写真に救われた命 | 写真家 青木 弘 オフィシャルブログ

写真家 青木 弘 オフィシャルブログ

『アフリカを愛し、アフリカに愛された写真家』
アフリカの内戦を15年以上にわたり取材中。
国内外での個展、写真集などで作品を発表。
一つの国の戦争を終結へ向けて、アフリカ平和プロジェクト「PEACEis___(ブランク)」を発足。
http://www.peaceis.space

本気で帰国も考えなければならないのだろうか...

 

さらに追い討ちのようにアフリカの洗礼マラリアにかかり1週間以上も寝込んだ。

シルベスタたちが心配してわざわざ部屋まで医師を連れてきてくれたが、予算が底をついてしまっている以上こんなことに使うお金はなかった。

「俺は大丈夫だから、頼むから今は目の前の仕事に集中してくれ」と医師とみんなに帰ってもらった。

 

それでも問題は次から次へと起こるからそのたびに解決のためのお金が必要となる。

いつどんな問題が起こるかわからないからわずかに残った予算をそのときまで残しておく必要があった。

いったいどうしたら彼らはわかってくれるんだろうか。

 

空腹を水で誤魔化しても高熱はいっこうに下がらない。ベッドから起き上がるのもいよいよ辛くなり、ふとこのまま死ぬのかなぁと頭をよぎる。

すっかり心身共に疲れ切って何もかも諦めかけていた。

 

そんな時だった。

日本からメールが届く。

現在、京都で開催中の展示「泥まみれのメッセージ」がKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭KG+ Discovery Award 2024を受賞したとの連絡だった。

今や有力な国際写真祭での受賞を全く想像すらしていなかったから嬉しいというより正直ビックリだった。

週末には受賞セレモニーがあるらしくアフリカにいる俺はオンラインでの参加となった。

まだ熱もありベッドから起き上がれない。顔もすっかり疲れ切ってしまっている。本当にこんな姿をオンラインといえ晒していいものかと反省する。

しっかりしなきゃと気合いを入れ直した。

 

中央アフリカ共和国のことを伝える写真展が評価されての受賞。

副賞として来年、都内の富士フイルムスクエアでの展示が決定した。

そこのギャラリーは環境、設備、立地の全てが素晴らしくて、通うたびにいつかここで展示がしたいと夢見てた場所。まさかこんな形で実現するなんて思ってもみなかった。

もうすでに頭の中ではこうしてああしてと来年の大規模な展示のイメージが膨らんでいく。

 

中央アフリカ共和国という国を1人でも多くの人に知ってもらうための写真が日本で評価され、少しずつだけど確実に日本に「中央アフリカ共和国」は広まってる。

おかげさまでまた来年にはこうして新たなチャンスもいただいた。

それなのに当の本人はここ中央アフリカでくたばって何もかも諦めかけてる。

なんだか「負けるな!頑張れ!諦めるな!」って写真たちに言われてるような気がして受賞の嬉しさとは違うあたたかい涙が溢れてた。

 

写真たちに元気と勇気をもらう写真家なんて聞いたことないけど、どうやら俺はそんな写真家のようです。

 

少しずつだけどベッドから起き上がれるようになっていった。

くたばってた心身に再び血が通い始めた。

写真にこの命を救ってもらった。

 

今、俺はアフリカにいて始まったばかりのプロジェクトは間違いなく前に進んでる。

もし何かでつまづいてもきっとまた写真たちが俺を救ってくれる。

諦めてなんかいられない。

帰国なんかしない!

まだまだここでやれることがあるはずだ。

 

青木弘というスイッチが入る。