今日は犬事件以後は至って平和だった。
あんなデカい犬でも、アイツは意外と足は速かった。今度会ったら逃げ切れるかどうか不安に思った。おチビは結構オレについて歩いてるからな。守ってやんなきゃ。
しばらくして瑠璃さんがご飯を持って来てくれた。辺りはだいぶ暗くなって来たけど、ここには明かりもあるし、とにかく涼しい。いくらか食欲も出て来た。
瑠璃さんはいつもオレに一番に出してくれる。でも、食べるのは最後だ。チビとおっさんが食べ終わるのを見届けてから。理由はないけど、そうした方が良いと思えたから。
「どしたん?食わんのかい?」
❝にゃ?ちがうにゃ。もうちょっとみゃえに、デカい、いぬきて❞
「追いかけられた?」
❝ニャン。怖かったにゃ。❞
食べながらおチビが報告する。
「デカい・・・犬?」
❝そうにゃ!オレ等の何倍もデカい犬。多分ここらでは一番かな。❞
「そんなにデカい犬って、この辺にいたかな?」
瑠璃さんは顎に指を押し当て、空を見上げて考えていた。思い当たったのか、手を打って
「そっか!もしかしたらあそこんちの犬かも知れない。私が文句言っとく!」
❝うんにゃ、そこまでしにゃくても、だいじょ❞
「いや言っとく!ここはみんなの公園なんだから、鎖から離すなって。」
二人が食べ終わったので、今度はオレが食う。
「なんかさぁ、トラちゃんて貫禄?出て来たよね。」
❝かんりょく?❞
「うん。かん、、ろく、、、責任感、かな?守らなきゃって気持ち。」
❝うん、それならわかるにゃ。❞
「アハハ、そかそか。まだ難しいか?貫禄って言葉は。」
瑠璃さんは食べてるオレの頭を撫でてくれた。今少しで喉につかえるとこだった。
やっと皿に乗ってるご飯を食べ終えたら、
「ほい。みんなにご褒美!」
と言って、まだ1回しか食べてないちゅ~るを出してくれた。
❝ぼく、これ、だいすきにゃ。❞
おチビがハグハグペロペロと皿に出されたちゅ~るを美味そうに舐めてる。それを見てオレも食いたくなった。
「ほい、これはそっちの仔、これはトラちゃん。」
と二人の前に差し出してくれた。
❝これはごはんじゃないから、いっしょにくってもいいよな!?❞
うんうんとアイツが頭を縦に振る。おチビも笑ってる。よし!
食った。でも、何となく物足りなくて瑠璃さんを見上げる。
「ごめんトラちゃん。今はこれっきりなんだ。明日はもっと持って来るよ。」
そう言って空になった3枚のご飯皿を片付けると、また明日ね~~と帰って行った。
夜も大分更けて来て、空には星が瞬いている。
❝明日も暑くなりそうだな。❞
一人呟くと、聞こえたのかアイツもそだなと相槌を打った。
しばらくベンチの上で寛いでいると、公園の入り口で光る2つの目を見た。
❝何か・・・・いる。❞
そうは思ったが、何故かオレの背中の毛は逆毛立たなかった。
二つの目はこちらを見たまま動かない。どうやらそこに座り込んだようだ。オレはベンチを降りると、その眼に近づいて行った。いつでも逃げられる用意をして。
❝にゃっ!こんばんにゃ。❞
そいつはオレにびっくりしたように目を丸くし、小声で挨拶して来た。
❝こんばんは。どっから来たの?❞
❝あっち。❞
と、後ろ振り向いた。
❝一人?❞
❝うん。❞
❝親は?兄妹は?❞
❝母ちゃん、死んじゃった。兄弟は・・・・わかんない。❞
❝そっかぁ。寂しいな。❞
❝おにゃか、しゅいたの。たべりゅもの、ある?❞
❝今はないけど、明日になれば、おばさんが持って来てくれる。待てるか?❞
❝にゃんとか。❞
❝そか。じゃあこっち来て一緒に寝ようか?❞
❝うん!❞
その猫は、オレの後をついてベンチに来た。
❝今夜だけ、この仔を見てくんないか?❞
オレが新入りに声かけるとおチビが、
❝ボクがおじさんとこ行く。トラさんがこの仔、見てあげて。❞
(ほう!?こいつもいつの間にか大人びた事言うじゃないか。)
❝ありがとう。そうさせてもらうよ。❞
あん時ゃ、新入りもいなかったしこのチビもいなかったから二人一緒でいられたけどな。
オレはベンチの上で丸くなった。こいつもおチビ同様、オレの腹に頭をくっつけて丸くなった。と思ったらもう寝息を立てている。よほど疲れているんだろう?こいつもここにいさせた方が良いよな?
何故かオレはそんな事を思い始めていた。
つづく
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⁂: 前回記事よりだいぶ間が開いてしまいました。すいません。やはりこの暑さが
頭の回転や書こうという気持ちを鈍らせるようで、また、プチぎっくりも加わっ
て(今時点ではだいぶ良くなっては来てますが)ちょっとスランプ気味でありま
す。次回がまたいつになるのか、自分でも分かりません。出来るだけ間をおかず
に、とは思っているのですが。今の内は書きたくなったら書くで行こうと思いま
す。お許し願いたいです。申し訳ありません。m(__)m