逆に、呼吸が広がり、身体が軽く動ける状態になるほど、感覚はクリアに働き始めます。

姿勢を整える第一歩として、「感覚を取り戻す」というアプローチがとても大切な理由がここにあります。窮屈な形に当てはめるのではなく、まず“感じられる身体”であること。その土台が整うことで、フィードバックもフィードフォワードも働きやすくなり、結果として姿勢は自然と調和へ向かっていきます。

 

朝晩冷えて、霜が降りる日も増えてきました。踏んだ感覚がおもしろいみたいです。

 

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「良い姿勢とは?」と聞かれると耳にする”耳垂・肩峰・大転子・膝関節前部・外果の少し前”をつなぐ一直線の姿勢ライン。多くの方が、その目安へと身体を合わせようとします。
背筋を伸ばして、顎を引いて…、というように、このラインに身体を無理やり当てはめようとすると、かえって姿勢の本質から離れさせてしまうことがあります。

そもそもこのラインは、「機能的・効率よく立てている人は、結果としてこう見えることが多い」という観察指標にすぎません。つまり、“こう立てば良い”という形のレシピではなく、良い姿勢の“見え方”の傾向を示しているだけなのです。

姿勢を”形”として再現しようとすると、身体には余計な力みが生まれます。胸を張れば背中は硬くなり、顎を引けば首は詰まります。こうした緊張は呼吸を浅くし、身体への負荷を増やしてしまいます。

本来の姿勢は、静止に見えても細かな揺らぎの中で保たれる“動的な安定”です。バランスを保つために、筋肉や感覚は絶えず調整を続けています。そのため、身体を“まっすぐに固定”しようとするほど、この調整力が働きにくくなり、むしろ疲れやすくなるのです。

では、良い姿勢とは何でしょうか。
それは、呼吸が無理なく広がり、動きがなめらかにつながり、どこにも過度な力みがない状態。骨格が互いに支え合い、必要な筋肉が働きやすく、疲れにくい。心理的にも落ち着きやすく、長時間続けても負担が少ない。そんな“機能の調和”が整った状態です。

この“調和”が満たされたとき、見た目の姿勢も自然と整い、結果として「きれいなライン」に近づいていきます。それは形を作ったのではなく、機能が整った“結果”としてそう見えるのです。

一方で、不良姿勢は単なる「悪い癖」ではありません。
生活環境、習慣、疲労、心理的ストレス、さらには体調や疾病など、さまざまな要因が積み重なって現れる、身体からのサインです。外見だけを整えても、その背景が変わらなければ本質的な変化にはつながりません。

姿勢は、形ではなく、機能が整った“結果”として生まれるもの。
だからこそ、「一直線に合わせる」よりも、「呼吸しやすいか」「動きやすいか」といった身体の感覚に耳を傾けることが、無理のない姿勢づくりの第一歩になるのだと思います。

 

 

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前回触れた、“ゆらぎを受けて調整する”仕組みと並行して、もう一つ大切な働きがあります。それがフィードフォワード(予測的姿勢制御)です。

前回の話は、ゆらぎが実際に起こってから筋紡錘がそれを感知し、必要な調整を返す、いわば「起こったことへの応答」でした。一方フィードフォワードは、その逆です。まだ揺れていないうちから、身体が「これから起こりそうな変化」を先回りして準備するしくみです。

たとえば、ほんの少し腕を上げようとしただけで、体幹や足の筋肉がわずかに働き始めます。腕が上がれば重心が後方へ動く可能性がある。その“未来の揺れ”を予測して、前もって下半身の筋が小さく準備をするのです。

そしてこの仕組みは、もっと身近な“歩き始め”でもはっきり現れます。右足を踏み出そうとすると、実際に右足が動くより先に、身体はそっと重心を左へ寄せ、左脚に体重を預けられるように準備します。これがないと右足を浮かせた瞬間にバランスを崩してしまうため、身体は無意識のうちに未来の不安定さを察して、先に姿勢を整えているのです。

こうした“先まわりの調整”は、立っているときの小さな体重移動でも同じように働いています。「このままいくと少し前に寄りそうだな」「左に重心を移したいな」という意図を身体が読み取り、揺れが表に現れる前から多くの筋がわずかに働き始めます。
まるで、揺れが大きくならないよう、そっとブレーキをかけておくような感じです。この静かな準備があるからこそ、その後に起こるゆらぎを過剰な力みなく受け止めることができるのです。

つまり、立位姿勢を支えているのは
“起こった揺れに応じて戻す力”(フィードバック)と
“起こりそうな揺れに備える力”(フィードフォワード)
この両方が重なり合うことによって生まれています。

ゆらぎが生じてから動く身体、ゆらぐ前から先に動き出す身体。
この二つが繊細に協調していることで、立つことは“固めて耐えること”ではなく、“やわらかく調整しながら支えること”として成り立ちます。

立っているとき、「動き出す前の静かな変化」に目を向けてみると、フィードフォワードの存在を感じられるかもしれません。姿勢を見えないところで支えている、この静かな準備こそが、私たちの日常の安定をやさしく支え続けてくれているのです。

 

 

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