ブルックナー 交響曲探訪 交響曲第9番 | 松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~

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ヨーゼフ・アントン・ブルックナー(Joseph Anton Bruckner / 1824年 - 1896年)

没後130年に寄せて、ブルックナー交響曲探訪シリーズを掲載しています。

総合概説の後、第00番から作曲年順に各交響曲の探訪を進めてきましたが、

今日の記事で各作品個別の探訪は最終回となります。

ブルックナーの最後の交響曲になった、しかも未完成に終わった、

交響曲第9番を探訪します。

 

1887年に「第8番」の作曲を終えた後にこの「第9番」の作曲に取り掛かったそうですが、

「第8番」や「第1番」などの旧作の改訂に時間を割くようになってしまいました。

結局、1892年に「第8番」の初演の後に、この曲の作曲に打ち込むようになりましたが、

今度は老齢による病状の悪化が始まってしまいました。

それでも1984年11月には第3楽章までを書き上げたのでした。

しかし、第4楽章の筆はなかなか進まず、脱稿に辿り着くことなく

1896年10月11日に息を引き取ったということです。

 

第3楽章までしか完成されなかった作品ですが、その内容は素晴らしいもので、

今日では演奏会のプログラムに度々登場する名曲となっています。

楽器編成は「第8番」とほぼ同様ですが、ハープは導入されていません。

ホルン8本(内5〜8番はワークナー・チューバ持ち替え)という特徴も

「第8番」を踏襲しています。

諸説が飛び交っている中で、ブルックナー自身の遺言のような形で、

『終楽章に「テ・デウム ハ長調」を組み込んで演奏しても良い』という説もありますが、

その信憑性には疑問があるとも言われています。

 

私個人としては、第3番から第8番までを一通り聴いた上で、

この第9番を聴くことをお勧めしたいです。

名曲の数々を残した上でブルックナー遂に到達した境地の深淵に触れる感動を、

たっぷりと味わえることでしょう。

 

♫ ♫ ♫ ブルックナー交響曲探訪 vol.11/交響曲第9番 ♫ ♫ ♫

         〜交響曲第9番 ニ短調〜

 

注釈)交響曲第9番 ニ短調 - - - - 1887-90年作曲(第3楽章まで完成)

 

第1楽章  Feierlich, misterioso (演奏時間:約26分)

ブルックナー開始(原始霧)の最終形とでも言うべき、厳かな冒頭の運びです。

次第に第一主題が明確に沸き上がっていきます。

勿論、三つ主題を要するソナタ形式による冒頭楽章です。

第一主題の提示では幾つもの動機が姿を表しつつ頂点に達します。

第二主題はいつものように弦楽器主体で柔和で且つ哀切な表情の音楽です。

「第7番」のエコーもチラリと顔を覗かせます。

第三主題の部分は弱奏から始まりながら次第に総奏となって盛り上がります。

「第8番」の第1楽章に比べると時間的な規模はかなり拡大しています。

展開部では概ね第一主題を中心とした発展が続きます。

その分、再現部では第二主題と第三主題の再現のみが明確になっています。

但し、展開部の終盤で第一主題を核とした壮大な発展が奏されるので、

再現部に第一主題が回帰しない物足りなさはありません。

この辺りのソナタ形式の扱いは、時折見られるブルックナー独自のものです。

再び弱奏から湧き上がるように発展して壮大なクライマックスに至るCoda(終結部)は、

ブルックナーの交響曲の冒頭楽章の集大成に誠に相応しい風格と勇壮さを湛えています。

 

尚、この楽章では「第7番」のエコーが随所の顔を覗かせます。

 

第2楽章  Scherzo: Bewegt, lebhaft (演奏時間:約11分)

ブルックナーの全交響曲の中で最も力強くまた厳しさを感じさせる楽想を持った、

強力なスケルツォ楽章と言えるでしょうか。

「第8番」のスケルツォ(第2楽章)と同様にスケルツォ主部に副主題が認められる

複合三部形式による構成と考えて良いでしょう。

これまでのブルックナーの交響曲のスケルツォでは、

Trio(中間部)はテンポを落として民俗的な舞曲風になっていたのですが、

この「第9番」では速いテンポで諧謔的に駆け抜けるような額装になっています。

ブルックナーが最晩年に到達したスケルツォ楽章の境地と言えるでしょう。

とにかく、凄まじいまでの重量感のあるスケルツォです。

 

第3楽章  Adagio: Langsam feierlich (演奏時間:約27分)

前作「第8番」の緩徐楽章(第3楽章)から更に世紀末風な度合いを深めたような、

どこか後のマーラーの「第9番」や「第10番」の誕生を予感させるような、

怪しげなまでに美しく壮大な楽章です。

マーラーが緩徐楽章でしばしば用いてきた A-B-A-B-A-Coda では説明しきれない、

やや複雑な構成法に達してもいます。

二つの主題の部分が前半に求められますから、ソナタ形式の片鱗が伺えます。

しかし、提示の後は展開と再現が渾然一体となっているように思われます。

変奏・変容・発展といった操作を駆使していく中で、

倍の音価で再現される第二主題が聴こえてきたり、

提示部で見られた高次和音が響き渡るクライマックスが回帰したり、

連綿と音楽が紡がれていきます。

最後は、穏やかな境地に達して、過去の作品の主題の回想も奏でられながら、

厳かに楽章を(そして未完成ながら全曲を)閉じます。

 

注)ブルックナー自身が完成させることができなかった第4楽章については、

  いくつかの版は存在していますが、ここでは触れないことにします。

 

3楽章までしか完成していない謂わば"未完成交響曲"でありながら、

演奏時間は1時間を超えることもある大曲になっています。

もしも第4楽章を完成させることができていたら、

第8番をはるかに凌駕する演奏時間90分級の壮大な作品が誕生していたことでしょう。

 

私の仕事場にあるCDをご紹介しましょう。

 

アントン・ブルックナー 交響曲第7番&第9番 CD / RCA BMG /  BVCC-8917-18

ギュンター・ヴァント指揮/ケルン放送交響楽団

 

 

最後に、マーラー指揮者として特に偉大な存在だったバーンスタインが指揮した動画を

リンクしておきます。バーンスタインは指揮したブルックナーの交響曲は、私が知る限り、

「第6番」と「第9番」のみです。この2曲だけは取り上げたバーンスタインの心情や

嗜好を、私はなんとなくわかる気がします。バーンスタインが特に愛着を抱いていたと思われる

マーラーの「第9番」との近似性がある作品だからだと、私は思っています。